作戦開始
龍郎に乗ってから随分と時間が過ぎ、気づけば日が落ちかけていた。
雲がどんどん流れている様子を見るに、尋常じゃない速度で移動しているのがわかる。
前もそうだったが、龍白の術のおかげなのか、雲を通り抜けても雨風は感じなかった。
今回の目的地の霊生の森がある雫島には、災禍家の部隊が大勢いる。
龍白曰く、倒すだけなら一人でどうとでもなるが、最大の目的は俺達の新しい仲間の自眷属を見つけること。
下手に攻撃すれば、森に被害が出て探索が困難になるだけじゃなく、天翔家と災禍家の全面戦争になりかねない。
なので、今回はどうしても避けられない場合以外は隠密行動で、見つからないように暗くなるタイミングで島に潜入するらしい。
この世界に来て二日目、忙しなく動いているが慣れてきている自分に少し驚いてしまう。
そんなことを考えていると、亀蒼が隣に座ってきた。
「隣、いいだろうか。」
「いいですよ。」
興奮している姿ばかり見ているせいで、こんなに落ち着いている亀蒼を見ると変な感じがした。
聡明な男性に見えるのが妙におかしく思える。
「なんだ?何か気になるか?」
「え!?いや、別に。」
さすがに本音は言えない。
「そうか。そういえば、先程は礼を欠いてしまい済まなかったな。」
「何の話ですか?」
「君の先祖の話だ。てっきり聞いていると思っていたが、類姫の気遣いを無下にしてしまい、君にも気苦労をかけてしまっただろう。」
龍白に怒られてしゅんとなったときにも思ったが、意外と気にしいなのか?
暴走時とのギャップがあり過ぎて、こっちの調子が狂ってしまう。
「別に大丈夫ですよ。御先祖様は御先祖様、俺は俺ですから。」
「ははは、頼もしいな。類姫が君を選んだのも納得だ。」
「カンナも言ってたんですけど、俺っていろんな神様から狙われてたんですか?」
「主に天翔家の分家がな。験を担ぎたかったのだろう。なにせ、大御神様の神従者の血筋だからな。」
「でも、俺には特別な力なんて無いですよ?」
「なんとも言いづらい話ではあるのだが、だいたいの神は神界以外の存在を基本見下しているのだ。神々の戯れ(ゴッドゲーム)に出る為の駒だとか、自身の力を高める為の付属品としか思っていない輩が大勢いる。そういう輩は他の神に舐められないように、箔が付いた神従者を選びたがる傾向がある。」
そういえば、忌悪の実験体だった男も外付けハードがどうのこうの言っていた気がする。
もしかして、カンナもそうなのだろうか。
気持ちはわかるが、なんとなく寂しい気持ちになった。
「私は天翔家全体の神従者選びを手伝っていてよく相談を受けるんだが、どの神も能力値しか見ようとしない!実に嘆かわしい!」
「あはは。まあ、仕方ないんじゃないですかね。」
作り笑いで誤魔化したが、自分はただの道具なのかと思うと、心の中がモヤモヤした。
亀蒼はそんな俺を見て、優しく微笑んだ。
「でも、類姫だけは違った。」
「え?」
「あの子は、幼い頃から心から信頼できる相手と契約したいと言っていてな。立場上、大手を振って助けることはできなかったが、私も微力ながらあの子の手助けをしていたんだ。まあ、龍白には及ばないがな。」
「カンナのことで、白姉さんの右に出る人はいないですよ。」
「違いないな。」
二人で龍白とカンナのほうを見る。
あちらも何やら談笑していて楽しそうだ。
「神従者候補を三人まで絞り、あの子に選ばせたら迷わず君を選んだんだ。正直、能力だけなら他の二人のほうが勝っていたのに。」
「何でですか?」
「助けたいと思ったからだそうだ。」
カンナらしいと思った。同時に、心が温かくなりもやもやが晴れた気がした。
「そうですか。」
「だから、迷わず自分達の道を進んでほしい。きっとそれが、星の輝く道になるだろう。」
とても勇気をもらったのだが、どうしても興奮して暴走している亀蒼の姿が脳裏を浮かんでしまう。
それがとてもじれったい。
「ありがとうございます。」
「いや、気にしないでくれ。」
「もしかして、結構気にしてました?」
「どうだかな。」
亀蒼は、ほんの少しだけ照れくさそうに笑った。
暴走しなければ、とても良い相談相手に思える。
そう、暴走しなければ。
「心理戦は、研究の余地ありですね。」
「これは一本取られたな。」
二人で笑っていると、龍白とカンナがこっちを見た。
「二人とも、そろそろ行きますよぉ!」
カンナが少し大きな声で叫んでいる。
龍郎の背中ともお別れのようだ。
「だそうだ。次に向かうとしよう。」
「はい。」
ゆっくりと立ち上がる。
歩きながら、いくつか亀蒼と会話を交わす。
作戦開始の時間が刻一刻と迫っていた。
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「さて、ここからは我が愛亀の亀吉に乗って島へと向かう。」
亀蒼はそう言うが、下を見ても海が広がっているだけだった。
もしや……。
「行こうか。【蒼亀誘】!!」
やっぱりそうきたか。
亀蒼の青いオーラが辺りを包み、気がつくと景色が黄昏時の空から海の中へ変わった。
え?海の中!?
呼吸をしようと焦ったが、周りに水は無く、足元には黒くて固い塊が広がっていた。
海の中なので詳しくはわからないが、球場くらいの大きさはあるかもしれない。
「ようこそ、我が愛亀・亀吉の背中へ!」
亀蒼が鼻高々に叫ぶ。
おそらく、亀吉は龍白で言うところの龍郎なのだろう。
「亀吉!お久しぶりです!」
カンナが話しかけると、前から足のようなものが一つじたばたしている。
龍郎のときから思っていたが、どうやら言葉がわかるらしい。
俺の言葉もわかるだろうか。
「初めまして、俺は大助。よろしく、亀吉。」
俺の言葉もわかるらしく、今度は二つの足がじたばたしている。
「あ!大助ずるい!私より亀吉にたくさん挨拶されてますね!」
なんでそこ張り合うんだよ。
カンナは時々、変なところで張り合ってくる。
「さて、自己紹介は済んだな。では皆の衆、作戦を改めて確認する。」
作戦はこうだ。
まず、亀吉に乗って感知に引っかからないところまで進む。
亀蒼の術と策で島に上陸し、霊生の森まで進む。
あとは、敵に警戒しつつ呼魂の祠を目指す。
非常事態が起きた場合は、龍白→亀蒼→俺とカンナの順で対応していく。
「して、策に必要な生き物をおびき寄せねばな。」
亀蒼が裾の中から、赤い球体を取り出した。
「蒼様、それは?」
カンナが不思議そうに見ている。
「餌玉だ。私が開発した道具で、今は無味無臭だが海水に浸かると特定の生物が好む匂いを放つ優れものだ。」
某ロボットが、ポケットから秘密道具を出すときに似た雰囲気を感じたが、黙っておくことにした。
「では早速。」
亀蒼が餌玉を投げる。
餌玉はある一定の距離まで飛ぶと、膜のようなものに一瞬引っかかったが、すぐに海の中に飛んでいった。
すると、遠くに小さな砂煙が見えた。
小さな砂煙はどんどん大きくなっていき、同時に地響きもし始めた。
地響きが大きくなってきたところで、原因がわかった。
蟹だ。
とてつもなく大きい蟹がこちらに向かっている。
大きさは亀吉より小さいが、それでも大型トラック一台よりはるかに大きい。
「神甲蟹じゃないか!これは、大当たりだ!」
「そうね!美味しそうだわ!」
龍白が目をキラキラさせている。
「馬鹿者!あの蟹は作戦の一部だ!まあ、見ていろ。亀吉!」
亀蒼の言葉を聞いた途端、亀吉が上へと泳ぎ始めた。
蟹はずっとその場で立ち止まり、ハサミで餌玉を掴もうとしているが小さすぎて上手く掴めない。
そんなに良い匂いがするのだろうか。
亀吉は蟹の真上、かつ気づかれない距離まで移動すると、真下に急降下を始めた。
「皆、甲羅に捕まれ!」
亀蒼の一声で、全員甲羅の出っ張りに捕まる。
亀吉は頭と足を引っ込めると、蟹の甲羅に体当たりをした。
海中に鈍い音が響き渡り、同時に蟹が地面に叩きつけられ起き上がれずにいた。
亀吉は旋回して蟹の後ろに回り込むと、蟹を後ろから咥えて泳ぎ始めた。
「はは!さすが亀吉!最高だ!!!」
亀蒼が声高々に叫ぶと、亀吉が両前足を高く上に挙げた。
それに合わせて俺以外の三人も楽しそうに両腕を挙げる。
少し遅れて俺も両腕を挙げる。
なんだろう、思い出せないけどどこかで見たことある光景な気がする。
「さあ、準備は整った。このまま乗り込むとしよう。」
「え?ここからどうするんですか?」
「まあ、見ていなさい。【蒼亀絆心】!!」
亀蒼の青いオーラが、一瞬にして蟹を包み込んだ。
亀吉が蟹を口から放し地面に落とすと、オーラが弾けて中からまた蟹が現れた。
特に変化は無いように見える。
「よし!お前の名前は蟹蔵だ!行け!蟹蔵!!」
どうやら亀蒼は生き物を操ることができるようで、命令を受けた蟹蔵は両ハサミを挙げると猛スピードで走っていった。
一方、亀蒼はオーラを練りながら目を閉じている。
何をしているか聞きたかったが、集中しているようで話しかけづらいので龍白に聞くことにした。
「白姉さん、亀蒼さんは何をしているんですか?」
「島に敵の部隊がたくさんいることは言ったわよね?その中には索敵や感知部隊がいて、普通に上陸しようとしてもすぐバレるから、亀蒼は蟹を使ってその部隊を混乱させるつもりなのよ。」
「蟹ではない!蟹蔵だ!」
いや、話聞こえてるのかよ。
「え?でも亀蒼さんが操っているってバレませんか?そもそも、蟹で何とかなるんですか?」
「案ずるな、さっきの術は操っているわけではなく友好を結ぶ術で、蟹蔵は自分の意志で動いてくれている。それに、蟹蔵はそこらの蟹と違って神甲蟹という種類の蟹で、甲羅は上位神の鎧に使われるほど硬く、戦闘力も申し分ない。狙う場所は指示した故、我々は待っていればいい。報酬は餌玉と美味い飯でいいそうだ。」
いつのまにか蟹と絆を育んでいる亀蒼に驚きつつも、この人ならそれくらいやってもおかしくないという謎の安心感もあった。
龍白が何やら目を閉じている。
すると、目を開け俺とカンナの肩を掴んだ。
「作戦決行の許可が下りたわ、あなたたちの自眷属に会いに行きましょう!」
「いよいよですね!頑張りましょう、大助!」
「おう!」
いろいろあったが、新しい仲間が増えるのはワクワクする。
神々の戯れ(ゴッドゲーム)に勝つためにも、必ず作戦を成功させてやる。
そんな俺達を見て、亀蒼がニヤリと笑った。
「蟹蔵から連絡がきた。作戦開始だ。」
第十二話ご愛読ありがとうございます!感想等はドシドシお待ちしておりますのでよろしければお願いします!
次回投稿なのですが、作者の日本シリーズによる心身的影響の為、不定期とさせていただきます。早まるかもしれませんし、遅くなるかもしれません。申し訳ありません。
それでは、皆様次回にお会いしましょう。頑張れ!ベイスターズ!




