初めての城下町散策です 5
「フルール=ド=モーヴェ公爵令嬢様、本日はご足労いただきありがとうございます。」
目的の靴屋さんに到着すると、40代くらいの男の人が出迎えてくれた。流れるように奥の個室に案内されると、そこには煌びやかなパンプスやらヒールの高い靴が沢山用意されていた。
「事前に伺っていたご要望を踏まえて用意させていただきました。他にもございますので、お気に召すものがなければ申し付けくださいませ。」
凄い徹底してる。流石フルール様曰く評判の店。
さっきまでの件があるからここでも私の分を選ぶつもりなのかもってちょっと、いやかなり思ってたけど、どうやらフルール様靴は本気で買う気だったらしい。スクレさんと2人でめちゃくちゃ吟味を始めた。
私にはどれも素敵で、この中から選べーなんて言われても決められない気がする。なーんて思いながら、盛り上がっている2人を横目に室内のソファに腰掛けた。目線が下がった事でひとつの靴が目に入った。
白いパンプスだ。正面に自分の瞳と同じ瑠璃色の石が小さく付いている他に装飾のない、至ってシンプルなパンプス。ヒールもそれほど高くない。…あれくらいだったら私でも履けるかな?
「あちらの靴が気になるんですか?」
「えっ!?いや別に…それよりフルール様の靴は見つかったんですか?」
「ええ、既にスクレが手配をしているわ。」
いつのまにか隣に来ていたフルール様が私の視線の先の靴を指さして問いかけてきた。びっくりした時に変な声がでるのも直さなきゃ…恥ずかしい。
スクレさんの方を見ると、店員さんといろいろ話をしていた。フルール様、一体何個買ったんですか…?
「それよりも。」
視界にフルール様がぬんっと入ってくる。あー正面からのアングルもなんて美形。
「トゥシェさんは、あちらの靴が気になるのですか?」
同じ質問をされた。その通りですいいなって思いました!でもここで素直に言っちゃうと、なら買いましょう的な流れになるに違いない。それは流石に申し訳ないから黙っとこう…と、思ったんだけど正面からの圧がなかなかに強い。誤魔化してもバレるやつだわこれ。
「気になりました!でもちょっとです。靴は制服の靴もあるし、編入時に何足か新しいもの揃えてもらったので私には今は必要ありません。」
「そう、なのですか?」
「そうなのです!」
言い切った!フルール様ちょっとしゅんとしちゃったけど。ごめんなさい。フルール様は俯いた状態で私の足元に視線を移した。私が今日履いているのは、飾り気のないキャメルのローヒールの紐靴だ。この店の靴と比較したら地味ではあるけれど、グリモワールさんが用意していたもののひとつだから私が今まで履いてきた靴よりも値段が張るのは間違い無いだろう。
「トゥシェさんは足が小さいのですね。」
「小さいですか?これでも23.5なんだけどな…。」
「私より1センチも小さいですわ、可愛らしくて羨ましいですわ。」
この世界、名前やら文化は西洋風なのに何故か靴のサイズは日本と同じ表記なんだよね。わかりやすくてありがたいけど。こちらの靴も可愛いですわ〜的なお言葉を頂いてる間にスクレさん達のやりとりが終わったらしい。帰りましょうとなったので、私はフルール様に奢らせずに済んだとホッとしつつ個室から出た。ケーキと紅茶は気づいたら支払い済まされてたので、そこだけ奢らせてしまった事になるけど。
何か踏んだ。
下を見ると、踏んでいたのは解けた靴紐だった。やっちまった、せっかくいい靴なのに。
慌ててしゃがんで靴紐を結び直す。村でもこうやって何度も結んだな。ランはかたく結ぶから私みたいにすぐ解けたりしないけど、その分紐の痛みがはやくてしょっちゅう取り替えてた。
「…ここって靴紐買えますか?」
しゃがんだまま顔を上げると、何を言い出すんだこいつはとでも言いたげな3人の表情が目に入った。ごめんなさいね貧乏くさくて!
「勿論でございます。」
流石です店員さん、瞬時に営業スマイルになりましたね。
希望はあるか尋ねられたけど何が良いとかわからないので、とりあえず丈夫なものをとだけ伝えた。少しして再び個室に案内されると、今度は5種類の靴紐が並べられていた。仕事はやっ。そしてそれぞれの特徴を教えてもらいつつ、財布の中身と相談の上1セット購入した。
店を出て、いつのまにか待機していた馬車に3人で乗り込んだ。
「…すいません、こんなしょうもない買い物で今日を締めくくってしまって。」
「…何かしょうもない物買いましたっけ?」
「…なんでもありません。」




