付喪神形態
「な、なんだよこれ!ていうか、カンナ!?カンナどこ行った!?」
思い返すと、カンナが俺にしてきたことはあまりにも唐突すぎる。
いきなり呼び出すし、敵と命を懸けた追跡劇を始めるし、殺人鬼のような狂った奴とも戦闘になっている。
そして今度は、戦況が悪いからぶっつけ本番の奥の手を使うと言いだした。
百歩譲ってここまでなら我慢できるが、今回は度が過ぎていると思う。
奥の手を発動すると同時に、光の中に溶けてすっかり姿が見えなくなったのだ。
某バンドの曲の歌詞が、ふと頭に思い浮かぶ。
「ほんとに、今更消えるやつがいるかよ。」
『いいえ、消えてませんよ?』
「うわ!?びっくりしたぁ!カンナか?」
『はい、私はちゃんと側にいますよ?』
姿は見えないのに、カンナの声が聞こえてくることも含め、俺は非常に困惑した。
「なあ?これ一体なんなんだよ?」
『言ったじゃありませんか?奥の手ですよ。』
「いや、そういうことじゃなくて、これは一体どうしたら…」
『【天翔風】!!!』
狩衣が強い光を放ち、俺を起点に凄まじい風が吹き荒れ、上空からの攻撃を全て防いだ。
分身達は俺の上空を旋回しながら、黒い塊を何発も連射してきていた。
カンナはそれを感じ取ったらしく、風で全方向を防御してくれたようだ。
今日、何度お世話になっただろう?
風さん、あんたがMVPだ。
『大助、この形態になっても範囲技は隙ができやすいんです。極力使わせないでください。』
「そんなこと言ったって…。いや、そもそもお前どこにいるんだよ。」
『説明は後です!危ないときは助けますが、基本は自分で避けてください!ほら来た!』
「うわぁ!」
分身達の攻撃を、横に飛んでなんとか躱した。
急に飛んだせいで力の加減がわからず、俺は十メートル以上も横に飛んでいた。
契約直後にも身体能力は上がってはいたが、カンナの奥の手が発動してからはまた更に上がっている気がする。
こんな短期間に二段階もパワーアップするとは、某ヒーロー達もきっとびっくりしていることだろう。
散々攻撃しても成果が得られない分身達は、一度上空で止まった。
「んんん?あいつ、なんか強くなってないか?」
「強敵!強敵!」
「本体様!あいつ強くなってますよ!」
分身達のまどろっこしい様子を見ても、相変わらず男はオーラを湧き上がらせるだけで、動いていなかった。
しかし、怒っているのは手に取るように分かる。
「知るかぁ!三馬鹿共!てめえらでなんとかしろ!」
これはもう、確信を持っていいのではないだろうか。
おそらく、男はこの三馬鹿分身達を出してる間は動くことができない。
ということは、三馬鹿の隙をつけば…。
俺はタイミングを図ることにした。
『大助、慣れてきた頃でしょうし攻撃に転じましょう!』
「わかった!」
よし、やっと俺のターンか。
よくも上からアホみたいに攻撃してくれたな。
カンナがやっているのをたくさん見聞きしたので、俺にだってやれるはずだ。
俺は掌を真上に掲げた。
頼むぞMVP。
「天翔風!!」
三馬鹿達は身構えた!…が、下からとても優しいそよ風が吹いてきただけだった。
「はぁ!?なんで範囲攻撃できないんだよ!」
『大助、凄いじゃないですか!私が初めてあの術を使ったときはもっと弱い風でしたよ!』
「いや、呑気か!今は戦闘中だから…おおっとぉ!」
黒い塊をすんでのところで避ける。
風さん、やっぱりMVPは剥奪だ。
三馬鹿は固まって行動はせず、ずっと俺の上空で円を描きながら等間隔を保って攻撃し、俺に黒い塊の雨を降らせていた。
「なんだ!強くなったのは姿だけで、何も怖くないじゃないか!」
「見掛け倒し!見掛け倒し!」
「本体様!あいつ倒せそうですよ!」
好き勝手言ってくれるが、喋るときは攻撃が止むときなので非常に助かっている。
しかし、馬鹿にされるのはとてつもなく気分が悪い。
『大助、何してるんです!早く攻撃してください!』
「やってるんだって!でも、術がカンナみたいに上手く使えないんだよ!」
『いや、当たり前じゃないですか。私の修行した二百五十年が、あなたの僅かな時間に負けるわけがないでしょう?』
「どこ張り合ってるんだよ!今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
カンナはとても良い神様なのは分かるのだが、余裕が生まれたらポンコツ気味になるのはなんとかならないのか?
さっきまで死ぬ覚悟をしていたマインドセットはどこに行った?
とはいえ、俺も最初の絶望的状況に比べたらだいぶ雑念が増えてる気がする。
集中しないと…。
『いいですか?今の私は付喪神形態といって、狩衣の姿をした力の塊のようになっています。あなたはただ、一番戦いやすい方法を想像しながら戦えばいいんですよ。』
「そういうことは、一番最初に言ってくれないかな?」
そんな話をしていたら、またも三馬鹿からの攻撃が向かってきていた。
…俺が一番戦いやすい方法。
あれしかないよな。
俺はいつも左手にはめてきたアレを強く想像した。
『【神の手袋】!!』
いつのまにか左手には、慣れ親しんだ野球のグラブがあった。
あれ?ほんのり光ってる?
驚いてる暇はない。
俺はすぐにグラブを攻撃のほうに向けると、攻撃はグラブのポケットに全て収まり、中には野球ボールサイズの黒い球体が入っていた。
「さっきは投げたから、次はこれだろ。」
俺はグラブの中の黒い球体を、左手首とグラブの先を使い、ヒョイっと上にトスをした。
そして、グラブ同様慣れ親しんだあの棒を想像した。
『【神の金属棒】!!』
グラブが消え、代わりに左手には金色に輝く金属バットを握っていた。
すぐさま俺は打撃フォームを構えて、腰の辺りの高さに落ちてきた黒い球体めがけてフルスイングした。
『【神の打撃】!!』
カキーン!!と良い音がした瞬間、ボールは二つに分裂し三馬鹿のうち二人に直撃し爆発した。
「ぎゃああああ!」
「…反…則、反則…」
上空十数メートルあたりの高さから二組の分身が落下する。
「一号!二号!」
「【神の球】!!」
バットは消え、右手にはいつも投げている赤い縫い目の入った硬式の野球ボールを握っていた。
…やっぱりほんのり光ってる。
そんな事を思いながら、振り向いて背後にいる三馬鹿の残りに向かって投げる。
「【神の送球】!!」
矢のような送球が残りの分身に直撃し、爆発した。
「本体様…申し訳ありません。」
三馬鹿はまだ消えてない。
今がチャンスだ。
「【神の履物】!!」
足には履き慣れた野球用のスパイクを履いており、男めがけて走った。
周りの景色が一瞬にして過ぎていく。
体感としては、高速道路を走る車に匹敵するくらいの速度が出ているような気がした。
男はやはり動いていない。
俺は勢いを殺さず、男との距離が五メートルを切ったところで、飛び蹴りを放った。
野球のスパイクの裏は鋭利な金属がたくさんあるので、人に限らず絶対に蹴ったりなんかしてはいけないのだが、今は非常事態だ。
男はまだ動いていない。いける!
俺が勝利を確信した瞬間、凄まじい速さで黒いオーラが男に戻っていったのが見えた。
オーラはそのまま男の右拳に集まっていく。
そんなのありかよ。
「【災禍・暴風】!!」
「おおおおおおお!!」
俺のキックと男の暴風を纏った拳が激突する。
カンナの力所以のスパイクなので、壊れる心配はなさそうだが俺の脚はとてつもない衝撃に襲われた。
次の瞬間、俺も男もそれぞれ後方に五メートルほど飛ばされた。
俺は着地したと同時に、右膝をついてしまった。
脚の状態を確認する。
多少痺れてはいるが、問題なさそうだ。
「【災禍・暴風】!!」
嫌な予感がして顔を上げると、男がもう目の前で攻撃態勢に入っていた。
俺とは違い、着地と同時にすぐさま反撃してくるなんて、戦闘経験が違いすぎる。
咄嗟に上からの攻撃に備え、両腕で防御の構えをとったが、俺の左目にはオーラを纏った男の右脚が見えた。
やられた。
パンチばかり見ていたので下を警戒してなかった。
どうする?何ができる?下?…あ!
あまり着けたことはないが、俺は見慣れたアレを想像した。
「脚がガラ空きだぞぉ!くらえ!」
「【神の脚防具】!!」
ゴォンという鈍い音が辺りに鳴り響く。
俺の左脚には、キャッチャーの脚用の防具が装着されており、これも例の如くほんのり光っていた。
「ぐあぁぁぁ!」
男はレガースを蹴ったことで大ダメージを負ったようで、右脚を抱えながら倒れ込んでしまった。
「はは…。キャッチャーのレガースなんて蹴るもんじゃないぞ。」
危機を脱した安心感はあったが、警戒は緩めなかった。
とはいえ、俺も初めての戦闘でだいぶ力を使ったので、意識が飛びそうになった。
レガースと羽織っていた狩衣が淡く光り、粒子状になって弾けた。
その粒子が集まって人の形になり、カンナが俺の目の前に現れた。
「大助!大丈夫ですか!?」
「…まあ、なんとか。」
カンナは心配そうにしゃがみ込み、俺の顔を覗き込む。
カンナも随分と疲弊しているようだった。
言いたいことは山ほどあったが、置いてかれてなかったからとりあえず後にしよう。
それよりも、今は目の前の男だ。
男は仰向けになってぶつぶつ何かを呟いていた。
「…こっちの世界でなら何でも思うままになるって言うから話に乗ったんじゃねえか。話が違げえぞ。…あぁ?俺のせいだって言いてえのか?…」
不気味で恐ろしいのは相変わらずだったが、何か違和感があった。
誰かと話しているのか?
俺もカンナも満身創痍で、これ以上の戦闘は厳しい。
増援が来たらまずい。どうする。
すると突然、男からどす黒いオーラが空に向かって放射された。
高さは五メートルくらいになるだろうか。
男の体が徐々に黒く染まり、やがて跡形もなく消えた。
「なんだよ、これ。」
「気にしないでください。実験体が消えただけですから。」
何処からともなく声が聞こえてきた。
カンナかと思ったが、カンナは俺の目の前で目線をあっちこっちにやって警戒している。
「ははは、そんなに固くならないでくださいよ。」
黒いオーラは、徐々に人の形になると輪郭を露わにしていき、黒い朝服を着た、端正な顔立ちの人物が現れ不敵に笑った。
「初めまして。災禍家上位神候補、災禍忌悪と申します。」
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次回投稿予定は、10月16日(金)21時です!




