あなたの考えが私にはわかりません 6
フラムside続きます!&今回は長めになっています。
【フラムside】
翌日から数日の間学園を休む予定になっていたのは、ある意味都合が良かったのかもしれない。
あんな自分勝手な考えで、何も知らないトゥシェに怒鳴ってしまった。叔母様への対応や公務は勿論ちゃんと行うものとして、彼女と会わない期間に彼女と無関係な事をする事で改めて自分を見つめ直し、冷静になれる。そんな気がした。
ところが、何をしていてもトゥシェの事が頭から離れない。最後に会ってから時間が経つにつれて、会いたいという気持ちは膨れ上がる一方だ。公務は勿論やっている。しかし所々でミスをしてしまい、その度にフリュにこっそりフォローをされた。屈辱だった。
頭に浮かぶのは、最後に見た瞳に涙が滲む怯えた表情のトゥシェばかり。会わない期間に冷静になるどころか、むしろ会えない事で益々彼女について考えるようになってしまった。
会いたい。会って2人だけで話がしたい。
酷いことを言ってごめん、怖がらせてごめん。君に振り向いて欲しいだけなんだ。君が他の男の話をするのが許せないんだ。心が狭いことは自覚している、でもこれが俺の本心なんだ、どうか受け入れて欲しいとー…。
そして今回の叔母様へのもてなしの集大成とも言えるパーティーの夜になった。
今晩のパーティーが終わりあと1泊すれば、明日の午前中には叔母様は王城から隣国への帰路に着く。明日の見送りが済んだら遅れて登校する事は学園に報告済みだ。俺は一刻も早く学園に行って、ランチの時間にトゥシェに会いたかった。
この夜のために地方から取り寄せたという特産品を使った料理、色とりどりに飾られた花や彫刻や装飾品…どれも上等な品ではあるが、俺にとっては何一つパッとしない。
あの料理をトゥシェが食べたらどんな顔をするか…この飾り見たらトゥシェはどんな感想を述べるだろうか…表面上は重鎮の話し相手をしているも、頭の中は彼女の事ばかりだ。
しかし公務は公務。割り切って励まないと王太子に相応しい人間とは言えない。先日お飾り婚約者にも注意されたばかりだ。
「ご機嫌ようフラム様。今夜の王城はいつにも増して輝いてますわね。」
重鎮の対応がひと段落ついてドリンクを飲んでいると、例のお飾り婚約者…フルールに声をかけられた。上等なドレスに身を包んだ着せ替え人形のような装いで、令嬢のお手本のような佇まいで。
「そうだな。」
「このパーティーは、国王陛下だけでなくフラム様やフリュ様も尽力されたと聞きました。この盛り上がりはあなたとフリュ様の努力の賜物なのですね。」
「まぁな。」
フリュと同列で褒められるのは癪だが、事実なので否定が出来ない事が悔しい。形式上ではあるが俺の婚約者だろ?もう少し言い方は無いのか。
「話はそれだけか?俺はここ数日忙しかったから疲れてるんだ、大した用が無いならほっといてくれ。」
鬱陶しく感じて、フルールに立ち去るように仄めかす。しかし、彼女は立ち去るどころか更に1歩、俺に近づいてきた。
「用ならありますわ、大切な話…トゥシェさんについてです。」
フルールの言葉は、この場の空気にしらけていた俺の興味を引くには十分すぎるものだった。
フルールはトゥシェと仲が良い。悔しいが、俺が知らない彼女の情報を知っている可能性はかなり高いだろう。そのフルールが、わざわざ俺に彼女について伝える事があるだと?
「トゥシェに何かあったのか?」
平成を装い聞き返す。フルールは一息ついて、周囲に人がいない事を確認してから口を開いた。
「…ー私は、フラム様とトゥシェさんに仲良くなっていただきたくて、ランチの時にいつも快くあなたを迎えていました。トゥシェさんとお話するあなたはとても楽しそうで、私も嬉しかったのです。…けれど、近頃のあなたはどこか様子がおかしい。先日はトゥシェさんに向かって大声を出して…何をそんなに焦っているのですか?
あなたが私の事を『国の都合で決められただけの婚約者』としか思っていない事は重々承知しています。私に対する恋愛感情が無いのもわかっています。私に対して、公的な場以外でどのような態度をとられても気には留めません。
けれどトゥシェさんに対しては別です。トゥシェさんには、私達のような家柄というしがらみなど無い。彼女はただ、明るく彼女らしく真っ直ぐに生きているだけ。私はそんな彼女が大好きなのです。」
何なんだ、トゥシェの事じゃ無いのか?フルールは俺に何が言いたいんだ。
「…そんな彼女が今、あなたという存在に怯えています。先日の件もそうですが、それ以前にも様子がおかしいあなたとの関わり方にトゥシェさんは戸惑っていました。それでも、お2人が親しくなれるようにと、私なりに力添えをしてきたつもりです。
でももうこれ以上は無理ですわ。不安な気持ちのトゥシェさんに、その原因とも言えるあなたを近づけるわけにはまいりません。
今一度、ご自分の言動を振り返って頂けませんか。そして態度を改めてください。そうでなければ、私はもう二度とあのベンチにトゥシェさんを連れて行きません。」
…は?
「…何だよそれ。お前に何の権利があって、俺とトゥシェの接触を禁じることが出来るんだ?馬鹿な事を言うんじゃ無い。そもそも様子がおかしいって何だ、俺のどこが変だって言うんだ…お前みたいな飾りの婚約者に、そんな事を言われる筋合いは無い!!」
頭に血が昇る。カッとなって、残りのドリンクを一気に飲み干した。そして勢いよくグラスをテーブルに置き、早足でその場を立ち去った。
フルールの俺を呼び止める声がするけど聞こえないフリをする。
図星だ。
フルールに自らの心の内を暴かれた事がどうしようも無く腹立たしく感じて、俺はそのままパーティー会場から飛び出した。
トゥシェに会うな?そんなの無理に決まってる。それに会いたく無いとトゥシェ本人が言ったんじゃ無いだろう?
このままでは埒があかない。本当に俺に会いたく無いのか、トゥシェ本人に確認しなければ。
今すぐにでも…彼女に会いに行かなければ。
思い立ってからの行動は早かった。王城の奥の方の一室…あらゆる魔術道具が保管された部屋に入り、彼女の寮の部屋にすぐに行けるような道具を探した。本来、保管部屋には必要時以外入ってはならない。バレたら何か言われそうだがどうでもよかった。
風の高等魔法、空中浮遊ができる鳥の羽を見つけた。確かこの羽を用いれば、浮遊の他にも風圧調整が出来たはずだ。
俺は羽を掴み部屋を出た。1番近くの窓を開けて、羽に魔力を注ぎ空中に飛び出す。パーティー会場から見えないルートを通りながら、必死に目的地に向かった。
空中浮遊は不慣れな俺には難しいものだった。けれど気にしていられなかった。こんな事がバレたら嫌われてしまうかもしれないが、俺は水面下でトゥシェについて色々情報を集めている。だから彼女の部屋がどこにあるか知っていた。
ようやく着いた彼女の部屋の窓の前。こんな時間にごめんな、でもどうしても、今、直接お前と話がしたいんだ。俺の言い分を聞いて欲しい…そして全て聞いた後に、笑って俺を受け入れてくれたら…
羽に更に魔力を注ぐ。目の前の窓がガタガタと揺れ始め、やがて風圧に押し負けた施錠が外れ、ゆっくりとそれは開いた。全て開ききった事を確認し、俺は窓枠に足をかけた。
トゥシェ、話を聞いてくれ。俺はー…
「お前、こんな所で何やってんの?」




