2度目の城下町は開拓といきましょう 7
【フリュside】
学園寮の入り口で彼女を降ろし、スエテが御者を務める馬車の箱の部分には僕1人になった。
トゥシェ=ルルー、彼女と会ったのは2回目。しかし1回目の時は殆ど会話もなかったので、今日が初めてのような感覚だ。
城下町…特に東方面では、スリや痴漢等の犯罪がなかなか多い。警備隊の配置を工夫してから件数自体はだいぶ減ったが、無くす事はとても難しい。それらの輩を捕まえたのも1度や2度では無い。案の定、と言っては悪いが今日もスリ現場に出くわした。でもまさか被害者が彼女だとは思わなかった。
フルール様と親しい様子から信用はしていた。ただ、どんな人柄なのかは明るい人だなぐらいの印象でしか無かった。ところが今日、彼女と過ごすうちにただ明るいだけの人物では無いと理解する事が出来たのだ。
コロコロと万華鏡の様に変化する表情、見ているこちらまで気持ちが明るくなる天真爛漫な笑顔、そして遠方の故郷を想う優しい心。
彼女の隣はとても居心地が良く、本人の許可無しに友人だなんて言ってしまった。友人になりたいのは本心だし、彼女は受け入れてくれる気がしたから。トゥシェさんは嫌がる様子を見せなかったので、友人と認めてもらえたようで嬉しかった。
楽しかったと伝えたのは僕の社交辞令無しの本心だ。人と関わる事があまり得意では無い自分が、1日でこんなに仲良くなれたと思った事は初めてだった。
「フリュ様、王城に到着しました。」
馬車が停止し、外からスエテの声が聞こえる。
装飾の無い地味な馬車から降り、王城の裏手の目立たない出入り口を使って我が家に戻った。
フード付きのマントを脱いで腕にかける。すれ違う度に一礼してくれる使用人達に礼を返したり声をかけつつ進んでいると、廊下の反対側からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。
「兄上、お勤めご苦労様です。今日は何をしていたのですか。」
歩いてきた彼…僕の唯一の兄であるフラムは、父上とモーヴェ公爵と話し合いをしたとだけ答える。
魔法王国ソルセルリーの王族は、王の子として男児が生まれた時点で王太子の称号を与える。故に長男である兄上は、生まれ落ちた時点で将来この国を担う重圧を負った。兄は他人に弱音を吐く事もなく日々誰よりも努力し、名実共に認められる王太子であろうとしている。
僕は第2王子という事もあり、兄ほど公務に関わっていないし、婚約者すら決まっていない。だからこそ特に気負う事も無く、のびのびと魔法や勉強に励む事が出来た。そのおかげか、僕は10歳になる頃には水の魔法を極めてしまい、光の魔法が使えるようになっていた。
その頃からだろうか。優しかったはずの兄が僕を避け始めた。僕と過ごしていた時間も、勉強や魔法の練習に明け暮れる様になった兄。彼が魔法学園に通い始めると、ますます兄弟の距離が出来てしまった。
忙しい兄の代わりに自分に出来る事はないか。その何かを求め、僕は城下町に足を運ぶ様になる。そこで出会った人達はとてもあたたかくて、王城よりも心地よいとすら感じた。いつの間にか僕の正体は知られていたが、それでも変わらない態度の町の人達の存在が有り難くて、この人達の役に立ちたい、と思うようになった。
城下町をより良くする活動をすれば、自分でも父上や兄上の役に立てるのでは無いか?兄は僕の活躍を認めてくれて、昔のように仲の良い兄弟に戻れるのでは無いか?大好きな城下町の役に立つだけで無く、兄との関係修復も出来るかもしれない。僕は無我夢中で町を良くする為に奔走した。
結果。
城下町の発展に繋がり、国王である父も喜んでくれた。しかし兄との関係は修復するどころかますます悪化してしまった。僕の活動を知った一部の貴族や国民が、次期国王には王太子の兄では無く第2王子の僕を推そうとしている…という噂が流れたからだ。
悲しい事にこの噂は事実だった。城下の人々や夜会で会った貴族、挙げ句の果てには僕の従者であるスエテでさえ、会話の節々にそのような事を言い始めたのだ。
僕は兄を尊敬している。努力家で、次期国王という重みを1人で背負う彼を支えたいとは思うが、王太子の座を奪おうなどとは微塵も考えていない。表立って兄が治める王国を影ながらサポートする、それが僕の夢であり目標なのだから。
ああ、またろくに会話も出来ずに兄上が行ってしまう。僕はもっと話したいのに。
「…兄上、時の魔法の使い手のトゥシェ=ルルーさんはご存知ですよね。」
「勿論。彼女がどうかしたのか?」
何か話題を…と考え、ふと浮かんだ彼女の事を口に出す。兄上は足を止めててこちらに振り返った。
「今日、城下で彼女と会ったんです。城下町はあまり詳しくないようだったので、いろいろ案内して来ました。素敵な女性でしたよ…兄上は彼女と会った事はありますか?」
緊張を隠しつつ返事を待つ。しかし、次に聞こえたのは声では無く、早足で去る兄の足音だった。去る前の兄は、今まで見た事のない程悲しげな、でも怒りに満ちたような表情をしていた。
結局また、お兄ちゃんと話せなかった。




