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耳がよすぎる地獄耳令嬢、目立ちたくはありませんがうっかり神の声を聞いて聖女認定されたのは伯父の計画だったようです!  作者: 螺鈿細工


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9 実態把握

 守護神はハリエッタにいろんな話をした。天上の神が住む世界のことや守護神自身のことについて。時にはハリエッタが子供の頃のことや、もっと昔のパーシーの幼い頃の思い出話も聞いた。


 国の守護神となる神は元々どこかの国の守護神と聖者または聖女の間に生まれた子供が就任するという慣例があるそうだ。聖者聖女は神の婚約者というのはそういう根拠がある。守護神は聖者あるいは聖女を指名することで降臨し、人間との婚姻を経て人間となる。生まれた子供はゆくゆくはまたどこかの国の守護神となるのだ。


 聖者聖女を選ぶ際の基準は特にこれと言ってないらしい。人間同士でも何だかあの人は気になると思ったり、生理的に合わないと思ったりといった「相性」があるように、守護神自身の感覚によるところが多いそうだ。一目ボレで選ぶ神もいるという。


「パーシー君を選んだのは何となくっていうのが一番近いのかな?ほら、若い頃のパーシー君と私ってよく似てたから、私にとって何となく親近感があったんだよね。兄弟がいたらこんな感じかなって。パーシー君は三兄弟の真ん中だったし、私もその輪の中に入りたかったっていう感覚に近かったのかも?」

「伯父は幼いころから大神官様のお姿も見えて普通に会話できたと言ってたわ。見た目が似ていると相性?もいいのかしら?」

「そういうのはあると思うよ。魂が近いって表現するんだけど、人間でいうと考え方とか価値観が似てて安心するって感じ。神様って基本孤独だから自分と似てる人間がいるとちょっとうれしくなっちゃうんだよね。若い頃のパーシー君と私、本当にそっくりでしょ?」

「なるほど確かに…。では、私がやたらと耳がいいのは、大神官様が加護を与えたと伯父は言っていましたがあの話は…?」

「ええっとぉ…そうとも言えるんだけどそうでもなくて…。あの頃の私はまだ聖者聖女を指名してなかったんだよね。パーシー君を指名するつもりだったけど、私の方でそう決めても儀式で宣言しないと効果がないんだよ。で、聖者や聖女を指名してない守護神はあんまり地上に近づくと似ている、つまり相性のいい人間に影響を与えちゃうらしいんだよ。パーシー君にくっついてお屋敷によく居座ってたから相性の良かったハリエッタちゃんにその影響が出て耳が良くなったってことなんだ」


 居座ってた自覚はあったのか、とパーシーなら言うだろう。


「でも、そのせいでハリエッタちゃんにはつらい思いもさせちゃったよね…。ごめんね。聖者や聖女を選ぶ前の守護神がむやみに地上に降りちゃいけないのは、意図せずにこうやって影響を与えてしまうからなんだよ」

「今はもうそういうことはないということ?」

「うん。私は聖女を選んだからね。これによって少し人間に近い存在になったんだ。神様としての力が弱くなったわけでもなくて、かえって地上が近くなったから国を守るのは今までと変わらないけど、今は半分人間半分神様って感じかな?」

「それで名前を付けられると正式に人間になれると言っていたのね」

「そうそう、それも自分が選んだ相手につけてもらわないとダメなんだ。それで人間にならないと結婚できないからね」

「それで子供ができないと次の代のどこかの守護神が生まれない、ということ?」

「そうそう!私たちからすれば自分が選んだ聖者や聖女と一緒にいられればそれで十分で別に子供はいなくてもかまわないんだよ。ただ人間としての人生が終わっても神様の国で暮らしているうちに子供が自然にできることが多いみたい」

「つまり、私と結婚して人間として過ごす人生のあと神様の国で過ごすということ?来世というのかしら?」

「普通の人間は神様の国には行けないんだけど、守護神が選んだ相手は別だよ。初めて聞く話でしょ?だから結婚する前にこうやってきちんとお話ししてよく考えてもらうんだ。ほら、筋を通しやがれ!って昔パーシー君もよくあらぶってたからね」

「え?何それ!?」


 伯父の思わぬ黒歴史?を聞いてしまった。


「あれ…?そしたらもしかして、今までの聖者や聖女でこういう話を聞いて断った人もいるってこと?」

「うん…。あんまり例がないみたいだけど、過去にはそういうこともあったらしいよ。指名した聖者や聖女に受け入れてもらえないっていうのはすごく悲しいことだけど、人間の気持ちを無視するのは神様として間違ってるからそういう場合は身を引いて別の人を選ぶことが多いよ。私もパーシー君に選んでもらえなかったわけだから…」

「あ…なんというか、伯父がごめんなさい…」

「ううん!いいんだ!人間も失恋することもあるでしょ?あれと同じことだよ!その時は悲しいけど、無理やり一緒になるほうが不幸になると神様の世界では考えられてるんだ。人間に納得してもらえるようにふるまうのが私たちの力量が問われるところなんだよ~。だからハリエッタちゃんのこと全力で口説くから覚悟してね」


 もう失恋するのはやだな~、と愁いを帯びた表情でこちらを見る。そういう顔はずるい、とハリエッタは思った。これが無自覚なのか計算なのかわからないのが厄介だ。


「ところで大神官様は伯父を聖者に選ぶつもりだったんですよね?もし伯父がそれを受け入れていたら、大神官様は女性として結婚するつもりだったということですか?」

「ああ、実は神様は性別がないんだ。正確に言うと選んだ相手によって人間になる時の性別が決まるということなんだよ。パーシー君が受け入れてくれていたら人間になった私は女性だったということ!今の私は人間の感覚でいうと中性的に見えるでしょ?これは地上に降りたばかりだから実際まだ性別が不安定だからだよ。けど聖女を選んだからこれから少しずつ男性に固定されていくはずだよ。ハリエッタちゃんが気に入ってくれるといいんだけどね」


 その中性的な見目の良さを分かり切っているかのような表情でこちらをのぞき込んでくるのだからたまったものではない。彼女がこの「絵本の天使様」のような見た目に弱いことなどとうにばれているのだから仕方がないのだが。


「き、気に入らなかったらお断りするかもしれないわよ!?」

「ふふふふ、たぶん、大丈夫だよ。神様は選んだ相手に気に入られたいからか、もともと近しい性質からなのか、とにかく何となく選ばれた人間の好みによって体が変化していくらしいんだ。不思議だよね。だから楽しみにしててね?」


 まだどこかあどけなさを残しながらもその目線はどこか熱っぽく守護神は言う。ハリエッタはいまさらながら、とんでもないことに巻き込まれたと痛感した。


 一応ハリエッタの現在の立場は王城の礼拝堂に籍を置く聖女ということになっている。仕事らしい仕事は神官のトップである守護神が祈祷や儀式を執り行う際の補佐だ。というのも聖女に与えられた最も重要な任務は、降臨した守護神を人の世界にとどめおくこと。そういう意味ではある意味神にささげられた生贄と同義だなとハリエッタは思った。


 それと同時に守護神から聞いた天上の話や神たちのこと、色々聞いたことを書記局に伝えて記録させることも彼女の重要な任務となっている。国としてもせっかく降臨した守護神を囲い込みたいので、聖女と守護神が仲睦まじく過ごすことは「国策」扱いだ。


 どちらかと言えば今はこっちの仕事の方が重要視されている。というのも神の言葉を直接聞けてそれを記録に残せる機会など普通はありえないからだ。ああだこうだと口説かれた内容まで正式な記録に残されるのは恥ずかしくてたまらないが…。


 おとぎ話の域を出なかった神の降臨という大騒動になっているが、実際のところパーシーからその情報を得ていた国王は冷静だった。しかも元聖職者のパーシーは神殿組織に顔が効く。国内外への情報の統制や国民への説明への根回しは順調で、騒ぎになってはいるが混乱をきたしてはいない。


 生贄と言っても実態はずいぶんとぜいたくな身の上である。

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