ようやく会えたあなたは予想外でした 5
…えーと、これどういう状況?
私、ドアに向かって立っている。男の人の右手は、私の背後からドアに付けられている。しかも聞こえた声はかなり近いところからっぽい。
…後方至近距離に男がいる!?
えっ、なんでこんな事になってるの?てか誰。振り向きたいけど振り向いたら顔近い可能性が…それは困る!
「ねーえ、トゥシェちゃんって君だよね?何も言ってくれないとか俺、寂しいんだけどー。」
固まっているといきなり左の耳元で囁かれた。次の瞬間肩を掴まれ、くるりと半回転させられる。そして声の主、今度は私の顔の両サイドに腕を伸ばして背後になったドアに手をついて…
この姿勢…もしかしてもしかすると、前世で一時期大ブームを巻き起こした『壁ドン』というやつなのでは!?前世含めて初の体験だけど!!
…頭上から笑いを堪えるような音がする。見上げると赤毛のイケメンが楽しそうにしていた。本気で初めて見る顔なんですけど。私、初対面の人にファースト壁ドン奪われたって事ですか。
「トゥシェちゃんっていろんな顔するんだね、可愛い。」
目の前の人の発した言葉に思わず固まる。何こいつ、チャラいんだけど。
私の様子が変わった事に気づいたのか彼の笑いはだんだん収まってきた。目と目が合う。優しそうな少し垂れた瞳は、トパーズのように鮮やかな黄色をしていた。
「初めまして、俺、オルロージュ。仲良くしてね♪」
少し顔を傾げて笑いかけられた。イケメンの至近距離スマイルッ…眩しいです!…眩しいんだけど流石に近すぎる。男慣れしてない私はもうどうすれば良いのって状況だ。
無言のまま突っ立っていると、反応が薄い事に不満だったのか彼は口をへの字に曲げた。そして閃いたって表情をした後、ドアに付けていた右手を動かして私の顎に…って、ちょちょちょ!?!?
壁ドンだけでは飽き足らず、顎クイまでするか!!
「トゥシェちゃんの瞳って星空みたいに綺麗だね。吸い込まれそう。」
そう言って、私の瞳をじっと見つめながらだんだんと距離を詰められる。待って、このままだと前世込のファーストキスまでもが見知らぬ男に強奪される…!!?いくらイケメンでも、それは勘弁して!?!?
「ち…近い!!!!」
ゴッ!!!!
無我夢中で咄嗟に膝を蹴り上げた。
私の膝は見事に目の前の男の急所にヒットしたようで、彼は声にならない声をあげながら顔面蒼白、涙目になっている。そしてそのまま力無く倒れ込んでしまった。
「初対面の人間に対してなんてことすんのよ!いくらイケメンでもやって良い事と駄目な事があるでしょ、このナンパ野郎!!」
彼からの返答はない。潤ませた死んだ目でこちらを見るだけ。
これ以上危害を加えられる事はなさそうってか出来なさそうで、私はホッと胸を撫で下ろした。
って、こんな所で道草食ってる場合じゃなかった。せっかくヴァン先生が補習の為に時間作ってくれてるのに、遅れて行くとかめちゃくちゃ失礼じゃん。
改めて、チラッと倒れる男の人の様子を確認する。うん、まだ立ち上がる事は無さそう。
少しだけ痛む良心を見ないふりして、私はその場から立ち去った。
早足で先生の部屋に向かいつつ、頭の中でさっきの出来事を振り返る。
なんだったんだろうあの人、時の魔法の実技部屋に用があったのかな、てかなんで私の事知ってたの?時の魔法が使える平民編入生だから?いや、そうだとしてもあんなにグイグイ迫ってくる必要ある?ないでしょ。
…不登校の、時の魔法が使えるって先輩が私の噂を聞いて様子を見に来た、とか?
可能性はあるな、見たことないのは本当に初対面だから。あの時間にあの場所に来たのは私に会いに来たから。そう考えると腑に落ち…
遭遇理由は腑に落ちたとしても、あの態度は腑に落ちませんね!
グリモワールさんの話だと確か軍人家系の御子息のはず、軍人ってああもチャラチャラした生き物なの?私にはそんなイメージは無いぞ。しかも女の私に倒されてるし。まぁ、急所に不意打ちぶっ込んだからなんだろうけどさ。…あれ、あの倒れてる光景、どこかで見た気が…。
「…あ。」
そうだ、ついさっき私が魔法発動した時に視た光景だ。あれさっきのあの人だったのね。
「直近すぎでしょ〜なんか損した気分。」
「…っなんだよあの女。表情コロコロ変わるし、俺のアプローチに靡かないし、あげく金的してくるって…めちゃくちゃおもしれーじゃん。……いてて…。」




