誰か私を悪夢から救ってください 6
時刻はそろそろ21時。寮の廊下は静まりかえっていた。
普段なら自室で勉強か読書をする事の多いこの時間に、私は動きやすいパンツスタイルで寮の裏口へと歩いている。目的地に到着すると、そこには既にオルロージュ先輩が待機していた。
「こんな時間に来ていただいてありがとうございます。」
「気にしないで、うち門限とか無いし。じゃ、早速だけど案内するね。」
制服よりかなりラフな、平民っぽい服装をした先輩に着いていった。
先輩と協力しつつ放課後の時間を使って、就眠時に部屋に置いておきたい私の私物は粗方彼の部屋に運び終わっている。あとは身ひとつでその部屋に移動するだけ。そしてそこで眠り、朝になったら自分の部屋に戻って魔術の痕跡が無いか確認すれば良い。昼間に提案された計画はざっくりこんな感じだ。状況的に早起きはしないといけないけど、朝に弱くは無いので問題無い。
待ち合わせ場所…寮の正面ホールでも良いのでは?と思ったんだけど、「こーゆー隠密行動的なのは裏口の方が雰囲気あるじゃん♪」という先輩の提案で裏口集合となった。まぁ正面ホールだと必ず寮母さんの部屋の隣を通らないといけないので、万が一鉢合わせしたら誤魔化せる自信無かったし…ある意味良かったのかもしれない。
「着いたよ、この木だ。」
雑草と土の地面を建物沿いに進むこと数分。到着を知らされて先輩の指差す方を見ると、そこには月明かりに照らされた立派な広葉樹がそびえ立っていた。
単純な道のりではあるけど、本当なら放課後のうちにここへ連れて来てもらったほうが、道のりとかの詳細わかりやすかっただろうな。でもその時間帯だと下校する生徒に見られて変な噂が立つかもしれないので、この時間になった。わざわざ来てくれた先輩には本当に感謝します。
「想像以上に大きい木でした。これ窓の横にあったら、景色全然見えないでしょ。」
「そうかもね。あの部屋に入ったのはほんの数回だから、そこまで気にした事ないや。」
「うわぁ部屋が勿体ない。」
「寮どころか学園にすらほぼ行ってなかったんだよ?使うメリット無いじゃん。」
そうだけど。ボール村の生活を知っている私からすれば宝の持ち腐れ感が尋常じゃない。貴族様には理解できないかもだけどね。
「それじゃ登っていこう。俺の部屋は2階だよ、先に行くから着いて来てね。」
先輩はふぅと一息ついてから木を登り始めた、私もそれに続く。でも木登りは私の方が得意なようで、先輩が登るペースに合わせて追いかけているのがこちらとしては焦ったくなった。余裕で抜かせるけど今は案内してもらってる身…先輩はやく進んでくれ。
やっと窓に到着、目的の部屋に侵入する。先に入った先輩が部屋の明かりをつけた。
レモンイエローの絨毯の上には、ダークウッドで統一された真新しい家具が点々と配置されている。そこに生活感は一切無く、よく言えばモデルルームのようだ。中央に置いてあるテーブルの上には、私の私物がまとめてある袋が置いてあった。使い古し感満載のそれはこの部屋てとても存在感を放っている…悪い意味でだけど。
「慣れない雰囲気かもしれないけど、設備自体はトゥシェちゃんのいつもの部屋と一緒のはずだから。もし不便が有れば、明日会った時にまた教えて。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「じゃあ俺帰るね!おやすみ。」
「もう帰るんですか?お茶飲んで休憩してからでも…。」
案内してもらいましたーはいさようならーでは、あまりに忙しないのでは?こちらとしてはしばらく厄介になるわけだし、部屋の持ち主にもちょっとくらい休んで欲しいのだが。
お茶どこだっけーと思いながら荷物を漁る。
「…トゥシェちゃん、それどういう意味で言ってる?」
「?どういう意味って、そのままの意味ですけど。」
それ以外に何の意味があるというのか。彼の意図が理解できなくて首を大きく傾ける。
すると先輩は何故か少し困った様な表情をして、そのまま窓の方へ歩きこちらに振り返った。
「こんなシチュエーションで男引き止めちゃ駄目だよ。俺は『先輩』を全うしたいから帰るの。今度こそ、おやすみ!」
次の瞬間にはもう、彼は部屋から姿を消していた。時間停止を発動してその間に帰ったのだろう。
ちょっと言われた意味がわからんな〜と思いながら、漁って見つけた茶葉を使って1人分のお茶を用意する。茶葉を蒸らしている間に、軽ーく部屋を見てまわったけど、使われた形跡のない生活用品が見つかるばかりだった。
飲み頃になったお茶を口に含み、今朝からの怒涛の1日を振り返る。
フラム殿下に襲われる夢で目覚めて、ランチ時に殿下に怒鳴られて。夢は私の魔法で見る映像だと理解して、魔力を使わなさすぎるのも良くないと知って、視た映像の未来回避の為にオルロージュ先輩の部屋を使う事になって…。
本当に疲れたな…お茶で身体が温まると、途端に眠気に襲われた。
何でもいい、魔法使わないとまた変な夢視るかも…でも視たばっかりで私の魔力減ってるらしいし…今日はいいか…。
食器を片付け、明かりを暗くしてベッドに倒れ込む。新品でくたびれのない布団は完璧フィットとはいかないけど、私に眠りを誘うには充分過ぎる感触だった。




