あなたの考えが私にはわかりません 2
予知夢の件と昨日怒鳴られた事が頭をよぎり、昨日以上に殿下に会いたくない気持ちが大きい。それでも無常にランチタイムはやって来る。フルール様に心配をかけてしまったし、これ以上彼女に心労をかけたくはない。
本当は行きたくないけれど、殿下の事が好きなフルール様の為…!私は自分の気持ちに蓋をして、彼女と殿下が会える時間を潰さないように意を決した。
「フルール様、ランチ行きましょう!」
「!ええ、行きましょう。」
ちょっと勢いよく言い過ぎたからか、少しびっくりさせてしまったらしい。でも勢いよく言わないと私の行きたくない本音がバレてしまいそうだったので、私はそのままのペースで足早にカフェに向かって進んだ。
ランチを受け取り裏のベンチに向かうと、どうやら殿下はまだ来ていないようだった。正直とてもホッとしたけれど、それをフルール様に悟られないよう必死で表情筋を固定する。
いつ殿下が来ても平常心を保てるように気を張り詰めて、一口、また一口とランチを口に運びながら、来て欲しくない人が来る瞬間を待ち構えた。バレてなるものか、本当はめちゃくちゃびびっている事実を悟られてなるものか…!
しかし、私の緊張の糸は、フルール様の次の一言でプツンと切れてしまった。
「…ーフラム様なら、本日は学園に来られていませんよ。」
…えっ。
「…そう、なんですか?」
「はい。隣国に嫁いだ国王陛下の妹君…フラム様にとっての叔母様が、本日王城に来られる事になっているんです。5日ほど滞在される予定で、その期間はフラム様もフリュ様も公務の補佐や、叔母さまのお相手をする為に学園を休まれると聞きましたわ。」
そ、そうなの!?つまり今日は、いや今週はフラム殿下に会わなくて済むって事…?
気持ちが緩んで力が抜け、持っていたパンを落としそうになった。地面に着く前に慌ててパンをつかみ直す。
「…今日、フラム様をあなたと会わせたくなかったので、私はホッとしています。」
どういう事?確かに私は、殿下と会わずに済む事がわかってめちゃくちゃホッとしたけれど、フルール様が安心する理由ってあったっけ?
「どうして、そんな風に思ったんですか?」
私と殿下の接触を無くしたいと思う何かがあったのかな。殿下との関係が進展したから、ヤキモチ要員の私はお役御免…とか?
しかし彼女の返答は予想外のものだった。
「…トゥシェさんは気づいていらっしゃいますか?最近、殿下の様子が今までとどこか違う事に。あの方は元々…いいえ、この学園に入学された頃から、基本的に自分の弱みを悟られないような態度をお取りになるのです。ですが、近頃のフラム様はなんだか焦っているようなのです、その焦りに私が気づいてしまう程に。そして昨日、はっきりと理由は仰いませんでしたが、彼はトゥシェさんに大声をあげました。あのような状況で声を荒げるなど王族として…いいえ、人として如何な事かと思いました。」
あれ、お役御免とかそーゆー話じゃ無さげ?
それよりも、殿下の様子がおかしい事にフルール様も気づいてたんだ。まぁ私が気づくくらいだもん、もっと長く殿下と付き合いがある彼女が気づかない方がおかしいか。
フルール様がゆっくりと、優しく私の手の上に手を添えた。そして私を真っ直ぐに見つめる。眩いペリドットの中に、どこか不安そうな顔をした私が映り込む。
「…これ以上フラム様がおかしな態度を取られるようなら、私がトゥシェさんをフラム様から守りますわ。その先に何が待っていようとも、あなたを傷つけるくらいなら私はこの身を挺して私の運命を受け入れます。」
「…えっと、どういう意味ですか…。」
「目的が変わったのです。あなたの笑顔が好きだから、あなたに…幸せになって欲しいから。」
添えられた手に少し力が込められる。しかし相反するように彼女は優しい笑みを見せた。
本当に意図がわからない。フルール様が何を考えてこんな事を言ったのか、殿下に大声出された時と同じレベルで理由がわからない。
「そうと決まれば行動しなければ!私、今度の休日は叔母様が宿泊する最後の夜に王城で開催されるパーティーに行くんです。その際フラム様に思っている事をいろいろ言ってきますわ。安心してください、トゥシェさんに迷惑はかけません。ああ、いろいろ溜まっているから楽しみですわ!」
何かを決意したらしいフルール様は、晴れやかな表情をしていた。
反面、私はわからない事が増えてますます気分がもやついた。




