2度目の城下町は開拓といきましょう 3
一晩超えて次の日の朝。小鳥のさえずりが心地良い快晴だ。私はウキウキしながら身支度を整えて寮の外に出た。気温も丁度良いし、なんてお出かけ日和なんだろう。私は軽やかな足取りで歩き始めた。
寮から城下町までは、大人のペースで歩いても1時間はかかるらしい。ヴァン先生に生徒なら申請すれば無料で利用できる馬車を勧められたけど、私はそれを活用しなかった。馬車に乗るのは慣れたようでやっぱり慣れないし、何より馬車でしか通った事のない道を、自分の足で歩いてみたいと思ったから。歩く事でしかわからない風、空気、日差し。木漏れ日や建物の大きさ、流れる雲を、ありのままに感じたいと思ったの。
今日の私の装いは、貴重品を入れたポシェットにぺたんこの靴、そしてお母さんが作ってくれたワンピース。ボール村から出発する時に身に付けていた服だ。村の感覚で他所行きかつ上品に作ってくれた物だけど、グリモワールさんが用意してくれた服と比べるとどうしても質が…いや、全然素敵なワンピースなんだけど、そもそもの生地とかにどうしても差が出ちゃうからお母さんは悪くないんだよ!?
フルール様やトリオの誰かとお出かけする日だったらこのワンピースは着ていない。でも今日は1人だし行き先だって庶民的と言われる場所だ。だからこそ、母の手作りワンピースの出番だと思ったんです。ただあの頃よりも気温が下がっている為、薄手の上着だけは用意されていた質の良い物を羽織らせていただいた。
どれくらい歩いたのか、気がつくと人通りが増え始めていた。更に足を進めると向こうの方に賑わいが見え始める。あの人集り、もしかして!
心なしか歩くペースが速くなる。馬車がゆとりを持って通れる広い道を渡って、ようやく目的地の入り口らしき場所にたどり着いた。
「着いた…ここが、城下町の東エリア!」
寮からは西エリアより東エリアの方が近いと聞いていたので間違い無い。歩いて来られた達成感、そしてこの奥はどんな風になってるのかなというワクワクで、疲労感は一切無かった。はやる気持ちを抑えつつ、周囲にぶつからないよう気をつけて町に入った。
「いらっしゃい!焼きたてのパンはいかが?」
「この石鹸どうだい?汚れがごっそり落ちるよ〜。」
「今日の目玉商品は採れたてのリンの実だよさぁ買った!」
隙間なくずらりと並んだ数えきれない程沢山のお店。あちこちから聞こえる呼び込みの声。それに呼び寄せられ、店頭でやり取りをする商人と客。鼻をくすぐる焼いたり煮たりされた食べ物の匂い。そして何より、溢れんばかりのこの活気…!
例えるなら、前に行った西エリアは首都圏の高級百貨店で、ここは下町の商店街。上品さとは程遠いかもしれない、でも笑ったり残念がったり怒ったり。この場所は飾らない人間らしさが滲み出ていて、とても居心地が良く感じた。
「どのお店に行こう。迷っちゃうなぁ…そうだ!」
ポシェットから先生に貰ったメモを取り出し、キョロキョロと看板を見ながら進んでいく。とある角を曲がった先に、メモに書いているお店のうちひとつを発見した。ほんのり甘く香ばしい香りがしてくる。ここは、いつかの補習で先生が用意してくれていたマフィンが売っている店らしい。
「すいませーん!マフィンって何種類くらい味がありますか?」
「いらっしゃい。日によって変わるけど今日は10種類だね。お勧めは1番人気のチョコチップと、季節限定のマロンだよ。」
チョコチップ1番人気なんだ!先生が買ってきたのもチョコチップだったな〜、本当に美味しかったから納得。また食べたい…けど、ここはせっかくなので。
「じゃあ、マロンひとつください!」
「あいよ、まいど!」
代金を支払ってマフィンを受け取る。先生の言っていたように食べ歩きしてる人結構いてるなぁ。じゃあ私も!と思い、次のお店を探す為、マフィンを食べながら歩みを再開した。
いくつかの店で買い物をした後、突如今までで最高レベルにいい匂いがした。食欲をそそる揚げ物の匂い…!勢いよく匂いの方に顔を向けると、人集りの向こうに『唐揚げ』と書かれた看板が目に入った。
嘘、この世界でまさか唐揚げに出会えるなんて…!!
唐揚げは前世の私の大好物だった。西洋風のこの世界には無縁の料理とばかり思っていたけど、こんな場所に存在していたのね!予想外の嬉しい再開にはやくも涎が滴りそうになる、おっと危ない。
どうしても食べたい。そろそろお昼時という事もあり増える一方の人集りに、えいと気合を入れて飛び込んだ。




