↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/38

7

最初の夜歩きでは、依頼所——あるいは、その類のもの——は見つからないまま帰ってきた。


だが、公園の外へ活動範囲を広げて村を探索し、治安隊の存在と動線を確認した点では、収穫があった。


翌日には、男爵が発った。『またしても目立つ真似をしたら、ただでは置かない』という脅しを残して。


あれだけ長く家を空けていた人が、二日だけ滞在して発つものだから、メリーに尋ねてみると、「事業」のために家を空けるのだと、前に訊いたときより情報を一つ多く乗せて、答えを返してよこした。


幸い、夜に出かけた隠密行動は、メリーも男爵も、まったく気づいていない様子だった。


メリーは、ローブを作るのに切り取ったカーテンについてだけ訝しんでいたが、私が知らないふりをすると、何も言わず新しいカーテンを掛けておいた。


私は、しばらく同じやり方の調査を続けることに決めた。


そうして私は、日の昇らない時間を中心に動くようになった。


『吸血鬼でもあるまいし、なんだこれは。』


明け方はアンと公園で鍛錬し、昼間は家でおとなしくしているふりをして、夜になって皆が寝静まると、街へ出た。


制約の多い、退屈な昼の時間には、サラとの他愛ない手紙が、かなり大きな慰めになった。もちろん、事実を脚色して、表面的な内容だけを伝えたのだが、サラは心から私の味方になってくれた。


『イビーのパパひどい!どうして外出禁止なんてできるの?!イビーに会えなくなるなんて `(泣)` わたしわ最初からイビーのパパ気に入らなかった。いつだって味方だってしつてるよね?愛をこめて、ズッ友 サラ・アッシュフォードより ❀』


くねくねした字に、綴りも二つ間違えていた。そのくせ、自分の名前の横には、いつも下手くそな花のマークを忘れない。


私は、おしゃべりなサラの顔を思い浮かべては、そっと笑って、羽根ペンで返事を書く。


---


似たような日々が繰り返されていた、ある時。


夜の街をさらに歩き回った末に、ついに怪しい場所を一つ見つけた。


商店街の奥、看板もなく、扉の上に小さな標だけが掛けられた建物。


情報の取引や、依頼を受ける場所のようだった。出入りする人たちの身なりが、どこか妙に一貫していた。平民か貴族か分からないように隠す服装、きょろきょろしながら入っていっては、誰かに見られるのを恐れるように、足早に出てくる人たち。


『ここに、私の求めているものがあるかもしれない。』


私はフードをもう一度目深にかぶって、建物のほうへ近づいた。


そのとき、背後で足音が、妙にずれた。


拍子が、ほんの一つ遅れた。意図的に。


……尾行。


心臓が速く打ちはじめた。私は歩みを緩めないまま、路地の角をそっと振り返った。影が一つ、素早く壁の裏へ隠れた。


一つではなかった。


私の感覚が鈍ったのか。いや——


自分を責めることではなかった。この体は、イビーの体だ。魂は擦り切れているが、体の感覚は、ただの子ども、それも外出禁止を食らうような箱入り娘の体だ。安心する資格などなかった。


くそ。


私はすぐに方向を変えた。目的地へ向かう道を逸れて、一番近い路地へ。


背後で、足音が追ってくる速さが変わった。もう隠す気はない、とでもいうように、明らかに速まった。


私は走った。


路地を折れ、塀を越え、狭い隙間をこじ開けて通り抜けた。息が喉まで込み上げた。脚から力が抜けるのが感じられた。この体の限界が、目の前まで来ていた。


ところが、路地を折れるたびに、人が増えた。


一人、二人、三人。


包囲。


されていた。完全に。


緻密だった。動線が、あまりに精巧だった。まるで、私がどちらへ折れるか、あらかじめ知っていたかのように、毎回その方向に人が立っていた。


いったい、いつから追ってきたんだ。


私は結局、行き止まりの路地に突き当たった。三方が壁だった。背後から、ゆっくりと人が集まってきた。


一人、二人、三人、四人——


五人。


少なくとも、五人だった。全員、気配を消すのに長けた人たち。ただの市民ではなかった。


これは、困ったな。


マナは、ほとんど尽きた状態だった。顔の偽装を保つのに、体力も削られていた。戦う余力はない。


そのとき、包囲網の一方が割れて、誰かが歩み出てきた。


「また会ったな。」


聞き覚えのある声だった。


フードを脱ぐと現れたのは、夕焼けのような橙色の髪だった。そして、闇の中でもはっきりとした青い瞳が、きらめいていた。


「久しぶりだ。」


「……あんた。」


私は彼を見分けた。数日前、路地で腕を極めた、自称・治安隊。


「……どなたですか?」


「知らないふりを、まあ。」


彼が片腕をそっと持ち上げて、振ってみせた。


「これ、まだちょっと痛むんだが。」


「……」


この前、極めた手首の話だった。私は確かに認識阻害の魔法を使ったのに、見抜かれた。あのときと今の私が同一人物だと、確信している口ぶりだった。


しらを切っても、無駄だ。


「大げさな方ですね。」


「大げさじゃない。技が、実に良かった。」


彼はそう言って、にっこり笑った。柔らかな笑みだった。五人に包囲させた人にしては、妙に親しげな表情だった。


私はもう一度、周囲を見渡した。抜け出せる隙はなかった。マナもほぼ底。体力も限界。


交渉しか、答えがないな。


「……何が望みですか。」


彼がゆっくり近づいてきた。一歩、二歩。距離を測るように、脅すようにではなく——ただ、興味深いというように。


「俺たち、少し話をしないか?」


---


留置場。


よりによって、貴族令嬢に生まれて、留置場に入れられた。


記憶はないけど、これ、人生最短記録な気がするんだけど。


「毎晩この辺りをうろつく理由は何だ?」


私の前で私を尋問するこの男は、自分を「ヘンリー」と名乗った。


「探し物があって。」


「探し物?」


「個人的な事情です。」


「個人的な事情で『探し物』か。それも、真夜中に、魔法まで使って。」


ヘンリーは言葉を結ばず、眼差しで圧をかけてきた。私が沈黙で通すと、ご親切にも、選択肢をくれた。


「麻薬、呪い、人さらい。俺の想像力では、どうにも分からなくてな。どれが正解だ?」


「はぁ……」


私は面倒くさそうに目を回してため息をつき、姿勢を正して座り直しながら言った。


「あのですね、ヘンリーさん。」


私が応戦するように態度を変えると、ヘンリーはびくりとして、片眉を上げた。


「……『ヘンリーさん』?」


皮肉るように訊き返す彼のつぶやきを無視して、私は言うべきことを言った。


「私も認めます。夜の街で、目深にかぶったローブ……私でも、怪しいと思ったでしょうね。」


私は話を続けながらも、同時に周囲を把握した。石壁で密閉された空間、出る扉は一つ。入るとき、明らかに同じ所属の連中を扉の外に配置して、たった二人で入ってきた。言うなれば、取調室。今のこの弱い体では、逃げ出す自信はなかった。


「でも、これにも全部、事情があってのことです。誓って、質の悪いこととは関わりありません。」


彼は目を細めて、私を観察した。


「それを、どう信じろと?」


「反証が、ないじゃないですか。」


まだ何も仕出かしていないのに、怪しく出歩いたというだけで捕まるとは、この世界には、無罪推定の原則とやらもないのか。


「周りに信じられる人もいない中で、生き延びなければならない、この幼い女を、汲んでやってください。」


しばし、静寂が流れた。


ヘンリーは頬杖をついたまま、私をじっと見つめた。笑いもせず、怒りもせず。人を読もうとする目だった。


「……幼い女。」


彼が、ゆっくりと繰り返した。


「今のその言葉で、同情を買おうというのか?」


「効きませんか?」


「さあな。」


彼は椅子に背をもたせかけ、腕を組んだ。


「普通は、ここまで連れてこられると、言い訳をする。」


「……」


「『濡れ衣です。』


『初めてなんです。』


『二度としません。』」


彼は、指を一本ずつ折りながら言った。


「ところが、お前は。」


しばし言葉を止めた彼が、ふっと笑った。


「ずっと、俺を観察していたな。」


「……」


私は答えなかった。

観察されていたのは、お互い様のようだが、と思っただけだった。


「怯えた人間は、そうはしない。」


「……」


「生き延びる方法を探す人間は、そうする。」


私は肩をすくめた。


「私には、やましいことがないので。過ちは犯していませんし、これからも犯しません。」


「それで。今、放してくれと言っているのか?」


「……後悔は、なさいませんよ。」


「何も話さないお前を、何を信じて?」


「どう証明すれば、いいでしょうか?」


ヘンリーは答えなかった。しばらく顎を撫でながら、私を見つめた。


私が見つめ返して答えを待つと、彼の口の端が、そろりと上がった。


「……はっ!」


しばらく笑いをこらえていた彼が、結局、頭を下げた。


「はははははは!」


出し抜けの、大爆笑だった。


『……何が可笑しいんだ?』


苦々しく口をもごつかせると、ヘンリーは、ほとんど涙が滲むほどの高笑いを収めて、私を炯々とした眼差しで見据えた。


「俺の興味を引くつもりで言ったのなら、成功したな。」


「……私は、本心だけだったんですが。」


「まさに、その点が面白いんだ。」


私が無表情で通すと、ヘンリーは私の表情を興味深そうにうかがってから、口を開いた。


「最後まで交渉、とはな……放埒な者に、罰を下してやろう。」


私は内心、驚愕した。『ああ、終わった。』男爵に知られたら、本当に終わりだ。夜中、もう少し慎重に動くべきだったか。毎日出なければよかったか。


『……いっそ、屋敷を出て、放浪生活でもするか。』


頭の中であらゆる場合の数を計算している間に、ヘンリーの次の言葉が続いた。


「罰は、簡単だ。」


ごくり。唾を飲み込んで、宣告を待った。


「俺の助手として働け。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。