試験も補習もレッスンも大変です 6
「ルルーさん、学年末試験お疲れ様でした。中間試験よりも更に点数が上がっているそうで、他の教員もあなたを褒めていましたよ。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
筆記、実技ともに試験が終了し、今週になって少しずつ筆記試験が返却され始めた。どれも満足のいく点数で気分は晴れやか、自信無かった教科は全部返ってきたのであとは不安なくドンと来い!って感じです。
そんな私は今、返却済みの試験の間違えた問題を中心にヴァン先生と復習している。個々に見ると間違いだらけという事は無いんだけど、学年末試験は教科数が中間よりも多い。その為、一通り復習をすると思ったより時間が過ぎていた。
「本日までに返却された分は以上ですね。」
「はい!間違えたところを教えて頂けてスッキリしました、ありがとうございます!」
「ルルーさん、今日はお菓子の用意をしているんですが、その…。」
「その前にダンスの練習!今日もして頂けるんですか?」
「…ルルーさんが僕相手で良いのなら。」
今までもやっていたダンスの練習なのに、なんか今日の先生は遠慮がち?嫌がってる訳ではなさそうだけど。
「先生もしかして、前にオルロージュ先輩に言われた事気にしてます?」
以前の先生と先輩のやり取りが脳裏によぎり、そうなのかな?と思って尋ねてみる。すると先生は一瞬肩を揺らし、その後ずれた眼鏡をクイっと整えた。当たりって事?
「あんなの無視して良いですよ。ダンスの練習で距離とか気にしてられないでしょ。」
「それはそうですが…。」
「ですよね!おしっじゃあ練習始めましょう、テーブル動かしますね〜。」
そりゃ私だって、最初は近くない?って戸惑いもしたけど。もう『今更何を』といった感じだ。躊躇う先生を引っ張ってスペースを作り、彼の正面に立った。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
少し両手を前に出す。ちょっと間はあったけど、彼は優しく私の手を取り、ダンスの基本姿勢を整えた。1、2、3…彼の口ずさむカウントに合わせ、ゆっくりとステップを踏んでいく。自画自賛だけど私のダンスだいぶ上達したなぁ。思わず顔が綻んだ。
「…試験が終わったという事は、モーヴェさんの屋敷でのダンスレッスンも再開するんですか?」
頭の上からのカウントが止まったかと思えば、質問が飛んできた。私は脳内で何となくカウントを続け、ダンスを継続しながらそれに答える。
「そうですね。今日はこの補習があったし、昨日とか一昨日はフルール様の都合でレッスンが出来ない状況だったんですけど、明日以降は予定が決まっていないので、おそらく…。」
あのサラ様とのスパルタ熱血レッスンを思い出すと、笑顔は笑顔でも苦笑いをしてしまった。良い人なのは、わかってるんだけどね…。
「でしたら、僕との練習は今回が最後ですね。」
先生の足の動きが止まる。そう言えば元々そういう話だったな、忘れてた。
姿勢はそのまま顔だけ上に向けると、レンズ越しの彼の瞳と目が合った。その眼差しは、心無しか少し悲しそうで。
「確かにそういう事になりますね。まさか先生にダンスまで教えてもらえるなんて思ってなかったので、本当に助かりました。先生と踊るの楽しかったです。」
「僕もです。」
最後の一言に共感してもらえて嬉しいと思った。期間限定とはいえ優しくて大人なイケメンと…ううん、ヴァン先生と踊った時間は、確実に楽しい思い出として私の心に刻まれただろう。
見つめ合ったまま時間だけが過ぎていく。先生はダンスを再開しようとしない。私の方から動こうとすると、何故か体と腕を引かれて静止されてしまった。
「……ーあの。」
ようやく動いたのは、彼の足ではなく口。
「何ですか?」
口が動いた後も身体を動かす素振りは見えない。何か大事な事を言おうとしてる、とか?
「ルルーさんは以前、ダンスのパートナーはいないと言っていましたよね。あの後、誰かからお誘いはあったんですか?」
「いえ全く。私みたいな平民を予めキープしたい物好きなんていませんよ。」
「アルブレ君には誘われていないんですか?」
「オルロージュ先輩ですか?いやー先輩女の子大好きなんで、いろんな子と踊ると思います、私を誘う訳無いじゃないですか。当日ノリで声かけてくる事は有りそうですけどね。」
「……。」
黙られてしまった。
先生はなんで今、パートナーの有無を聞いてきたんだろう。オルロージュ先輩の事だって、彼には関係ないはずなのに。もしかして、私を通して先輩が誰かと踊るか知りたかったの!?まさか先生、オルロージュ先輩の事を…いや流石に無いよね!確認したいけどこれはお口チャック案件!
「…だったら、僕が。」
「え?」
見つめていた2つのエメラルドは、何かを決意したような強い眼差しへと変化した。手と背中に触れていた手が外されると共に、その宝石はゆっくりと位置を低くしていく。
やがてヴァン先生は、私に対して片膝をついて跪くような姿勢となった。
「あの、先生?」
「これを伝えると、僕は嘘をついてしまった事になる。僕が伝えられる立場で無い事は、僕自身が誰よりもわかっているのですから。…それでも、どうしても嫌なんです。あなたが僕以外の男性の手を取る事が。」
先生は何を言ってるの?
そんな言い回しをされると、あらぬ事を考えてしまう。いやいやまさか。彼の次の言葉を予想して心臓が暴れ出す。焦る私の視界に、いつかと同じように差し出される彼の右手が入ってきた。
「トゥシェ=ルルーさん。今度の卒業パーティーで、僕と…
…ー僕と最後のダンスを踊っていただけませんか?」




