フルール様の屋敷でお茶会です 5
「……。」
「……えっ?」
姿を現したのはフラム王太子殿下だった。少し息が乱した彼は、私達の方を見て視線そのままに固まった。
「ふっ、フラム王太子殿下!ご機嫌ようですわ!」
最初に言葉を発したのは驚いた様子のスザンヌ様。釣られてオリヴィア様、シャルロット様も挨拶するとともに、慌てた様子で殿下に向かって淑女の礼をとった。そして小声でキャーキャー盛り上がりだした。
「ご機嫌ようフラム様。本日の公務はお済みになったのですか?…フラム様?」
棒立ちしている殿下の近くにフルール様が歩み寄る。彼女から声をかけられ、殿下はハッとした様子を見せた。そしてだんだんと顔が赤くなっていく。どうしたんだろう、フルール様に急ぎの用事でもあったのかな。それで慌てて訪問したらドレス姿のフルール様があまりにも美しすぎて意識しちゃったとか!?なにそれ楽しい、そーゆーやり取りもっと頂戴!
「…今までに無い速さで済ませたぞ。」
なんか殿下にチラチラ見られてるような気がするんですけど…ああ、私もドレス着てるからか。制服姿と見違えちゃったとか?なーんて、あるはず無いな、うん。
フルール様に話があるなら私達は退散しないといけないよね。薔薇園、見たかったけどまたの機会作ってもらえるようにお願いしようかな。殿下とフルール様で何か喋ってるみたいだけど、この距離だと聞こえないなあ。タイミングを見て帰りますって言おう。あ、その場合このドレスどうしたら良いのかな、着替えだけ誰かに手伝って欲しい。
「…あの、皆様。」
フルール様が私たちの方に振り返る。お開きにします宣言ですね、婚約者の王太子放っておく訳にはいかないもんね。
「フラム様に今から追加でお茶を用意しようと思うのですが、全員でもう一杯頂いていると薔薇園に行く時間が短くなってしまいますの。私は自ら薔薇園の案内をしたいのでここに残る事は難しいです。でも殿下をお一人で残すわけには参りません。トゥシェさん、申し訳ないのですが、こちらでフラム様のお相手をお願い出来ますか?」
…ーはい???
「えっ…?私も、薔薇園、見たいんですけど…。」
ちょっと何言われてるのか理解不能なんだが。私、殿下と2人でお茶するの…?
「勿論、日を改めて薔薇園には招待します。この中でフラム様と最も親しいのはトゥシェさんですわ。それに薔薇園までは少し距離があります、慣れない靴を履いた状態で歩くのは、後ほど辛くなってくるかと…。」
まじか。そうなのか距離あるのか。それなら仕方ない…って、ならないでしょ!自分の婚約者と他の女が2人になるシチュエーションを、どうしてわざわざ作ろうとするんですか!?殿下も何か言ってくれたら良いのに、なんでずっと黙ってるの?
私が返答に困ってわたわたしている間に、フルール様は周囲の使用人にあれよあれよと指示を出して手筈を整えてしまった。抗う術もなく、私は再び席に座らされる。嗚呼、置いていかないでください私も薔薇園に連れてって…。
心の叫びが届く事は無く、フルール様とトリオの姿はどんどん小さくなっていった。
彼女達が消えた方を見つめていると、ふと人の気配を感じた。いつの間にか殿下が私の隣に座っていたらしい。
なんか全然こっち見ないんだけど。さっき見られてたのはやっぱり気のせいだったのね。
それにしても、今日の殿下の服装…ザ・王子様!って感じで本当に小説の登場人物みたい。中身のことを考えると悔しいけど本気でかっこいい。紺のロングジャケットには金糸で細やかな刺繍がされていて、重厚な雰囲気を醸し出している。光沢のある生地であしらわれたブラウスの首元で、光る留め具は彼の瞳と同じガーネット。つい、まじまじと観察してしまう。
「…トゥシェ。」
「何ですか?」
「その格好であまり見つめないで貰えるか…?」
その格好?ドレスと私が不釣り合いすぎて見てられないって事?みんな、褒めてくれたのに?
「殿下失礼じゃ無いですか?仮にもドレスアップした女性相手に、見てられない発言するなんて。」
「違っ…!」
殿下が勢いよくこちらを向いてバチっと目があった。途端に彼の赤みが残っていた顔が更に赤く染まる。そして視線を泳がせた。
…なんか調子狂うな。いつもの殿下だったらもっと積極的に話しかけてくるし、こっちが困るくらいグイグイ詰め寄って来るのに。
「……だから。」
「?聞こえないですもう一回言ってください。」
「だから、その……」
何このモジモジ殿下?ギャップありすぎて気持ち悪いんですけど。文句があるならハッキリ言って欲しい。
「…トゥシェがあまりにも綺麗だから、どうしたら良いか戸惑ってるんだよ。」




