2度目の城下町は開拓といきましょう 8
【ランドルside】
王都から、何度目かの手紙が届いた。そして今回は荷物もあった。中身は鶏肉を用いた瓶詰めの保存食…と、靴紐。
いやだからなんで?靴紐よりいい物にしろって散々手紙に書いただろ。…そうかトゥシェの事だ、その文章を読んだからこそのチョイスだな、アイツ…。
いつもと同様に、俺の両親宛てと俺宛ての手紙は別になっている。俺は自分宛ての手紙と靴紐を取って自室に入った。
1人になった所で手紙を開けて熟読する。
初めての定期試験で予想よりいい点数が取れた事、それを時の魔法使いの先輩に言ったら馬鹿にされた事、試験が落ち着いたので城下町の知らない部分を開拓した事、その際第2王子にお世話になった事…。
便箋を持つ手に力が入る。ぐしゃぐしゃにしてしまいそうになったので慌てて手放し、それらをベッドに放り投げた。危ねぇ危ねぇ。
どういう事だよ。前回もらった手紙では、トゥシェはオルロージュ?って先輩の事を女たらしで距離感が近いと散々愚痴っていたじゃないか。それが今回はどうだ、馬鹿にされたとは言いつつも、他の文の節々から彼と親しくなっているとわかってしまう。第2王子だって、1度会ったきり接触は無いと書いていたのに…城下町を案内されてすっかり仲良くなったらしい。
駄目だ。どうしても辛い。手紙のやり取りでしか彼女と繋がっていられない自分の現状が歯痒くて堪らない。今すぐ彼女のもとへ駆け出したい。駆けつけて、この腕の中に捕まえて、そのまま連れ去ってしまえたらどれだけ良いか…。
あーーっ!!
ウジウジと、どうしようもない事を考え込んでしまう自分が情け無くて泣きたくなる。連れ去るなんて出来るはず無いだろ。それに、万が一出来たとしてもそれを彼女が望むはずが無い。彼女が望まない事を俺はしたくないんだ。
トゥシェからの手紙を読むと、毎度悲しい思考が巡り、やがて自暴自棄に陥ってしまう。それでも手紙は嬉しい。俺への手紙だ、これを書いている時、彼女は俺の事を考えてくれているはずなんだ。
ため息をひとつついてから、乱雑に散らばった便箋を集めて封筒の中に片付ける。封筒をテーブルに置いて、俺自身はベッドに倒れ込んだ。自分自身が嫌で仕方がない。
…ー毎回毎回、よく飽きずに不貞腐れるわね
ドアの向こうから声をかけられた気がした。ガチャリ、とゆっくりドアを開けると、そこには俺の思っている通りの人物が立っていた。
「…母さん。」
「全くもう…我が息子がしょっちゅうメソメソするから、お母さん心配で堪らないわ。」
図星過ぎて無言になる。母さんはやれやれといった表情で俺の部屋に入って来た。
「…。」
「…。」
ドアを閉めたきり母さんは喋らない。用事が無いなら出て行って欲しい。
俺は再びベッドに向かい、そこに腰をかけて母親を見つめる。彼女は話すタイミングを図るかのように、おもむろに部屋をウロウロし、やがてテーブルに置いてある手紙を見つけた。そしてスッと手紙を手に取った。
「…ランドル、トゥシェちゃんに会えなくて寂しい?」
「そりゃあ勿論…生まれてからずっと一緒だったし。」
「…それだけ?」
母さんの柔らかい口調は普段通りのはずなのに、俺の心臓はドクンと跳ねる。
それだけな訳無いだろ。幼い頃から好きで好きで堪らないトゥシェにもう数ヶ月会えていない、胸が張り裂けそうだ。
「…そうよね、それだけなはず無いわね。」
俺は答えなかったが察してくれたらしい。母親に自分の恋愛事情を察されるのは癪だが、言わされるよりはマシだ。
「トゥシェちゃんのそばに行きたいと思ってる?」
「当たり前だ。けど俺は魔法が使えない。王都に行っても、学園でトゥシェと過ごす事は不可能なんだ。」
「…ーー本当に、魔法が使えないと思ってるの?」
…ーえ?
「…だってそうだろ。トゥシェが魔法に目覚めてから、俺は自分の番を待っていたけど一向に来なかった。何年も経った今だって魔法は使えない。でもそれは母さんもだろ?父さんも母さんも魔法が使えないのに、俺が使えるはず無いんだよ。」
自分で言っておきながらとても苦しい。魔法が使えない現状は、俺自身が1番良くわかっているんだ。
俯く俺の隣に気配を感じる。どうやら母さんが隣に座ったらしい。
「ランドル。あなたは昔から人を思いやる事が出来る子だったわ。他人の気持ちの変化に敏感で、相談に乗ったり背中を押したりしていた。
…ーーまるで、相手が何を考えているか見えているかのように。」
母の言葉と鋭い眼差しに身体が凍り付く。心臓が暴れて止まらない。
どういう事だ?母さんは、何を言っている?
俺が…
…ー自覚もなく、他人の心を覗き見ているとでも?
「ランドル。もしあなたが本当にトゥシェちゃんのそばに行きたいと、望むのなら…
…ー私があなたに魔法を教えてあげる。」




