2度目の城下町は開拓といきましょう 4
ちょ、痛い、誰か知らないけどぶつからないで。人という人を潜り抜け、ようやく店構えがしっかり見えてきた。輝く黄金の油から掬い上げられる薄い衣をまとった唐揚げが、客とのやり取りに応じて袋に詰められていく。はやく、はやくそれを私のお口に…!
「すい「おっちゃん10個ちょうだい!」
「すいま「こっちには5個ね!!」
「すいませ「そこのにいちゃん!8個お待たせ、代金は…」
…やばい。周りの圧が凄すぎてお店のおっちゃん全然気づいてくれない。生半可な気持ちではいけないという事ね。息を吸い、タイミングをみて大きな声を出した。
「おっちゃん私に唐揚げ5つちょーだい!!」
「オッケーちょっと待ってねお嬢ちゃん!」
よかった通じた!私はホッとしつつ、唐揚げを受け取るまでこの人集りに埋まるわけにいかないと必死に最前列に張り付いた。目の前たら立ち込める美味しい香りに思わずお腹の虫が反応する。
「お嬢ちゃん5個お待たせ!代金200レンね!」
「はーい!」
この世界の通貨単位はレンという。価値は日本の円とほぼ同じで響きも似ている。私は支払いの為に、ポシェットの中の財布を探した。
…ーあれ?
「無い!!!?」
しっかりとポシェットに入れたはずのお財布が姿を消している。嘘でしょ、さっきの買い物の後ちゃんとなおしたのに!?もしかしてスられた?いつ!?!?
私の様子がおかしい事に気づいたのか、お店のおっちゃんと周囲の人達がなんとも言えない視線を向けてくる。やめて注目浴びたく無い、しかも迷惑かけてる…どうしようどうしよう!?
少しずつ血の気が引いてきたその時。
「うぎゃあッッ!!!?」
「!?」
人集りの向こうから男の人らしき悲鳴が聞こえてきた。何事かと思った周囲の人々の視線が私から外される。少しだけホッとしつつ自分の危機的状況に変わりはないので、今後の身の振り方を色々脳内シュミレーションする。
「…この中で、白い財布を紛失した方はいませんか?」
悲鳴と同じ場所から違う声が聞こえた。…白い、財布?
大急ぎで唐揚げ店の人集りたら飛び出し、声の主が掲げる財布を遠目から確認する。間違い無い。
「それ私のです!!」
驚く周囲、こちらに気づく声の主。声の主の背後では、中年の男の人が30歳くらいの男の人に押さえつけられている。私に近づいてくる声の主、フードで顔が良く見えないな…。
「あっ。」
「あっ!」
「いや〜。まさか第2王子殿下にお財布取り返していただくなんて…。恐れ多すぎです、本ッ当にありがとうございました。」
「礼には及びません。たまたま通りかかった時に、あの人集りから挙動不審な男が出てきたんです。声をかけたら逃げようとしたので捕まえたら案の定…と言った感じですよ。」
私のピンチを救ってくれたのはフリュ殿下だった。彼と会うのはフルール様達と城下町に来た時以来だ。確か、城下の散策が好きだと仰っていたっけ。私にとっては2回連続の遭遇だけど、彼にとっては何回も来ているうちの偶然の2回なのかも知れない。
「スエテさんもありがとうございました、犯人捕まえてくださって。」
「いーえ、フリュ様もこう仰っているんです、気にしないでください!」
フリュ殿下の隣でガハハと笑うのはスエテ=ド=ワトーさん。フリュ殿下の側近で、彼が城下に行く時は必ず一緒だという。そういえば以前会った時も殿下は誰かを連れていた、あれもスエテさんだったのね。
スエテさんは側近という割にはがっしりとしていて、逃げようとするスリの犯人を自慢の筋肉で押さえつけてくれた。その間にフリュ殿下が財布を回収、持ち主がいないか問いかけたらしい。なんと素敵な連携プレー。
あの後、誰かが呼んでいた警備の人が現れて犯人を連れていくまで、スエテさんは一切力を緩めなかった。最後の方の犯人は顔面蒼白気味になっていて、財布を取られたくせにちょっとだけ哀れに感じてしまった。
犯人が去った後の周囲は拍手喝采状態。特に唐揚げ店のおっちゃんが感心してくれて、私達3人に自慢の唐揚げ定食を無料で提供すると言い出したのだ。私は断ろうと思ったのにフリュ殿下が快諾してしまった為、仕方なく店内に案内してもらい今に至る。
本音を言うと超絶ラッキー!大好きな唐揚げが、タダでもうすぐ私の目の前に…!
目の前に王族がいるというのに、店内に充満する香ばしい香りだけで再びお腹の虫が暴走しそう…いろんな意味で定食の到着を今か今かと待ち構えた。




