7
最初の夜歩きでは、依頼所——あるいは、その類のもの——は見つからないまま帰ってきた。
だが、公園の外へ活動範囲を広げて村を探索し、治安隊の存在と動線を確認した点では、収穫があった。
翌日には、男爵が発った。『またしても目立つ真似をしたら、ただでは置かない』という脅しを残して。
あれだけ長く家を空けていた人が、二日だけ滞在して発つものだから、メリーに尋ねてみると、「事業」のために家を空けるのだと、前に訊いたときより情報を一つ多く乗せて、答えを返してよこした。
幸い、夜に出かけた隠密行動は、メリーも男爵も、まったく気づいていない様子だった。
メリーは、ローブを作るのに切り取ったカーテンについてだけ訝しんでいたが、私が知らないふりをすると、何も言わず新しいカーテンを掛けておいた。
私は、しばらく同じやり方の調査を続けることに決めた。
そうして私は、日の昇らない時間を中心に動くようになった。
『吸血鬼でもあるまいし、なんだこれは。』
明け方はアンと公園で鍛錬し、昼間は家でおとなしくしているふりをして、夜になって皆が寝静まると、街へ出た。
制約の多い、退屈な昼の時間には、サラとの他愛ない手紙が、かなり大きな慰めになった。もちろん、事実を脚色して、表面的な内容だけを伝えたのだが、サラは心から私の味方になってくれた。
『イビーのパパひどい!どうして外出禁止なんてできるの?!イビーに会えなくなるなんて `(泣)` わたしわ最初からイビーのパパ気に入らなかった。いつだって味方だってしつてるよね?愛をこめて、ズッ友 サラ・アッシュフォードより ❀』
くねくねした字に、綴りも二つ間違えていた。そのくせ、自分の名前の横には、いつも下手くそな花のマークを忘れない。
私は、おしゃべりなサラの顔を思い浮かべては、そっと笑って、羽根ペンで返事を書く。
---
似たような日々が繰り返されていた、ある時。
夜の街をさらに歩き回った末に、ついに怪しい場所を一つ見つけた。
商店街の奥、看板もなく、扉の上に小さな標だけが掛けられた建物。
情報の取引や、依頼を受ける場所のようだった。出入りする人たちの身なりが、どこか妙に一貫していた。平民か貴族か分からないように隠す服装、きょろきょろしながら入っていっては、誰かに見られるのを恐れるように、足早に出てくる人たち。
『ここに、私の求めているものがあるかもしれない。』
私はフードをもう一度目深にかぶって、建物のほうへ近づいた。
そのとき、背後で足音が、妙にずれた。
拍子が、ほんの一つ遅れた。意図的に。
……尾行。
心臓が速く打ちはじめた。私は歩みを緩めないまま、路地の角をそっと振り返った。影が一つ、素早く壁の裏へ隠れた。
一つではなかった。
私の感覚が鈍ったのか。いや——
自分を責めることではなかった。この体は、イビーの体だ。魂は擦り切れているが、体の感覚は、ただの子ども、それも外出禁止を食らうような箱入り娘の体だ。安心する資格などなかった。
くそ。
私はすぐに方向を変えた。目的地へ向かう道を逸れて、一番近い路地へ。
背後で、足音が追ってくる速さが変わった。もう隠す気はない、とでもいうように、明らかに速まった。
私は走った。
路地を折れ、塀を越え、狭い隙間をこじ開けて通り抜けた。息が喉まで込み上げた。脚から力が抜けるのが感じられた。この体の限界が、目の前まで来ていた。
ところが、路地を折れるたびに、人が増えた。
一人、二人、三人。
包囲。
されていた。完全に。
緻密だった。動線が、あまりに精巧だった。まるで、私がどちらへ折れるか、あらかじめ知っていたかのように、毎回その方向に人が立っていた。
いったい、いつから追ってきたんだ。
私は結局、行き止まりの路地に突き当たった。三方が壁だった。背後から、ゆっくりと人が集まってきた。
一人、二人、三人、四人——
五人。
少なくとも、五人だった。全員、気配を消すのに長けた人たち。ただの市民ではなかった。
これは、困ったな。
マナは、ほとんど尽きた状態だった。顔の偽装を保つのに、体力も削られていた。戦う余力はない。
そのとき、包囲網の一方が割れて、誰かが歩み出てきた。
「また会ったな。」
聞き覚えのある声だった。
フードを脱ぐと現れたのは、夕焼けのような橙色の髪だった。そして、闇の中でもはっきりとした青い瞳が、きらめいていた。
「久しぶりだ。」
「……あんた。」
私は彼を見分けた。数日前、路地で腕を極めた、自称・治安隊。
「……どなたですか?」
「知らないふりを、まあ。」
彼が片腕をそっと持ち上げて、振ってみせた。
「これ、まだちょっと痛むんだが。」
「……」
この前、極めた手首の話だった。私は確かに認識阻害の魔法を使ったのに、見抜かれた。あのときと今の私が同一人物だと、確信している口ぶりだった。
しらを切っても、無駄だ。
「大げさな方ですね。」
「大げさじゃない。技が、実に良かった。」
彼はそう言って、にっこり笑った。柔らかな笑みだった。五人に包囲させた人にしては、妙に親しげな表情だった。
私はもう一度、周囲を見渡した。抜け出せる隙はなかった。マナもほぼ底。体力も限界。
交渉しか、答えがないな。
「……何が望みですか。」
彼がゆっくり近づいてきた。一歩、二歩。距離を測るように、脅すようにではなく——ただ、興味深いというように。
「俺たち、少し話をしないか?」
---
留置場。
よりによって、貴族令嬢に生まれて、留置場に入れられた。
記憶はないけど、これ、人生最短記録な気がするんだけど。
「毎晩この辺りをうろつく理由は何だ?」
私の前で私を尋問するこの男は、自分を「ヘンリー」と名乗った。
「探し物があって。」
「探し物?」
「個人的な事情です。」
「個人的な事情で『探し物』か。それも、真夜中に、魔法まで使って。」
ヘンリーは言葉を結ばず、眼差しで圧をかけてきた。私が沈黙で通すと、ご親切にも、選択肢をくれた。
「麻薬、呪い、人さらい。俺の想像力では、どうにも分からなくてな。どれが正解だ?」
「はぁ……」
私は面倒くさそうに目を回してため息をつき、姿勢を正して座り直しながら言った。
「あのですね、ヘンリーさん。」
私が応戦するように態度を変えると、ヘンリーはびくりとして、片眉を上げた。
「……『ヘンリーさん』?」
皮肉るように訊き返す彼のつぶやきを無視して、私は言うべきことを言った。
「私も認めます。夜の街で、目深にかぶったローブ……私でも、怪しいと思ったでしょうね。」
私は話を続けながらも、同時に周囲を把握した。石壁で密閉された空間、出る扉は一つ。入るとき、明らかに同じ所属の連中を扉の外に配置して、たった二人で入ってきた。言うなれば、取調室。今のこの弱い体では、逃げ出す自信はなかった。
「でも、これにも全部、事情があってのことです。誓って、質の悪いこととは関わりありません。」
彼は目を細めて、私を観察した。
「それを、どう信じろと?」
「反証が、ないじゃないですか。」
まだ何も仕出かしていないのに、怪しく出歩いたというだけで捕まるとは、この世界には、無罪推定の原則とやらもないのか。
「周りに信じられる人もいない中で、生き延びなければならない、この幼い女を、汲んでやってください。」
しばし、静寂が流れた。
ヘンリーは頬杖をついたまま、私をじっと見つめた。笑いもせず、怒りもせず。人を読もうとする目だった。
「……幼い女。」
彼が、ゆっくりと繰り返した。
「今のその言葉で、同情を買おうというのか?」
「効きませんか?」
「さあな。」
彼は椅子に背をもたせかけ、腕を組んだ。
「普通は、ここまで連れてこられると、言い訳をする。」
「……」
「『濡れ衣です。』
『初めてなんです。』
『二度としません。』」
彼は、指を一本ずつ折りながら言った。
「ところが、お前は。」
しばし言葉を止めた彼が、ふっと笑った。
「ずっと、俺を観察していたな。」
「……」
私は答えなかった。
観察されていたのは、お互い様のようだが、と思っただけだった。
「怯えた人間は、そうはしない。」
「……」
「生き延びる方法を探す人間は、そうする。」
私は肩をすくめた。
「私には、やましいことがないので。過ちは犯していませんし、これからも犯しません。」
「それで。今、放してくれと言っているのか?」
「……後悔は、なさいませんよ。」
「何も話さないお前を、何を信じて?」
「どう証明すれば、いいでしょうか?」
ヘンリーは答えなかった。しばらく顎を撫でながら、私を見つめた。
私が見つめ返して答えを待つと、彼の口の端が、そろりと上がった。
「……はっ!」
しばらく笑いをこらえていた彼が、結局、頭を下げた。
「はははははは!」
出し抜けの、大爆笑だった。
『……何が可笑しいんだ?』
苦々しく口をもごつかせると、ヘンリーは、ほとんど涙が滲むほどの高笑いを収めて、私を炯々とした眼差しで見据えた。
「俺の興味を引くつもりで言ったのなら、成功したな。」
「……私は、本心だけだったんですが。」
「まさに、その点が面白いんだ。」
私が無表情で通すと、ヘンリーは私の表情を興味深そうにうかがってから、口を開いた。
「最後まで交渉、とはな……放埒な者に、罰を下してやろう。」
私は内心、驚愕した。『ああ、終わった。』男爵に知られたら、本当に終わりだ。夜中、もう少し慎重に動くべきだったか。毎日出なければよかったか。
『……いっそ、屋敷を出て、放浪生活でもするか。』
頭の中であらゆる場合の数を計算している間に、ヘンリーの次の言葉が続いた。
「罰は、簡単だ。」
ごくり。唾を飲み込んで、宣告を待った。
「俺の助手として働け。」




