誰か私を悪夢から救ってください 5
…ーは?
いやいや、頭おかしいのかなこの人。男に襲われないようにする為に、別の男と一緒に寝ろと?やっぱりこいつただの女好きだったのか!相談して損した!!
「こんな時に何言ってるんですか!?殿下いなくても先輩がいたら、元も子もないじゃ無いですか!!」
また大声出しちゃったけど今回は私悪くないでしょ!当の本人は何故かキョトンとしてますけどね!それどころか、キョトンの次はさっきの私に負けないボリュームで大爆笑し始めました、なんなんですか。
先輩は笑って溢れかけた涙を拭いながら言葉を発した。
「違う違う。部屋っていうのは『寮の』俺の部屋!家具は一通り揃えてるけど1回も使った事ないんだよね、寮に泊まるメリット無いし。」
あ…そういう事?勘違いに気づいて顔がどんどん熱くなる。あらぬ疑いをかけてすいませんでした。
「俺も端折って言ったし驚かせちゃったよね、ゴメンゴメン。えっとね、部屋を使ってもらう分には問題は無いんだ。ただ流石に、男子寮ゾーンをトゥシェちゃんが歩くのはあまりよろしく無い。そこでだ、俺の部屋は2階で窓の横には大きな木がある。トゥシェちゃんは木登り出来る?」
「出来ます余裕です。」
当たり前だ。私がどこで育ったと思っている?自然が遊び場のど田舎ボール村だぞ!
「流石だね。だったら窓を開けておくから、木登りして俺の部屋に出入りして欲しい。…本当だったらトゥシェちゃんが移動する時に、時間停止の魔法をかけるのがベストなんだろうけど。トゥシェちゃんが移動するタイミングで俺が魔法を使える状況とは限らないからね。」
「魔法のタイミングまで合わせてもらうなんて申し訳ないです。大丈夫です、木登り大得意なんで。」
ドヤ顔してやった。笑ってもらえた。
寝床は確保出来たとして、次の問題はそれをいつまで続けるかだ。殿下襲来を回避できたら一刻も早く自分の部屋に戻り、慣れた布団で眠りたい。
「その場にいなくても殿下が来たと知る為には、どうしたら良いんだろう…。」
再び頭を抱える。しかし先程と違い、それは私だけだった。待ってましたと言わんばかりに先輩は棚の方に向かい、引き出しから巨峰サイズの濡羽色をした石を取り出して私に見せて来た。
「これは魔術が使われたか知る事が出来る道具だよ。トゥシェちゃんの視た映像からして、フラムは窓から侵入してくるよね。でもアイツが使えるのは炎の魔法だけだから、窓からの侵入には魔術が不可欠なはずだ。」
この世界では『魔法』と『魔術』は定義が異なり、己の中にある魔力のみで繰り出すものは魔法と呼ばれている。
一方魔術は、道具や術式に魔力を注いで繰り出すもの。難易度にもよるけど、これを使えば本来なら使えない分類の魔法も発動出来たりするのだ。転移門にある魔法陣は、ここでいう術式にあたるらしい。
「なるほど。私の部屋3階だし、隣に木はないですしね。使うとすれば風の魔術で浮いてくる…とかかな。」
「あり得るね。窓の開け方も、風や水で圧をかけて無理矢理隙間を広げたり、植物を隙間から生やして鍵の解除をする可能性もあるな…。この石は、半日以内に半径5メートル以内で魔術が使用された痕跡があると色が変わるんだ。何色かで使われた魔術の分類もざっくり知れるけど、今それは重要じゃ無い。」
そうですね。本当は何色が何なのか知りたいです所ですが、それどころじゃ無いので後日自分で調べますね。
先輩はスッと私にその石を差し出した。受け取ると、見た目の割には重みがあってひんやりしている事がわかった。
「トゥシェちゃん、これからしばらくの間は寮の俺の部屋を使うんだ。勿論、夜中の寝る時以外は自分の部屋に戻っても問題無い。ただそこで寝落ちはしないよう注意してね。夜は俺の部屋で寝て、朝の登校するまでにこの石で魔術の痕跡がないか確認する。そしてどうだったかを俺に教えて。どのくらいの期間になるかわからないけど…俺は君を守ってみせるよ。」
真剣な表情だった。
第一印象ではチャラチャラして最悪な人だったのに、それが信じられない程の真っ直ぐな眼差し。
イケメンに、こんな顔で守ってみせるなんて言われたら普通女子はキュンとするのだろう。実際私もなんだかドキッとした。でもこの感じ…なんか落ち着かない。前にも似た様な事があった気がする…。
そうだ、フルール様の屋敷で開かれたお茶会でフラム殿下と2人になった時だ。あの時は確か、殿下に顔を赤くしながら綺麗だと言われて…。
って!今はその殿下に変な事されない為に、色々考えてたんでしょうが!!
落ち着け〜、落ち着け私ぃ〜。
心の中で深呼吸をして、心臓にしずまれと念じながら先輩にお礼を言った。
「…ありがとうございます、よろしくお願いします。」




