誰(た)がために
亀蒼が右手を挙げると、亀吉が口を開いた。
亀吉の顔の前に、空気の塊のような球体ができあがっていく。
周囲にはいくつかの海流ができているようで、海中が揺れているように感じた。
球体が蟹蔵ぐらいの大きさになり、亀蒼は右手を前に伸ばし叫んだ。
「撃て!亀吉!!」
亀蒼の合図で、亀吉が球体を放った。
球体は一瞬で遠くに飛んでいき、すぐに見えなくなった。
地面には触れていなかったように見えたが、球体が通った地面が抉れていて、その威力の凄まじさを物語っていた。
「亀吉は何をしたんですか?」
カンナが聞くと、亀蒼はご機嫌な様子で答えた。
「切り込み隊長に贈り物を贈ったのだよ。さあ、我々も続こうじゃないか。」
そう言うと、亀蒼は再度右手を挙げた。
よくよく考えると、亀蒼のこの動作は必要ないのではないかと思ったが、機嫌を損ねそうなので聞くのはやめておいた。
そんなことを考えていたら、亀吉はもう二発目の発射準備を終えていて、一発目より小さく、ちょうど四人が入れそうな球体ができていた。
「よし!皆の衆、行くとしよう!」
亀蒼が突然走りだした。当たり前のように海の中を走っている。
「えぇ!?あれ大丈夫なんですか!?」
「亀蒼の術で守られているから、亀吉と一定の距離を保っていればなんともないわよ。」
驚く俺とは対照的に、龍白は冷静だった。
「それより、ここからが本番ね。気合い入れていくわよ!」
「はい!」
龍白に鼓舞され、俺もカンナも気を引き締めた。
そして、亀蒼に続いて三人で走りだす。
甲羅から飛び降り、亀吉の首を走り抜け、頭のてっぺん辺りで球体に向かってジャンプした。
球体にぶつかると思い咄嗟に防御姿勢を執ったが、触れた瞬間体はフワリと浮いて球体の中にいた。
亀吉は全員が球体に入ったのを確認すると、首を縦に振った。
その瞬間、俺達を乗せた球体は高速で動き始めた。
ふと後ろを振り向くと、亀吉が頑張れと言っているかのように、両前足を挙げているのが見えた。
ありがとう、頑張るよ。
「この球体凄いですね。蒼様の術ですか?」
「いや、これは亀吉の得意技で、私は亀吉砲と呼んでいる。」
そのまんまだなと心の中でツッコんだ。
「亀吉砲は場合によって使い分けができる技で、神力を必要としない。故に、今回のような潜入作戦には持ってこいなのだよ。ちなみに、我々が乗っているこれは移動用だ。」
「じゃあ、最初の一発目は?」
俺が聞くと、亀蒼はとても悪い顔をしていた。
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蟹は全速力で海底を走っていた。
理由は単純、自分を頼ってくれた友を助けるためだ。
弱肉強食の世界を生き抜き、誰もが認める立派な蟹になった。
しかし、歴戦の蟹になったものの何かが足りないと思うようになった。
それが何かわからず、ただ生きるために食べ、襲い掛かってくる敵を倒す日々を過ごしてきた。
それでいいと思っていた。
だが、蟹は出会ってしまった。
自分よりも強く、倒したいと思える強敵に。
その強敵を従える、自分に熱い思いを伝えてきた友に。
友は訪ねてきた。
見返りは何がいいかと。
蟹は見返りなど欲していなかった。
なぜなら、欲しいものはすでにもらっていたから。
しかし、それを伝える勇気がなかった。
だからこう言った。
美味い飯とお前の持つ良い匂いのする玉が欲しいと。
その為なら、なんでもやると。
本心がバレてしまったかはわからない。
そんなことはどうでもいい。
やると言ったからには、蟹のプライドにかけてやるのだ。
突然、蟹は後ろから物凄い衝撃に襲われた。
これは、友が言っていた贈り物だろうか。
体が浮いているように軽く、いつもの倍近く速く走れる。
友は近くの島にいる敵を蹴散らしてほしいと言った。
ただし、命の危険は冒すな、約束が守れなくなると。
友からの言葉に、深い思いやりを感じた。
だから、蟹は決心した。
これが終わったら、感謝を伝えよう。
出会ってくれてありがとう、頼ってくれてありがとう。
不格好だが、自分なりの精一杯の言葉を伝えようと。
蟹はスピードそのままに、島に上陸した。
友の言った通り、小さき者共がわんさかいて何やら攻撃してきた。
攻撃は無数に降り注いだが、それは蟹にとって強固な岩に体当たりをする小魚と同じだった。
行く手を阻む者を全て蹴散らし、友の指示した場所に向かう。
そういえば、友に伝えなければいけないことがもう一つあったことを思い出した。
伝える言葉を考えていると、指示された場所が見えた。
そこには、棒のような物を持った小さき者共がいた。
蟹は全速力で距離を詰め、両のハサミを振り下ろした。
役目を果たしたのだ。
同時に、友に伝える最後の言葉も思いついた。
私は雌だから、蟹蔵はやめてほしいと。
直接会って伝えよう。
蟹はそんなことを考えながら、友に役目を終えたことを伝えるため念を飛ばし、ゆっくりと海へ潜っていった。
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亀蒼は、一発目の亀吉砲には肉体強化、主に俊敏性をあげる効果があることを教えてくれた。
それを走っている蟹蔵に撃ったことで、島の浜辺に陣取っている索敵部隊の壊滅を手助けしたのだそうだ。
蟹蔵も相当な速度で走っていたはずだが、それに追いつくとは亀吉砲とんでもないな。
術の効果で蟹蔵と念話のようなものができるようになったそうで、簡単な内容なら意思疎通ができるそうだ。
蟹蔵様様だな!と、皆で喜んでいた。
そして、遂に俺達も陸に上がり球体は霧散した。
蟹蔵とは離れた地点で上陸したらしい。
辺りを見渡してみると、遠くのほうで煙が上がっているのが見えた。
「蟹蔵、無事でしょうか?」
カンナが心配そうに煙が上がっている方角を見る。
すると、龍白が微笑みながらカンナの頭を撫でた。
「蟹蔵なら心配ないわよ。亀蒼の加護もあるだろうし、何より神甲蟹に勝てるやつなんて数えるほどしかいないもの。こっちはこっちで、やるべきことをやるわよ!」
「はい!白姉様!」
ここまでは上出来、感知にも引っかからず全員無事に上陸できた。
なのに、亀蒼は怪訝そうな顔で島を見つめている。
「亀蒼さん、どうしたんですか?」
「以前来たときと比べて、島全体の神力が強まっている。」
「災禍家の情報にもあった、森の異変に関係があるんですかね。」
「森の中なら特におかしなことはない。呼魂の祠が新しくできたのなら、よくある現象だからな。しかし、森から離れたこの場所にまで力が満ちている。あまりない事例だ。」
「謎の襲撃者が関係あるんですかね?」
「わからないが、目的は変わらぬ。未知の襲撃者と災禍家に気をつけて進むほかないだろう。」
「そうですね。」
何が待っていようと進むしかない。
龍白も亀蒼もいる。
自分の願いの為、そしてカンナの為、俺達は島の中へ進んだ。
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〈少し遡り、荒闇大御神来訪時の災禍家〉
「ぐああああああああああああああああああ!!」
「ち、父上……。」
黒い電撃による痛みが、全身を駆け巡り倒れてしまった。
既に電撃を受けた忌悪が、うつ伏せのまま私の身を案じている。
「立て。その程度で許されるとでも思っているのか?忌剛よ。」
意識が朦朧とする。
大御神様に報告をし、逆鱗に触れてしまった。
こうなることは、龍白に情報を渡したときからわかっていた。
「瀕死の息子を救うため、私にも報告していない霊生の森の情報を敵に渡したということでいいだろうか。」
「……は、はい。うまくいけば、謎の襲撃者と天翔家が相打ちになり、呼魂の祠への道も開かれる算段があり……。」
「口答えするなぁ!!」
「ぐああああああああああああああああああ!」
先程よりも強力な電撃が、再び全身を襲った。
「普通の相手なら何の問題もなかっただろう。しかし、天翔家となれば話は別だ!わざわざ敵に塩を送りおって!」
「……返す言葉もございません。」
「私はな、息子を守ったその手腕は評価しているんだ。忌悪を失うのは、私の計画にとっても相当痛手だからな。」
痛手?大御神様は忌悪を使って何をしようとしているんだ?
「しかし、そもそも襲撃者なんぞにやられるような部隊を編成したせいでこんなことになっているのだろう?忌悪も未だに神従者が見つからない始末。荒闇家分家筆頭が聞いてあきれるわ。」
「も、申し訳ありません。」
指すらまともに動かせなくなった自分の身よりも、得体のしれない大きな渦に巻き込まれようとしている息子のことが気になった。
一体何が起きようとしているんだ。
「八つ当たりしても仕方ない。蛇目女はいるか。」
突然、大御神様の横に黒い穴ができ、中から黒い着物を着た赤黒い髪の女が現れた。
荒闇家・三矢の一人、蛇目女だ。
「はい、ここに。」
「今すぐ霊生の森に向けて出発せよ。邪魔者は皆殺しで構わぬ。」
命令を聞くと、蛇目女はニヤリと笑った。
「かしこまりました。天翔家に目にもの見せてやりましょう。」
十三話ご愛読ありがとうございます。
怒りの毎日投稿中です。ベイスターズお疲れ様でした。
次回も不定期投稿となりますが、なるべく早く投稿しますので、よろしくお願いします。
それではまた次回会いましょう!!




