Episode 18:「Aiつと最後の闘いを…」
修学旅行も終わり、学校生活は平常通りに過ぎている毎日を送っている隆太たちであった。 中間テストも終わり、成績に一喜一憂していた彼らであったが、この後に控えているのは、中学生活最後の部活動(体育大会)であった。
部活の練習は忙しさを極め、毎日のように日が暮れるまで特訓の繰り返しであったが、隆太と友加里、そしてあきらは、弱音を吐くこともなく、ひたすら鍛錬に励むのみであった。
…というのも、あきらはともかく、隆太と友加里には、水泳の世界的には因縁のある二人なのだ。
あきらと愛莉は、その事情を知らないので、ある日の放課後、それとなく二人に事の発端を聞き出してみることにした。
友加里は、少し昔を懐かしむような表情で…
「ああ、ウチも親に勧められて水泳始めたんだよねー。 習い事は音楽が主体だったけど、それだけだと身体が強くならないからって、小学校入った頃から続けてた。 それで、通ってたスイミングスクールで、それなりの成績出せるようになって、3年生の時、公的な試合に参加したんだけど、その時スクールにいたのが、隆太だったんだよね…。」
隆太も、その時の思い出を改めて追懐するかのように…
「そうそう。 …で、最初は友加里と、単に同じ学校に通ってるんだねー…って感じの話しかしなかったよね。 その頃はクラス違ってたし…。 でも、その時の試合で、タイムが偶然にもほぼ同じで、ジュニア枠から大会に出る選手として、二人とも選ばれたんだよね。 けど、実際の試合では、僕が友加里に勝ったんだ。 ハナの差だったけどね。。。」
友加里「そう。 それで、何だかウチも、よくわからないけど、闘争心みたいなもの湧いてきてさ…。 あの頃、隆太に抱いてた気持ちって、正直、恋心とか友情とかじゃなくって、こんな奴に負けるなんてハジだ!!みたいな気持ちだった…。 だって、、、ぶっちゃけ、ウチよりも背が低くて、あんまし頼りになるような印象でもないし…、でも、隆太って優しいのか鈍いのか、ウチに、積極的に話しかけてくれて…、そうしてるうちに、妙に隆太のこと、頭から離れなくなっちゃったんだ…」
隆太「それで、、、何度かあった水泳の大会で、お互いに成績競うようになってた。 もちろん、勝ったり負けたりの繰り返しで、僕も僕で、女子に負けるなんて何だか恥ずかしかったから、必死になって友加里を追い抜こうとしてた…。」
友加里「けど…、隆太っていい奴だってこと、後になってからじわじわとわかってきたんだ…。 ウチが勝っても負けても、よく頑張ったじゃん!!って声かけてくれたし、4年生になってクラス替えして、同じ組になった時からは、ちょいちょい一緒に話もするようになったし、遊びに行こうって誘ってくれることも増えたんだ。 それで、5年生、6年生くらいになると、もうクラスじゃまともに話できる男子っていなくて…、あきらと仲良くなれたのも、隆太がいたからこそで…。」
あきら「覚えてるww 確か友加里って、喧嘩っ早いからちょっと気に入らないことあればすぐ男子のこと怒鳴ったり叩いたりしてたよなーwww でも友加里って、本当は男子の友達作りたかったんだろ? でも、小学生の頃って、なかなか男子と女子とで話できなかったよなー。今でもそうだけど…。」
あきらの最初の台詞にカチンと来た友加里だったが、ひとまず拳を引っ込めて、本題に戻った。
友加里「だってウチ、恥ずかしくて…。 だから、心を許せる隆太のことが本気で好きになっちゃって…。 でも、気持ちのどこかで、隆太って、水泳の世界じゃ最強のライバルなんだってこともあって…。」
隆太「そうなんだよ。 僕だって、友加里が女子の友達として親しくしてくれたこと、本当に嬉しかったんだ。 もっとも、ガールフレンドできたの~?って、お姉ちゃんにからかわれたけどねww …で、肝心の水泳の対決っていうか、どっちが上なんだって話は、中学に入ったら店晒しになってて、忘れてたよね。」
…友加里が、キリっとした表情で隆太を見つめて言った。
「隆太!! ウチら、次の県大会で中学時代最後の試合になるんだよ!? この際だから、ウチと勝負しなよ!! 決着つけようよ!! 水泳じゃどっちが上なのか、はっきりさせてからじゃないと卒業できないよ!! だってウチ…、部活引退したらもう、水泳なんてやらなくなるから…。 作曲家目指すために、真剣にそっちの勉強に取り組むつもりなんだよ…。 だから、隆太!! 次の大会、お互いに最後の決闘だと思って臨みましょうよ!!」
…強い口調の友加里を前に、隆太も少し尻込みしたが、彼女の挑戦を受けて立つことを決意した。
これが最後の試合になる…。 それは隆太と友加里だけではなく、あきらや愛莉にとっても同じことだった。
中学卒業後も、各々は水泳を続けることはあるだろう。 しかし、こうして親しい者同士で対決するということは、恐らく最後になってしまう…。
友加里はどちらかというと、隆太に劣っているという認識があった。 そのためあくる日からは、友加里は人が変わったかのように練習に力を注いだ。 作曲家になるための勉強ももちろん脳内に不安として残ってはいたが、1週間後の県大会で隆太を下すためにも、彼女は真剣そのものだった。
「隆太に…、、、隆太に負けたくなんかないっ!!!!」
ただ、あまりに力が入り過ぎていたのか、練習中に友加里は足の痛みを訴えるなどして、プールサイドから動けなくなることもあった。
駆けつけたあきらが、心配そうに声を掛けるが、その時、つい口が滑ったのか…
「友加里ぃ! こんな思いまでして隆太に勝とうとしても意味ないんじゃね?? 勝ったところで何かあるってこともないんだろ? そんなに身体をいじめてまですることじゃないよ…」
すると友加里は、あきらを鬼のような形相で睨み返した…
「あ・き・ら…、、、テメェ…www 何てことを言うんだァ…!!!! あんたには、ウチの悔しい気持ちなんてわかんねぇからそんな事言えるんだよ!!!! ウチは、ウチは、、、隆太が男子としてこの上なく好きだけど、水泳のライバルとしても、これ以上にない宿敵なんだよ!! 最後の試合は、絶対にウチが勝って、隆太に…」
「隆太に…何??」
「ゲフッゲフッwww いや、、、何でもないよ…。。。 と、、、とにかく、、、負けられないんだよ!! だから、ウチのことなんてほっとけっての!!」
「ばかっ!! ほっとけるかよ!! そんな大事な対決控えてるっていうのに、無茶をして試合に出られなくなったりでもしたらどうするんだよ!! 友加里は不戦敗ってことになっちゃうぞ!! 以前、愛莉には、人に迷惑を掛ける目標なら持つなって言ってたくせに…!!」
「うっ…、、、うるさいうるさいーーーっ!!!! うわぁぁぁぁん…・・・・・・・・」
あきらは、つい余計なことを言ってしまったものだと反省したが、友加里があまりに力を入れ過ぎるのを、見ていられなくなったが故に放った一言であったのだ。 親友として、あるいは、同じ部員として。
怪我のせいでまだ泳げない愛莉は、友加里にそっと手を差し伸べた。
「友加里ぃ…。 無理しちゃだめだよ。 事を急ぐと色々と残念なことになっちゃうよ。 今日はこのくらいにして、明日にでもまた頑張ればいいと思うよ。」
「…。。。 うん。 そうだね…。 ところで、隆太は?」
「隆太なら、そろそろ着替え終わって帰る頃かと…」
「えっ…!? 隆太って、今日、練習してたっけ??」
「してたじゃんwww 友加里があんまり夢中になって泳いでるから気が付かなかっただろうけど、隆太だって結構熱を入れて頑張ってたよ。」
「くぅぅぅぅっ…!!!!」
…帰り道、友加里は自分の前を歩く隆太を見かけて、呼び止める声と共に彼に駆け寄った。
「隆太…、頑張ってるみたいだね…。」
「友加里だって…。」
…いつもなら、これ幸いにと一緒に手を繋いで帰るのだろうが、今日に限っては、こんな会話を交わした程度で別れてしまった。
実のところ隆太は、そこまで友加里に対して対抗心を燃やしてはいないのだが、友加里が極めて本気モードなので、彼女の想いに水を差すまいと、彼なりの配慮という意味で、友加里との対決を意識していたのだった。
そして、体育大会当日を迎えた…。
当然のことだが、同じ試合に他校の生徒らも参加するので、隆太も友加里も、相手がどれほどの実力を見せつけてくるか予測不能だった。
競技は男女別に行うので、二人は単純に、同一競技でのタイムを比較して、勝ったか負けたかを決めることにしていた。 まずは男子陣が競技に臨んだ。 大会で使用するプールは、学校のそれとは違いかなり本格的だ。 それだけでも十分緊張が迸るが、隆太もあきらも、これが中学生として最後の試合になる。 勝ち負けはともかく、後はただ全力を出し切るのみ。 二人はその意識の確認を、レーンと観客席同士で、瞳でコンタクトした。
先ずは隆太がスタートした。 流石に3年生ともなると、他校の選手らも格段の技術を見せつけて来る。 隆太は幼稚園の頃から水泳をしていたが、プールに漂う異様な緊張感に押されたか、少し他校の選手に対し、出遅れを取ってしまった。。。
友加里「隆太ぁーーー!!!! いけぇーーー!!!! まだまだ抜けるぞーーー!!!!」
愛莉「隆太ーーー!!頑張ってーーー!! ファイトー!!」
あきら「まだ大丈夫だ!! チャンスはあるぞーーー!!」
観客席から大声で応援するのは、友加里と愛莉、そして別グループで控え中のあきらだった。 最後の試合、願わくば有終の美となってほしい。 それは誰もが同じように抱いている気持ちであったがゆえに、友加里もまた、ライバルとしての隆太に、負けてほしくはなかった。
「しまった…!! ターンに少し乱れが出た…!! でも、体力的にまだいける!!」
隆太は、後半の追い上げが功を奏したか、何とか予選では2位通過。 続いて競技を行ったあきらも、他校の選手に圧倒されながら、苦戦を強いられたものの、どうにか3位通過。 男子は二人揃って、本選に臨む権利を獲得した。
続いて女子の部が始まった。 場内アナウンス「第3レーン、○○中、浅倉友加里」
元気よく右手を上げてそれに答えた友加里。 そして、スタートの合図が響き、彼女はプールへと飛び込んだ。
隆太たちも必死に友加里を応援する。 「友加里ーーー!!頑張れーーー!!!!」
…ところがだ…。 友加里は、1回目のキックターンの直後から異様に失速してしまい、どんどん他の選手に引き離されてしまった…。
隆太「なな…、、、なにやってんだ友加里!? あっというまにビリじゃんかーーー!!」
あきら「ま、、、まずいな…。。。 やっぱり、無理しすぎてたんだ…。」
愛莉「えっ…!? どういうこと!?」
あきら「友加里のやつ、隆太に勝とうってばっかり思ってて、、、それで、闇雲に練習しまくってて、この間も足を痛めてたんだ。 黙って少し休んでいれば治っただろうけど、それでも練習してたじゃん。 いくら何でも無理が過ぎたんだよ…」
友加里は、足の痛みを堪えて泳いだが、それでも、1セットを泳ぎ切るほどの力は残されてはいなかった。
結局、友加里は競技途中で溺れそうになってしまい、係員にプールから引き上げられ、途中棄権ということになってしまった…。
…その後、医務室で応急処置を施された友加里は、愛莉と共に、隆太とあきらの本選の様子を見ているのみとなった。
あれだけの練習をしたのに、こんな結果になってしまったことを、どうやって慰めるべきか、彼女の嘆き悲しむ表情が無数に想像され、意気消沈しかけていた二人だったが、本番前に隆太は、こんなことをあきらに言っていたのだった。
「友加里のことは考えないで泳ごう!! 僕達が良い成績を上げて、友加里を元気づけるんだ!!」
「ああ!!そうだよな!! よし!! 頑張ろうぜ!!」
…二人は、お互いにがっしりと握手を交わし、それぞれの競技に臨んだ。
隆太は、本選の緊張感で心臓が激しく鼓動していたが、それでも、観客席の友加里を見ると、気持ちを奮い立たせねば!と思うようになった。
そしてスタートの合図と共に、隆太はプールへと飛び込んだ!! 先ほどのペースの乱れを修正して、今度は順調に先頭を維持した。
「いいぞーーー!!隆太ーーー!! いけいけぇ~~~!!」
愛莉の黄色い声が響いたが、友加里は無言だった。 愛莉は、一緒に隆太を応援するよう促したが、シクシクと泣きじゃくるばかりで、隆太の姿を見ているだけで限界だった。
…しかし、隆太のことを応援できない自分も不甲斐ないと思ったか、最終ターンに突入した際、友加里は声を枯らして彼を応援した。
「隆太ぁぁぁぁぁーーーーーー!!!! 負けるなよーーー!!! 絶対勝てよーーーーーー!!!!」
…その声が途切れる瞬間、隆太の手は壁際のパネル(タイマー)をタッチした。 そのタイムは、彼自身のものとしては最高記録。 堂々の1位となったのであった。
愛莉「やったあっ!!!! 隆太すごーーーい!!!!」
愛莉が一人でハイテンションになっている時、背後に一人の女性が座っていることに気が付いた。
「ホント、隆太くんって水泳上手だよね~♪ 高校行っても、水泳は続けてほしいなぁ~」
「えっ…!? …だ、誰…!?」
…声の主は涼子だった。 本来であれば、試合前から駆けつける予定だったが、仕事が長引いてしまい、今になってようやく会場を訪れたのだった。
「りょ、、、涼子さん…。」
「あらぁ?どうしたの友加里ちゃん? 元気ないようだけど…??」
「グスン…、うっ、、、うっ、、、実はぁ…」
…友加里は、愛莉と共に事の顛末を涼子に語った。
涼子は、友加里を優しく抱き寄せて…
「そっか…。 友加里ちゃん、ちょっと、力が入りすぎちゃったみたいだね。 結果としては残念だったけど、隆太くんなら、いつでも友加里ちゃんのこと応援してくれてるんだし、雪辱晴らすチャンスは、まだまだあると思うよ♪」
「…ぐすん…。でも、、、ウチ達、もうこれで、部活は引退ですし…。 それにウチ、隆太に勝って、自分の実力と強い意志をアピールして、それが絶対に大事なものだから覚えておけよ!!って言おうと思ってたんです…。 隆太にそれ聞いてもらえれば、ウチのこと、少しは見直してくれるかなぁって…。。。」
…そんな会話のさなか、あきらが競技に入った。 あきらもまた、中学生活最後の試合だと思ってか、全力で泳いで、他校の選手や、友加里の途中棄権へのリグレット意識などといったプレッシャーをはねのけて、必死の思いで泳ぎ切り、フィニッシュのタッチを決めた。
…結果、残念ながら他校の選手にほんの1秒にも満たない差で敗れ、2位となってしまったが、あきらとしては満足な表情で表彰を受けていた。
…やがて、試合が終わって4人+涼子らが合流した。 それぞれの健闘を称え合うと共に、友加里を慰めるのも男子達の役目であった。
「うわぁぁぁぁーーーーーーん!! ウチ、ウチ、、、めっちゃバカだよバカすぎるよぉーーーー・・・・・・・・・・」
自失の念に暮れる友加里だったが、そこで涼子がこんなことを提案してきた。
「ねぇ、隆太くん、友加里ちゃん? 友加里ちゃんの怪我が治ったら、名実ともに、本当の最後の対決をやってみるってのはどうかな?
隆太「えっ…?? それって??」
友加里「だって、涼子さん…。 試合、終わっちゃったんですよ…。 私達、もう部活は引退なんですよ…」
「うん。 だからね、プライベートで対決ってことにしようよ。 友加里ちゃんの調子が良くなったら、市民プールに行って泳いてみましょうよ。 あきらくんや愛莉ちゃんには、審判になってもらってさ♪ これだったら、友加里ちゃん的にも、隆太くん的にも、やり残したことがなくなるって思うんだけど…」
隆太と友加里は、お互いの顔を暫し見つめ合ったが、やがて、この「プライベート競技」を、お互いに受けて立つことで合意した。
数週間後、友加里は足の痛みが完全に消えて、普通に泳げるようになっていた。 水泳部4人組と涼子は、少し暗くなった時間に市民プールを訪れ、レーンが空くのを待って、最後の対決を始めることにした。
そしてその時が来た。 プールも公的な試合での規格に準拠しているので、競技内容は県大会でのそれと全く同じというルールにして、どちらが早いか、単純なタイムのみを競うことにした。
…なお、市民プールでは飛び込みは禁止されているので、唯一その点だけはルール的に変更を加えた。
あきら「位置に着いて…、、、よーい、、、ドンっ!!」
愛莉と涼子、そしてあきらの見守る中、二人の「因縁の」対決の火蓋が切って落とされた。
「友加里…やるな…www だけど絶対に手加減しないぞ!!」
「隆太…ww さすがは水泳歴10年目だけあるわ…。 でも、ウチだって本気出せば…!!」
涼子も愛莉も、彼らに声援を送った。
愛莉「がんばーれー!! がんばーれー!! 二人ともファイトーっ!!」
涼子「頑張って~~~♪ 最後まで全力だぞ~~~♪」
…二人の泳ぎはほぼ互角。 シンクロナイズドスイミング…ほどではないものの、両者ともほとんど差のない状態で泳いだ。
そして最終ターン。 隆太は少し力み過ぎたか、やや腕が苦しそうだった。 友加里はそれに目もくれず、ただひたすら、ゴールの壁をタッチすることだけを考えていた。
「負けられない!! あきらめられない!! 自分のためにも、みんなのためにも…!!」
そしてフィニッシュ!! ストップウォッチを持ったあきらと愛莉がそれぞれのタイムを発表すると、ほんの0.7秒ほどの差で、友加里に軍配が上がった。
「やった!! やったわ!!!! 隆太に勝ったっ!!!!」
涼子「いやぁ~、お互い凄い勝負だったわ~♪ 二人ともすっごい本気で驚いたよ~!! 頑張ったね!!隆太くん!! 友加里ちゃん!!」
友加里は、大粒の涙を流していた。 不甲斐ない自分を曝け出してしまったことと、それをカバーしてくれる大切な仲間達の気持ちが、深く身に染みたのだ。
「隆太…、、、いや、みんな、、、!! 愛莉、あきら、涼子さん!! ありがとう!!!!」
隆太と友加里は、プールのコースロープ越しに、固い握手を交わした。
…その日の帰りは、すっかり遅くなってしまったので、涼子が自分の車にみんなを乗せて家まで送ることにした。
後部座席には友加里、愛莉、あきらが座り、助手席には隆太が腰かけた。
移動中、愛莉たちは疲れて眠ってしまっていたが、隆太は、涼子と試合の話や、これからの自分達のことについて色々な会話を交わしていた。
その中で、涼子が話したことの一つに、一瞬、ドキっとしたことがあった。
「ねぇ隆太くん。 友加里ちゃんには結果的に負けちゃったけど、いつかまた、リベンジするつもりなの?」
「いえ…。今のところそれは…。 友加里は、僕のために必死になってくれたんです。 本当は自分のためじゃないと思うんです。 友加里って、ずっと仲の良い友達だったし、初恋の相手でもあったんで、僕としても、友加里が望んだことは、できるだけ叶えてあげたかったんです。 僕にとって水泳のライバルだなんて、正直どうでもよかったんですけど、友加里は、僕にしっかりと何か達成するべき目標を持つことの大切さを、教えようとしていたんだってこと、わかりましたから…。 僕も、自分の未来をしっかりと手にするために、頑張ろうって思いました♪」
涼子は、にっこりと笑顔を浮かべて…
「それはよかったね♪^^♪ そんな隆太くん、とってもカッコ良くて惚れちゃうなぁ♪」
「は、はぁ~~~(//▽//)」
隆太の赤面は、家に帰るまでおさまらなかった。
その後、隆太たちは正式に部活動を引退した。 1年生の後輩、真奈があきらの引退を残念そうに見ていたが、あきらは「俺たちがいなくなった分、きみたちが頑張らないと先輩として恥ずかしいんだからな~」と言って、元気づけてあげたのだった。
真奈も水泳はなかなかの腕前で、前途を嘱望された生徒であった。 彼女の活躍をリアルタイムで見れない隆太たちであったが、今後の水泳部をしっかりと守ってくれることを信じて、彼らは部室の荷物を全て持ち帰った。
気が付けばもう夏の便りが届く頃。 3年生は夏休みの雰囲気に浸ることも儘ならない日々を送ることになっていたが、もうみんなで勉強できる時間も残りわずかとなっていた。
それぞれの描く夢の先は異なれど、叶えたい目標、なりたい自分がある。
でも、できればもう少し、今しか作れない思い出も欲しいと思うところもあった。
「ピンポ~ン」
…ある日、隆太の家のチャイムを押す、浴衣姿の女の子がいた。 それは誰であろう、友加里であった。 彼女は塾や学校の夏期講習が休みの日を見計らって、彼の家を訪れたのだ。
「隆太ぁ。 ねぶた祭り、一緒に行こうよ♪ 夏の思い出、もっともっと作ろうよ!! 隆太もほらほら、浴衣に着替えてさ!! 行こう行こう!! 何でも、涼子さんがハネトになって参加してるんだってさ!!
「えっ…!! 本当に…!?」
あまり着慣れない浴衣を着た隆太は、友加里と手を繋ぎ、夕暮れの駅から電車に乗って、ねぶた祭りの会場へと向かって行った…。
電車の座席で、自分にもたれかかって来る友加里が、妙に可愛らしく、どこか照れくさくも思えたが、隆太はそっと彼女の手を握って、お祭りの熱気の漂う市街地へと歩いて行ったのであった…。
- つづく -




