Episode 12:「はじけて!青春すいま~ズ」
友加里の挑んだ作曲コンテストは、残念な結果に終わってしまった。
後日、本人からそれを聞いた隆太たちは、友加里を色々な言葉で励まし、一時は悄然とした表情を見せていた彼女も、次第に笑顔と元気を取り戻しつつあった。
…時期は6月半ば。
中間テストも終了し、隆太たちは部活動で、水泳の猛特訓に励んでいた。 そう。 近々、県のスポーツ大会があるため、選手の選定が行われるのだ。
今日は顧問の先生が、最終的な出場選手を決める重要な日。 これまでの成果から総合的に判断されるのだが、そのジャッジメントの日ともなれば、皆に緊張が走っていた。
その日の昼休み、隆太と友加里はこんな会話をしていた。
「ねぇ隆太? 県大会で一緒にレギュラーに選ばれるといいね!」
「う、うん…。 そうだね! でも噂だと、あきらはとっくに出場確定してるって話だったよ。」
「そっかぁ…、、、あきらって、水泳上手いもんね。。。 ウチなんて、親のいいつけで始めただけだから、正直、音楽の方が習い事としては向いてるって思ったんだけど、それだけだと肉体がひ弱になっちゃうからって…。 ま、水泳習ったおかげで、隆太に出会えたし、今の仲があるんだけどね。」
「そ…そうだった…ね。。。」
「ところで…だけど…、小学生の頃、あんたとウチって、同学年でのライバル同士だったよね。 それで、タイム計ったり、大会出たりすると大抵ウチが負けてて、でも、あとほんの一歩ってとこで追いつけなくて、小5の時とかメッチャ隆太のこと意識してたんだ…。」
「そ…そうだった…の。。。」
「うん。 何だか率直なライバルって感じしててね。 言っちゃ悪いんだけど、当時の水泳クラブじゃ、隆太とウチ以外にこれといって”上手い”って人いなかったじゃん…。 コーチにもそんな風に言われてたし…。 …で、隆太の後ろを追いかけるようにしてたら、隆太がすっごく優しくウチに声かけてくれて…。 友加里、無理すんなよ。 一緒に大会出られるように頑張ろうぜ!!って、思えばその時、隆太のこと好きになっちゃって、以来ずっと、隆太の後ろ追いかけることになってたみたいだね~」
「そ…そうだった…っけ??」
「だから隆太!! ウチ、何度も話したけれど、水泳は、中学出たら終わりにするつもりなの。 作曲家になるための勉強に専念するからさ。 それで、ウチ、水泳で競えるのって、そのチャンス自体、もうあんまりないような気がするんだ…。 ウチ、、、隆太の事カレシとして好きだけど、水泳っていう世界じゃ、あんたに劣ってる…。 だから、ウチが水泳できるうちに、一度でも隆太に勝ってやりたい!! ウチだって、本気でやれば隆太に勝てるってこと、見せつけてやりたい!!」
「うん!!わかったよ!! じゃ、今日は先生がレギュラー選手を決める日だから、気合い入れて泳ごうな!! 一緒に大会に出て、勝負しようじゃん!! もちろん、絶対手加減しないよ!!」
「望むところだわよ!!」
…それぞれの想いが交錯する中、プールでは水泳部の練習が始まった。
あらかじめ顧問の矢野先生は、これぞという生徒を見極めているのだが、今日はさしずめ、その最終チェック的な意味を込めて、タイムの測定などを行うことになっている。
まず1組目は、男子陣のタイムを測定した。 25mのプールを、四代泳法(クロール・背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライ)にて4往復し、その速さを計る。
「よーい!」 ピッ!!(笛の鳴る音)
一斉にプールへ飛び込む水泳部男子陣。 あきらは隆太と横並び状態で泳いでいたが、二人の技量を比べると、あきらの方が実は技術的に上。 隆太はターンの度に少しずつ距離を置かれてしまう。
「隆太ぁ!!頑張れよぉぉぉぉ!!」
友加里の声がプールに響いた。 もっとも、泳いでいる隆太にはほとんど聞こえていないのだが、それでも彼女は、少なくとも彼が2着になってくれることを祈った。 何せそれが、レギュラー選出の大きな条件となっていたために…。
そしてフィニッシュ!! タイム的にはあきらにやや差をつけられたものの、矢野先生の判断で、あきら、隆太共に、県大会のレギュラー選手に選ばれた。
「やったな!隆太!! 本番、頑張ろうぜ!!」
「ああ、ありがとう!!あきら!! 一緒に、大会行けるね!!」
…続いて女子陣のタイム測定となった。 女子たちは、友加里、愛莉に加え、1年生から2名の女子選手が一緒に交じって測定される。 もちろん、願いは愛莉も一緒に、4人揃っての出場が理想だった。
今度は隆太たちが女子のタイム測定を祈るように見ている…。
「よーい!」 ピッ!!(笛の鳴る音)
友加里はなかなかの滑り出しを見せたが、愛莉は持久力がやや足りないのか、3ループ以降に入ると、若干泳ぎに乱れが出るようになってしまった。
隆太「まずいな…、、、これじゃ、後ろの愛衣さんに追い越されちゃう…。」
あきら「愛莉ぃーーー!!!! リズムだ!! ストロークのリズムを思い出せーーー!! あきらめるなーーー!!」
愛莉の耳には、確かにあきらの声が届いていた。 しかし、愛莉は1年生になって水泳を始めたばかりの初心者。 オリンピック選手を目指し、日々多くの練習に励んで来て、上達の兆しは見えているものの、どうしてもそれ以前からの経験を持つ生徒たちの泳ぎには、一寸及ばないものがまだあった。
最終ターンにて、愛莉は根性をフル稼働させ、猛チャージを見せた。 しかし、2着目の生徒に追いついたか否かという時点でフィニッシュ! タイム的には微妙な判定となってしまった。
あきら「くっ…、、、ダメだったか…??」
隆太「いや、まだわからないよ。 とりあえず、発表を待ってみなきゃ…」
…愛莉は、息切れしながらベンチに腰を下ろした。 やがて、矢野先生から、女子のレギュラー選手の発表があり、名前が読み上げられた。
「えー、女子のレギュラー選手だが、タイムと泳力の観点から、次の2名を出場者とする。」
「浅倉友加里」
「水島愛衣」
…そう。 愛莉はこの時、名前を読み上げられることはなかったのだ…。 今回のタイム測定では、鼻の差で2位の生徒に敗れた。
しかし、先生は愛莉のこれまでの努力を鑑みて、補欠としての出場を言い渡された。 それ自体は愛莉にとっても隆太たちにとっても、残念な結末に思えてしまったが、愛莉はさほど嘆き悲しむこともなく、隆太たちにこう話した。
「仕方ないよね…。 あたし、水泳まだまだ下手だし…。 オリンピック目指すなんて言ってるけれど、遠い未来の夢だもんね…。 当日はみんなの応援に専念するから、頑張ってね!!」
友加里「ああ、、、愛莉っ!!」
愛莉はそう言い残すと、そそくさとプールを後にしてしまった。 残された隆太たちは、残念そうな顔をして佇んでいたが、こればかりは仕方がない。 県大会当日は、自分達が愛莉のぶんも頑張らねば!!と、お互いに心に誓い合い、数日後の本番に備えた。
だが、あきらはことのほか残念そうな表情をしていた。 何せ、あきらは愛莉のために、これまでに何度も水泳の個人レッスンをしてきたのだから…。
「お、、、俺がもう少し上手に愛莉に泳ぎを教えられていれば…っ!!」
あきらは、一人になるとそんな後悔の念と、愛莉の顔を思い浮かべてしまい、夜も寝付けないこともあった。
だが一方で、自分に好意を寄せてくれる愛莉が可愛くも思えてた。 自分には、妹の友達である真奈(小学5年生)というガールフレンドがいるものの、実際に好きなのは、愛莉であることを、誰にも話せずにいた。
「愛莉…。 俺、愛莉のこと好きだったから、水泳のコーチもしたし、色々と話し相手にもなったし、こっそり、デートにも行ったさ。 …けど、その時、年下のガールフレンドのこと知られたくなくて、つい、愛莉に冷たい態度取っちゃったんだよなぁ…。 ああ、俺って何てダメなヤツなんだ…!!!! 本気で好きなのは愛莉なのに…!! 愛莉…!! 愛莉…!!」
あきらは、愛莉への想いを高ぶらせていたが、好きだと告げることもまだできていないので、自分の中での彼女は、やはり単純な「ガールフレンド」であった。
「この県大会が終わったら、俺…、、、 …いや、、、いいや!! もう寝よう!!」
あきらは、布団を頭からかぶってそのまま眠った。 枕に涙のシミが付いていることにも気が付かず…。
そして、県大会当日…。
隆太にとっては初めての大会なので、まずは慣れない環境での泳ぎに戸惑いを見せていた。 競技の前には若干の練習時間も用意されているのだが、学校のプールとは全然違い、大規模な水泳競技にも対応したプールに漂う、不思議な気品と、本番前の緊張感があって、練習中はただ無口になっているばかりであった。 隆太は小学校時代、水泳クラブでの競技の際にこういった場所へ来ている筈なのだが、久しぶりゆえにか、落ち着かない面持ちで淡々と泳いでいた。
友加里やあきらもそうだった。 ただ友加里たちは少し隆太と意味が違う緊張を抱いていた。
友加里は、隆太に負けたくない。 あきらは、愛莉にかっこいいところを見せて、後で自分の不甲斐ないコーチのせいでレギュラー落ちしたことを侘びつつも、恋心を打ち明けようと思っていた。
それにしても、仲良し4人組が揃わないのは何とも残念だ…。 …そう思っていた時、プールに耳慣れた声が響いた。
「おはよ~~~みんな~~~!!」
あきら「ああ!?あ、、、愛莉!?」
隆太「愛莉!? 愛莉って今日は補欠で、応援に廻るって言ってたんじゃ…」
友加里「そうだよね…?? でも、何で??」
愛莉「え?? だってあたし、補欠でしょ?? 今朝、先生から電話があって、本当は出場するはずだった水島さんが、体調を崩して出られなくなったから、あたしに出てくれって…」
あきら「そ、、、そうだったのかぁ~!!」
隆太「そっかぁ!! じゃあ、4人で大会に挑めるね!!」
友加里「うわぁ~~~!! まさか4人が県大会で競技できるなんて、夢みたいだね~!!」
愛莉「うんっ!!」
そして、県大会は開会式の後、それぞれのスポーツが各々の会場にて競技開始となった。 隆太たちも、出番が来るまでは準備体操やストレッチをしながら、他校の生徒たちの泳ぎを見ていた。
すると、中にはとてつもない速さで泳ぐ者もいて、改めて彼らは、この世界の広さと、強敵の多さに身震いを覚えた。 しかし今は、その脅威に慄くよりも、自分としてベストな泳ぎを尽くすことが一番の目的なので、あえて上を見ることをしないように…と、黙って出場の時を待った。
まず、男子の競技が始まった。 あきらは、他校の生徒6名+自分の計7名で、タイムを競う個人戦に挑んだ。(他の3人も基本的に個人戦となる)
スタートの合図と共に、一斉にプールへ飛び込んだ選手たち。 あきらは持ち前の駆け出しの良さを活かして先頭へ躍り出るも、他校の選手もあきらをジリジリと追い詰めて来る…。
流石のあきらも焦りを隠し切れない様子で、キックターン(プールの壁を蹴るターンの方法)も思った通りのスタイルが出せなかった。 しかしあきらは、身軽さも自分の武器としているため、それを活かしてリカバリーを図った。
結果、この回の順位では、あきらが1着となった。 ギリギリではあったが、栄光の1位とあって、隆太たちは安堵と歓喜の声を上げた。
次いで、隆太がスタート台に立った。 緊張がいつも以上に強く、胸がドキドキする…。 しかし隆太は、みっともない成績を出せば友加里に笑いものにされる…と自分に言い聞かせ、その恐怖を払いのけた。
スタートは良い感じで切り出せた。 だが他校の選手の速さは凄まじく、隆太はたちまち横並びされ、やがて、数名の選手に追い抜かれてしまった。
だが隆太にも根性がある! まだ相手との遅れは微々たるものなので、最後の自由形に移った際、巻き返しのチャンスはあると信じて、最終ターンへ突入直後、これでもか!と言わんばかりの猛追を見せた。
結果、隆太は2着。 1位の栄冠こそ逃したが、自身の記録としては最速記録を樹立しており、これならば、友加里に引けをとらないタイムとなったと確信した。
休憩を挟んで、次は女子の部がスタートした。 まずは友加里がレーン上に立ち、アナウンスで名前が読み上げられると、高々と右手を上げた。
そしてスタート!! 友加里は無心で自分らしい泳ぎをイメージして、他の選手を引き離した。 その姿はどこか人魚のようにも見えてしまったが、隆太にとっては、女の意地…というか、積年の悔しさをここで晴らそうという彼女の強い意思が伝わって来るように思えた。
いや、それは隆太のみならず、周りの選手にも十分アピールできたと思われた。 友加里は終盤、少々スタミナ不足を否定しきれないぎこちなさを見せたものの、タイム的には1位でゴール。 そして、隆太のタイムと比較すると、ほんのわずかではあるが、隆太の記録を上回っていた。
「どう?…やったよ…?? 隆太…??」
プールから上がって来た友加里の眼差しは、強い負けん気と、彼への勝利への恍惚で、見たこともないような色をしているようだった。
「ゆ…友加里、、、まいったまいったwww いままで水泳じゃ友加里に勝ってると思ってたけど、ここに来て負けることになったとか、友加里様、恐れ入りましたwwwww」
友加里は大いに高笑いしてやりたいところだったが、まだ大切な仲間の競技が残っている。 補欠で出場した愛莉が、この後出番を迎えるのだ。
友加里は、ただでさえ大会や競技に参加したことなどない上、学校の名誉から、自らに寄り添ってくれた仲間達…特に、個人レッスンに付き合ってくれたあきらのことを思うと、強いプレッシャーに押しつぶされそうになっている愛莉を、手を握りながら力強く励ました。
友加里「いい!? リズムよ!! たとえ出遅れても、音楽と同じで、自分のリズムを守って泳ぐのよ!! 焦ると元も子も失うよ!!」
隆太「愛莉!!頑張って!! 今までの自分を信じて、全力で挑めば大丈夫だよ!!」
あきら「もうここまで来たら、やれるだけのことはやれ!! 勝ち負けじゃなくて、悔しくない泳ぎをしろ!!」
愛莉「みんな…!! ありがとう!!(*^-^*)」
スタート台に向かう愛莉を、3人は親指を立てて見送った。
そして競技開始!! 一見、全員が順調にスタートしたかのように思えたが、やはり愛莉は、他校の選手に置いて行かれているのが明確であった。
友加里「だめよ!!愛莉!! リズム乱れてる!! 冷静になって!!!!」
隆太「頑張れぇぇぇ!! クロールは順調だ!! 後はこのまま焦らず進めぇぇぇ!!」
あきら「…はっ!! 愛莉!! まずい!! ちょっとストロークがおかしくなってきてる!! 愛莉!! 落ち着け!!落ち着くんだぁっ!!!!」
…愛莉は愛莉で、必死にゴールしようと泳ぎを続けていた。 しかし、初めての大会である上に、他校選手の圧倒的な泳力に圧倒されてしまったか、ターンを重ねるごとに、愛莉はどんどん引き離されてしまう…。
最終ターンに至っては、まさに「満身創痍」といった表情でゴールパネルをタッチしたが、そのタイムはもはや見るまでもなく、7人中7位…。 つまり、最下位に終わってしまったのであった…。
…愛莉がプールから戻って来た。 隆太たちは、愛莉の泣きそうな表情を前に当惑したが、すかさず隆太が声を掛けた。
「愛莉…。よかったよ。 よく頑張ったね。 最後まで棄権しないで泳ぎ切ったこと、初めての出場としてはすごいよ!!」
友加里「そうだよ愛莉!! 結果とかじゃないよ!! 愛莉は、大会に出られたんだし、そこでちゃんと、泳ぎ切ることができたんだから、じゅうぶん凄いよ!!」
あきら「愛莉!! 来年はきっと、上位に入れるように一緒に頑張ろうな!! 俺も、できる限り愛莉と一緒に練習するよ!!」
愛莉は、バスタオルで顔を覆っていた。 大泣きしている表情を見られまいと必死だったのだが、やがて、皆の優しい言葉に涙をこらえきれなくなり、会場の片隅で泣き崩れた…。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~~~ん…!!!!!!」
あきらが、ドキドキしながらも、愛莉を優しく抱きしめて…
「愛莉!! 愛莉はよく頑張ったよ!! この悔しさはまだまだ晴らすチャンスがあるよ!! …でも、悔しい気持ち、よくわかるよ…。 今は、泣いちゃってもいいって。。。 ある卓球選手だって、子供の頃は負ける度に泣いていて、それでも立ち上がり続けて、オリンピックへの道を手にしたんだから…。 愛莉のいまの涙は、必ず未来への夢を育てて、頑張れる自分に成長していけるんだよ!!」
「ああ、、、あきらぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わぁーーーーーーーん!!!!!!」
友加里と隆太は、彼らの様子を遠巻きに見ていたのだが、あえて水を差すようなことは躊躇われ、二人が戻って来るのを黙って待っていた。
「愛莉…、泣いてるね…。 やっぱり、悔しかったんだろうね。 負けたことよりも、自分として一番の泳ぎができなかったことがね…」
「そうだろうね。 愛莉は、一生懸命に頑張って来たんだけど、初めての大会だったから、無理もないのかなぁ…?」
「そうだね。 愛莉はバンドやってるでしょ。 音楽演奏する時だって、たった1つ2つ音をはずしただけでも、音楽って台無しになっちゃうでしょう? それと同じで、ちょっとしたミスが出ることを克服しきれないから、泳ぎのリズムが狂っちゃって、自分のイメージ通りにならなかったんだね。 ウチも、音楽やってるからわかるよ…」
「うん。。。 でも後で、愛莉のこと、みんなで慰めてあげようね。」
「そうだね。」
「…ところで、隆太? ウチのタイム見た!? 勝ったよね!? 明らかに勝ったよね!? つwいwにw!!」
「み、、、見たっての!! そんなこと、大声で言わなくったって…」
「いやっほ~♪ 中2になってやっと、水泳でのライバルである隆太に勝った~~~!!ざまぁ~~~!!」
「う、、、うるさいなぁ…、、、そりゃ、何度も対決してりゃ、一度くらい負けることだってあるよ…ww」
「はいはいはい…www 負け惜しみは十分承知しましたwww …それより、後で聞いてほしい話あるんだ。
大会終わったら、ウチと隆太とで、帰り道一緒に来てくれる??」
「えっ…、、、うん。。。」
…隆太の胸に、再び友加里についての不安感が過るような言葉だった。
やがて大会の個人戦は終了し、1位のあきら、友加里、2位の隆太はそれぞれ賞状とメダルを授与された。 後に学校が始まった暁には、全校朝会で壇上で校長先生からも賞賛の言葉を受けるだろうから、学校内でちょっとしたスター気分になれそうだが、本人たちはそれ以上に気にかけていることを持っているので、あまりそのことが意識の中になかった…。
続いて水泳は団体戦が行われていた。 先輩である杏奈が出場している。 杏奈はこの県大会を最後に、受験生となるので部活動は引退する。 彼女にとっては最後の大会だ。 隆太たちは杏奈の泳ぎを一途に見守り続け、結果的に隆太たちの学校は、総合3位という成績を収めることができた。
プールから上がって来た杏奈は、個人戦の様子などを隆太たちから聞いた。
「そっかあ。 織畑は残念だったねぇ…。 でもさ、織畑はこのまま水泳続ければ、高校入ったあたりで泳力が急成長するかもしれないじゃん!! 確かに、水泳始めて日が浅いから、技術はそう簡単には上達しないだろうけど、織畑はほかの部員と違って、一番気合い入れて練習してるって、アタシは思ってるよ!! だから、これからもあきらめないで頑張って!! アタシ、織畑がいつかオリンピック選手になったら、絶対徹夜してでもテレビ中継観る!!いや、現地に直接応援に行くわ!!」
「杏奈先輩…、、、そ、、、そんな…」
「しっかし男子どもは面目躍如ってトコだったなーww このぶんだと、次期の部長は柊!お前に決まりでいいな!!」
「ちょっ…!!そ、、、そんな、、、!! お、俺には荷が重すぎますって…!!」
「バーカ!!そんな弱腰でどうする!! アタシだってそんなふうに部長に任命されたんだよ? なぁに、いざ任命されちゃえば、度胸が自然と据わってくるもんだって!!」
「・・・・・・・・。。。。。。」
こうして水泳の大会は、恙なく幕を閉じた。 それぞれの想いは様々な未来を向いていたが、彼らは間違いなく、今ある青春を謳歌していたのであった。
そして帰り道、隆太は友加里と一緒の電車に乗り、もうすっかり外は暗くなった頃に、自分達の住む家の駅へと戻って来た。
二人は、そのまま手を繋ぎながら、学校の近くにある公園へと歩いて行った。 もう夕暮れ時を過ぎてるので、人影は全くなかった。
「隆太…、もしかして、あきらって、愛莉のこと…??」
「ゴホッゴホッ!! そ、、、それは、、、」
「まぁいいじゃん。 ウチらの恋仲だってバレバレなんだし、むしろ、いまさら好き同士になったの~?って感じしない??」
「う…、うん。 まぁ…」
「あ、、、その、隆太…。 話したい事って、そんな事じゃないんだよ。 もっと大事なこと!!」
「な、、、何…?? また、恋愛終わりにしよう宣言とか…??」
「ちっ…、違うよ…。」
…友加里は、少し涙を浮かべながら、隆太に少し背を向けながらこう話した。
「もうすぐ夏休みだよね。 でも、、、ウチ、今年は隆太と一緒に過ごせない…。 隆太に1か月も淋しい思いさせちゃう。。。 でも許して!! これも、ウチの未来のためなんだよ!! 今頑張らないといけないんだよ!! ウチだってメッチャメチャ辛いんだよ!!!!」
「??? …な、、、何があるの…???」
「うん。 ウチ、親の勧めで、夏休み中はほとんど、遠くの方にある音楽スクールに通って、作曲家になるために必要な勉強をすることになってるんだ…。 それで、その間は、友達と会うことは勿論、電話やメールも一切禁止だって…」
「そ、、、そんな…!?!?」
「ごめんね…。 夏休み、隆太は隆太で、いい思い出作ってね。。。」
…友加里は、そう言い残すと自分から足早に帰宅してしまった。
その夜、隆太は複雑な思いを錯綜させることになった。
「1か月も友加里と話ひとつできないなんて…。 でも、涼子さんとなら遊んだり水泳したりできるか!! …でも、友加里がいないなんて…、、、そんなの、、、そんなのって…」
…月日は矢のように流れ、気が付けば終業式を迎えていた。
終業式の帰り道、友加里と交わした 「じゃあね、ばいばーい!」 という言葉を最後に、夏休み中は彼女の声も姿もない、空虚な毎日を過ごす隆太であった…。
- つづく-




