あなたの考えが私にはわかりません 5
【フラムside】
その日は突然やって来た。
ここ最近の俺は、学園が休みの日は殆ど父である国王陛下の指示で公務にあたっている。
この日もそうだった。父上とモーヴェ公爵と、近々来国予定になっている叔母様への対応についていろいろ話し合いをした。ようやく詳細が決まり解散となったので、裏手の出入り口から外に出て空気を吸いに行こうと歩いていた時、反対から歩いて来たフリュが声をかけてきた。
魔法王国ソルセルリーの第2王子で、俺の弟。
才能の塊のような弟は14歳にして2分類の魔法を操るだけでなく、勉学や武芸にも優れている。また、平民の町に足繁く通い城下の発展にも貢献した。そのくせ本人は奢る事なく、誰にでも平等でー…皆公にはしないが、両親や国民の期待が俺よりも弟に向いている事は最早明らかだった。
時期国王は俺なのに。俺だって、立派な統治者となるべく努力しているのに、どうやってもフリュの才能を超えられない。このままでは王太子という立場が弟に奪われてしまう。王太子で無くなったら俺には何も残らない…。
だから俺は弟を避けた。負けないように更に努力した。これ以上、アイツに奪われないように。
しかし、話を切り上げようとした俺の耳に予想外の言葉が飛び込んできた。
「…兄上、時の魔法の使い手のトゥシェ=ルルーさんはご存知ですよね。」
まさか弟の口から彼女の名前を聞くとは思わなかった。
逸る心臓を押さえつけて、冷静を装いながら尋ね返す。
「勿論。彼女がどうかしたのか?」
「今日、城下で彼女と会ったんです。城下町はあまり詳しくないようだったので、いろいろ案内して来ました。素敵な女性でしたよ…兄上は彼女と会った事はありますか?」
…トゥシェと会った、だと?
いろいろ案内をして…素敵な、女性?
今日弟に起こったであろう出来事を脳内に浮かべる。長時間を彼女と共に過ごし、彼女の明るさや愛らしさを感じて、そしてー…。
またなのか。
お前は俺からあらゆる物を奪っていったのに、また奪うのか?
弟よりも出来の悪い王太子と後ろ指をさされる日々。そこから俺を救う太陽のように光を与えてくれた彼女までも…奪うというのか?
それだけは許さない。
煮えたぎるような怒りに蓋をして俺はその場を足早に去った。
しかし少し経った頃、その蓋は思わぬ形で壊れて外れる事になる。
いつも通りのランチタイムだった。…いや、いつも通りと言いつつも俺は焦っていた。
トゥシェがオルと魔法実技をするようになった時も焦ったのに、フリュと親しくなったとあっては今度こそ本当に彼女を奪われるかもしれないと気が気でなかった。それだけはなんとしても避けたい。俺は何とかして彼女の気を引こうと必死だった。
それでもやはり、トゥシェが俺を見てくれているとは思えなかった。誰を見ているのか、誰かを見ているのかすらわからないが、俺を見ていない事実だけは肌で感じていた。
その時ふと、俯いた彼女のヘアゴムに飾りがついている事に気がつく。
「…そのヘアゴムどうした?」
「えっ、あーこれですか?ちょっと前に城下町で買ったんです。安物ですけど可愛いでしょ?」
ちょっと前に、城下町で?もしかして、フリュと会った時に購入した物か…?
何気なく聞いた問いへの彼女の返答に、俺の中でプツンと何かが切れた。
「…せ。」
「…はい?」
「そのゴム今すぐ外せ。」
「…なんでですか。もしかして殿下の趣味と違いました?でも私は気に入ってるんで」
「いいから外せよ!!」
勢いそのままにヘアゴムを取り上げようと手を伸ばす。しかし手が届く前にそれをフルールに諭されハッとした。目線を落とすと、そこには今にも泣き出しそうな怯える瞳のトゥシェと目が合う。違うんだ、俺が見たいのは、そんな顔じゃ無くて…。
嫉妬と苛立ちに任せた自分の言動に嫌気がさして、先程まで彼女に向けて伸ばしていた手で自らの頭をかく。
「…すまない怒鳴ったりして。でもやっぱり、そのヘアゴムは外してくれないか?どうしても…見ていられない。」
「フラム様、その言い方はいかがなものかと。」
「分かりました、取りますね。」
「トゥシェさん…。」
情け無い。こんなだから、俺は弟に全てを持っていかれるんだ。
でもトゥシェが欲しい、奪われてなるものかという気持ちは本物だ。トゥシェだけは、何があっても譲れない。
俺は一体どうすれば良い…?




