白銀の龍の背に乗って
いつの間にか気を失っていた。
体は鉛のように重く、全身が筋肉痛で動けないと感じるほどだった。
実際、腕を少し上げようとするだけで激痛が走る。
どうやら仰向けで寝ていたらしく、空には綺麗な夜空と三日月があり、雲は俺の僅か上をどんどん流れ…。
え?雲近くない?
そんなことを思っていると、何やら歌が聴こえてきた。
「少年よ〜 聡明だ〜 よく眠れ〜♩」
メロディと歌詞には覚えがなかったが、この声には聴き覚えがあった。
おそらく龍白が近くで歌っているのだろう。
俺が気を失った後に何があったかは定かではないが、
龍白に助けられたのはほぼ間違いないと思う。
安心感よりも先に、これが夢じゃない現実を突きつけられて気が重くなった。
俺は部活の最後の大会直前に怪我をして、諦めきれずにできることを探していただけだった。
ただそれだけだった。
それなのに、いつの間にか命を懸けた戦いに身を投じることになるとは…。
あれ?そういえば、カンナはどこ行ったんだ?
覚えているのは、龍白がカンナを抱きしめて、奇声を上げながら宙に浮いてぐるぐる回ってる場面だった。
とりあえず、寝ていてもしょうがないのでなんとか起きあがろうとするも…。
「痛っ…。」
やはり、全身に痛みが走り起き上がることができない。
野球部の地獄の冬トレでも、こんなに筋肉痛が酷くなることはなかった。
どうしたもんかと考えていると、突然見上げていた夜空が消え、代わりに俺の視界の全てが龍白の顔になった。
「お!起きたわね!」
気配もなく近づいてきたのと、龍白の顔との距離が数センチくらいしかなかったので、ひどく驚いてしまった。
「うわぁ!!痛ったぁ!!!」
反射的に起きそうになったが、筋肉痛がそれを邪魔する。
龍白はそんな俺を見て、少し離れると同時にケラケラ笑っていた。
「あはははは!ごめんなさい、全身痛いわよね。今、治してあげる。【白龍癒】!!」
龍白の白く美しいオーラが俺を包む。
さすがに即完治とはならなかったが、だんだんと体の痛みが和らいでいくのを感じる。
「体、動かしてみてもいいわよ。でも、あまり無理しないでね。」
「は、はい。」
さっきよりマシとはいえ、筋肉痛は俺を襲い続けた。
それでもなんとか上体を起こす。
最初に目に飛び込んできたのは、夜空と少しの雲。
そして、雲の少し下を伸びる白銀の長い何か。
動いているので、おそらく生き物のようだ。
尻尾と思われる部分には、俺を包んでいるのと同じオーラで作られたような球体が見えた。
直径は五メートルくらいになるだろうか。
足元を見てみると、鱗のようなものが見えるので優しく触れてみる。
とても硬いが、心地よい温もりと命の鼓動を感じた。
ゆっくり振り返ってみると、何やら楽しそうな龍白がいた。
そしてすぐ後ろに、大樹の幹のように伸びる角のような物体と、月明かりで光輝く白い毛のようなものが見えた。
「どう?龍郎の乗り心地は?」
龍白がニコニコしながら話しかけてきた。
白い着物のような服、カンナと同じ長い黒髪。
見た目は二十代くらいの女性で、誰もが息をのむようなビジュアル。
忌悪のニヤニヤとは天地の差があり、俺は少し心臓の鼓動が早まるのを感じた。
「え、えっと…とっても快適です。」
「そうよね!この子、最高の龍なのよ!」
「るぉーーーーーーーーー。」
龍白の言葉に反応するかのように、夜空に神々しい龍郎の鳴き声が響いた。
龍郎の正体に確証はなく、龍白の言葉から予想するしかなかったが、俺たちを乗せて飛んでるこの生き物が龍郎で合っているようだ。
そして、龍郎は龍らしい。
「龍白さんですよね?助けてくれてありがとうございます。」
「気にしないで。むしろ、遅くなってしまってごめんなさい。大変だったと思うけど、類ちゃんを助けてくれてありがとう。えっと…。」
「廻神大助です。大助って呼んでください。」
「えがみ!?字はどう書くの?」
理由はわからないが、龍白が俺の名字に興味を持っているようなので、龍郎の鱗に指で漢字を書いてみせた。
「ほわぁ、へえ、そう。」
龍白がなんとも言えないような表情をしていた。
「え?なんです?何かあるんですか?」
龍白は腕を組んで、少し唸りながら考え込んだ。
そして考えるのをやめ、軽く頷いた。
「うん、積もる話は後にしましょう。」
「え?」
「ここで話してもいいけど、類ちゃんはまだ寝てるだろうし、大助もまだ疲れてるでしょう?体調を万全にして、然るべき場所でゆっくり話しましょう。今のまま聞いても、途中で眠くなっちゃうわよ。」
聞きたいことは山ほどあるが、龍白の言うとおり、今は疲れと眠気が酷かった。
「わかりました。ところで、カンナはどこにいるんですか?」
「カンナ?あぁ、類ちゃんね!龍郎の尻尾のところにいるわよ。」
尻尾というと、さっきの球体のことだろうか。
俺が体を少し覆うくらいのオーラに対して、カンナはあんなに大きな球体の中にいるってことは、重症なのか?
それに、この人なんでカンナのことを類ちゃんって呼んでるんだ?
積もる話は後でとは言われたものの、カンナの容体くらいは聞くことにした。
「カンナ、そんなに状態が悪いんですか?」
「ん?いやいや、大助が気を失ってから、あの子動揺しちゃってね。神力はもう空なのに、あなたに全力の回復術使おうとしたから、あそこに入ってもらったのよ。」
カンナらしいというかなんというか、とりあえず無事なのがわかって安心した。
「そうなんですね、無事ならよかった。」
「入ったあとも出ようとして騒いでいたんだけど、だんだんと静かになったから、今は眠ってると思うわ。」
「本当にいろいろありがとうございます。龍白さんが来なかったら、俺もカンナも死んでました。」
「気にしないでって言ったでしょ?あなたたちを助けるのは私の生き甲斐みたいなものだから。」
どこか嬉しそうに話す龍白からは、なんとなく母親のような優しさを感じた。
「ほら、早く寝なさい。このあと大変なんだから。」
「はい、そうします。」
龍白が俺に背を向けると、龍郎に跨る。
そして、さっきの歌を歌いはじめた。
歌を聴きながら仰向けになると、龍郎の心地よい温もりが伝わってきた。
「龍郎もありがとな。」
背中に乗せてもらっているし、なんとなく龍郎にもお礼を言いたくなった。
すると、
「るおーーーーーーーーーーー。」
龍郎が、また神々しい鳴き声を響かせる。
もしかして、言葉を理解しているのか?
まあ、それも含めて後で聞けばいいか。
そんなことを思いながら、再び眠りにつく。
白銀の龍の背に乗って、俺たちは先を急いだ。
ーーーーーーーーーーーー
黒い雲に身を任せながら飛んでいると、領地が見えてきた。
息子が暴走して、天翔家の領地に入ったと部下から連絡がきたときは気が気じゃなかった。
もうすぐ神々の戯れ(ゴッドゲーム)が始まるというのに、馬鹿息子は未だに神従者を決めようとしない。
息子なりに努力しているのは理解しているが、数多の神従者を呼びだしては使い捨てるような真似を続けたせいで、部下達の間では災禍忌悪は気がふれてしまったなどと噂になってしまっている。
元々変わったところはあったが、こんなに目に見えておかしくなったのは初めてかもしれない。
原因はいくつか思い当たる節があるが、おそらく一番の原因は本家に召喚されたあの日だろう。
三十年前の神々の戯れ(ゴッドゲーム)の日、当主様からの要請で息子を連れて荒闇家に行き、気づいたときには息子の様子がおかしくなっていた。
神々の戯れ(ゴッドゲーム)で勝つことに、異常な執着を見せるようになったのだ。
おそらく、本家の誰かが息子に何かをしたのだろう。
確証はないが、他の荒闇家の分家からも本家が不穏な動きを見せていることは聞いている。
実際、神々の戯れ(ゴッドゲーム)当日には、荒闇家の分家のほとんどが本家に集まることになっている。
神々の戯れ(ゴッドゲーム)が開催されるたびに、上位神候補のいる家が本家に集まって、今後についての会議をするのは慣わしの一つではあるが、候補のいない家にも招集をかけるのは異例だ。
今回の神々の戯れ(ゴッドゲーム)、何やらきな臭くなってきた。
息子を守るためとはいえ、私のとった行動は正しかったのだろうか。
そんなことを考えているうちに、屋敷の近くまで来てしまっていた。
門の前には門番二人と、部下が一人立っていた。
いつもは門番だけなのだが、何やら嫌な予感がした。
門から少し離れた場所に着地すると、黒い雲は散開した。
忌悪は意識はあるものの、まともに立つこともできないので右腕で抱えている。
部下が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「忌剛様、おかえりなさいませ!大変でございます!」
「何事だ。」
「荒闇大御神様が、こちらに向かっていると、本家から連絡がきました!!」
どうやら、嫌な予感が的中してしまったようだ。
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次回更新は、10月20日(火)22時頃
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