卒業パーティー当日となりました 3
「!?」
私を呼ぶ声にハッとする。顔を上げると、そこには目の前から去ったはずの彼が再び姿を現していた。
「ヴァン先生、なんで…?」
「…そんな悲しげな顔をしているあなたを放っておけません。」
レンズ越しに見える瞳は、本当に私を心配しているようだった。先生は少しだけ俯いて言葉を続ける。
「僕のせいですよね。あんな事を言って、あなたを困らせている僕が悪い。」
「!そんな事…っ。」
困っていないと言えば嘘になる。でもヴァン先生が悪いとはちっとも思っていない。最後のダンスに誘ってくれた気持ちは本物だろうし、それを伝えてくれた彼を凄いとは思っても酷いとは思わなかった。
他の人達もそう。オルロージュ先輩も、フリュ殿下もフラム殿下も、状況は違ったけどそれぞれしっかり言葉にして私を最後のダンスに誘ってくれた。
それなのに私は逃げて、全員への返事を先延ばしにしている。どう考えても悪いのは私。
「あの日は驚かせてすいませんでした…でも、どうしても気持ちを抑えられそうになかった。だから、あんな形ではあったけれど僕の想いを伝えたんです。教師という立場のくせに身勝手で申し訳ない。」
私が黙り、暗い表情になればなる程、目の前の教師がどんどん自分を卑下していく。責めたり怒ったりしてるわけじゃないのに…ああもう!
「ヴァン先生は全然悪くないだからそんなに謝らないでください!!悪いのはぜーんぶ私!!…あ゛っ。」
思わず大きな声を出してしまった。
廊下を行き交う周囲の視線が突き刺さる。やばい、注目は浴びたく無いんですよ。消えたと思ったお断りチャンスの再来なのに、また言えなくなっちゃうでしょうが。
この状況にヴァン先生も困ってしまったようだ。2人でどうしよう…と言った気持ちでアイコンタクトを取る。無言が続くと、なぁんだといった感じで周りの人は歩みを再開した。
すっかり注目は無くなった。今なら、言える気がする。私は意を決して大きく息を吸い込んだ。
「…さ「返事は今でなくてもいいんですよ。」
…へっ?
私の覚悟は被さった彼の声によってかき消された。
てか、今お返事しなくても良いの…?
「どうしてですか?」
「本番までまだ時間があります。君も僕も納得できる返事を貰いたいので、ルルーさんにはギリギリまで悩み抜いてもらいたいんです」
「ギリギリって…。」
戸惑いつつも、極力先生の目を見て問いかける。相変わらずの硬い表情、でもその瞳は、私への慈愛に満ちている気がした。
「…最後のダンスが始まる直前、僕はもう一度、君に手を差し出します。その手がとってもらえる事を、少しで構わないので信じさせてください。」
「先生…。」
返事、散々引き延ばしたのに。もっと引き延ばして欲しいと言われるのは予想外だった。
きっと、この人も諦めたく無いんだ。私が手を取ってくれるその瞬間を。あまりにも真っ直ぐで、胸が締め付けられる。
「…今返事を告げられても諦められそうに無いからね。」
小さく彼の口元が動くも、音が耳に届かなかった。
「先生、今何か言いました?」
「何も。では、そろそろ式典の片付けに行ってきます。…次はパーティーで会いましょう。」
そして彼は軽く頭を下げて私から離れていった。
先生の姿が見えなくなって、ようやく私も動き始める。
どこへ向かう?オルロージュ先輩やフラム殿下、フリュ殿下の所?…誰の所に?誰がどこにいるの?3人とも、もう帰ってしまったかもしれない。
たった1人にさえちゃんと返事を伝えられなかったのに、他の人に会いに行っても…会えたとしても、私ちきんとごめんなさいって言えるの?
それにあまり時間をかけると、教室で私を待っているであろうフルール様や彼女の関係者にも迷惑をかけてしまう。これ以上時間をかけるのは望ましく無いのでは?
……。
結局私は教室に戻る事にした。返事をする事からまた逃げた。
私が憧れていた小説の世界の悪役令嬢達とは程遠い、逃げてばっかりのヒロイン。
ヒロインになんて、転生したく無かったな…。




