誰か私を悪夢から救ってください 4
「…ーこれで全部です、聞いていただいてありがとうございました。」
私からの話が済んだ事を伝えると、先輩はとても複雑そうな表情で軽く腕を組んだ。事前勧告はしたけどやっぱり不快だったんだろうな、フラム殿下を悪者扱いしてるようなものだもん。
先輩は幾度も顔の向きを変え、私の話に対する返事を必死に探している様だった。何かを絞り出したのか、それとも整理が付いたのか。彼が口を開くまでそれほどかからなかったけど、私にはかなりの時間が経ったように感じた。
「…君が思うように、今朝みたのは夢じゃ無く魔法による映像だろうね。眠っている間に魔法を発動するなんてイレギュラーな事したら、いつも以上に魔力が減っててもおかしくないよ。おそらく無意識のうちに両手のひらが布団に触れて、君は布団に関する映像を視たんだろう。」
「やっぱりそうですよね。…私今まであんな経験してないです。だから、その…。」
あの映像は未来に起こる事なのだろう。いつなのか、何がきっかけなのかはさっぱり予想がつかない。
「寝てる間に魔法使ったのは今回が初めてなんだよね?」
「そうです。ランダムに発動してた時も、さすがに睡眠中には発動しませんでした。最近コントロールが出来るようになり始めたのに、どうして…。」
それもショックのひとつだった。せっかく煩わしいランダム発動から解放されつつあったのに、また振り出しに戻った感覚がして。
「トゥシェちゃんは今まで、魔法をランダムに発動する事で体内の魔力を適度に放出していたんじゃないかな。それが最近、コントロールの技術がついた事で放出頻度が格段に減ってしまった。そしてトゥシェちゃんが生み出す魔力が、トゥシェ自身の容量を超えてこんな形での魔法発動に至った…こう考えるのが俺的には1番しっくりくるね。」
「て事は私、コントロールを極めれば極める程、睡眠中に魔法乱発するようになるって事ですか!?起きてる時問題なくても寝てる時それじゃ、コントロール練習する意味ないじゃ無いですか…!」
酷い!寝る時ぐらいゆっくり眠らせてくれ。でも起きてる時にノーコントロールな生活に戻るのも嫌だ。こんなに自分の魔法を疎ましく思うのは初めてかもしれない。
先輩に大声で当たってしまった、先輩はちっとも悪くないのに。当たられた当人は困り顔で私に答えた。
「俺達はただでさえ膨大な魔力を持つ時の魔法使いだ。俺も君も、魔力はまだまだ増え続けるだろう。本来なら魔力を増やすのは簡単じゃ無いし、増えるのは喜ばしい事だ。時と心以外の魔法使いは、魔力を増やす事で違う分類の魔法が使えるようになるからね。でも俺たちはそれが出来ない。なのに魔力は勝手に増える。これを解決するにはどうすれば良いと思う?」
まさかのクイズが飛んできた。聞きたいのはこっちだってば。そんなの、適度に魔法使っていくしか思いつきません。
「…容量オーバーしないように魔法を発動する。」
「ハズレじゃ無いけどそれは△、そんな事してたらキリがないもん。正解は、自分の中で魔力の生産量をコントロールする!要は魔力生産が適量になるように魔力を使うんだ…わかる?」
…いやわかんないよ。初耳だし、そもそもそんな事が出来るんですか?
「わかんないです。先輩、やってるんですか?」
サラッと口にするという事はそういう事だろう。そう思って確認したのに、先輩は私の予想とは裏腹に首を横に振った。
「これに関しては俺も練習中なんだ。そもそも基本的に必要のない技術だから、方法に関する資料が少ないんだよ。資料を読んでもあとは実践して感覚を覚えるしか無い。調子がいい時は成功するけど、基本的には上手くいかなくてね。皆には言ってないけど、俺ちょいちょい時間止めてるんだよ?知らなかったでしょ。」
先輩はへへんと悪戯っぽく笑った。そのお茶目な表情と、完璧かと思っていた彼にも出来ない事があるという発見で、気持ちなんだかほっこりする。…ほっこりはしたけど、つまり私は今後も適度に魔法を発動していかなければならない事もわかった。先輩が出来ない魔法が私に出来るはずがないので。
「魔力のコントロールに関してはこの辺にしておいて…トゥシェちゃん。このまま何もせずに過ごしていたら、君は間違い無くいつかフラムに襲われる。無意識のうちとはいえ、この未来を予測出来たのはある意味ラッキーだった。問題はそれがわかった上でどうやって予防するか…。」
「そうですね…私の布団に関する映像だから、布団変えるとか?でもそれだけだとなんか不安が残るな。しばらく別の場所で眠れたら1番良いんでしょうけど…。」
2人で顔をしかめる。辺境出身寮生活の平民娘が、学園生活に支障をきたさない寝床を寮以外で見つけるなんて可能なの?
頭を抱えていると、先輩が先に何か思いついたようで顔つきが晴れやかになった。そして私に向き直り、明るい声色でこう言った。
「だったら俺の部屋使えばいいよ!」




