7 リアル神様
ハリエッタが目を覚ましたのは礼拝堂の救護室だった。さほど時間が経ってないようである。その場には伯父のパーシーとさっきの謎の青年、それから礼拝堂で世話になっている女性神官が数人いる。
「あ、ハリエッタちゃんが目を覚ました!」
「えと…その…」
「ああ、ごめんねびっくりしたよね?私は君を聖女に選んだこの国の守護神だよ。パーシー君からやっと近づいてもいいってお許しか出て、君が私の声を聞いてくれて嬉しくて、なんか気づいたら国中光らせて聖女見つけた宣言しちゃった」
にへらぁ、とイイ人そうな笑顔で神様は言った。そのぶっ飛んだ内容に再び気を失いそうになったハリエッタだが、後ろからパーシーがはたき倒しているのを見て気合で耐えた。かわりに女性神官の一部が気絶したらしく、軽く騒ぎになっている。
「お前しばらく黙ってろ!私の方から説明する。これから陛下もいらっしゃるというのにこれ以上騒ぎを起こさないでくれ」
「神様をお前呼び…」
「あ、ハリエッタちゃんもそう呼んでいいよぉ~。でもぉ、あなた(ハート)って呼んでほしいかなぁ、えへへ」
「黙ってろって言った!」
パーシーは青筋を浮かべて手刀をお見舞いしたが、神相手にはさほど効かなかったらしい。威厳がみじんも感じられない守護神は近くのソファにふてくれさながら座った。
「はぁ、先が思いやられる…。で、あれが正真正銘、この国の守護神様でこれからは君の婚約者…いやまだ婚約者候補だな、うん。婚約者候補だ!それで君は聖女に選ばれたが、受け入れるかどうか判断する必要がある。ただ国中に向けて宣言されてしまった以上、認定自体は受け入れなければならないだろう。個人的に婚約者として受け入れるかどうかは君自身がよ~くあいつを見極めて判断するといい。絶対に第三者にうるさくは言わせない!そこは伯父様を信じなさい」
イケオジランキング上位者の風格(つまり外向きの顔)でパーシーは言った。わかりました、とハリエッタが返したときに、訪問者があった。
聖女の誕生という一大事を受けた国王と、ハリエッタの弟フォンスだ。伯父と弟の手を借りてハリエッタは礼をとり、神様が相変わらずすねたままの近くのソファに三人で腰を下ろした。国王は妙に楽しそうな表情で神様をチラ見すると上座の一人用のソファに座る。
近くに控えていた女性神官がティーセットを並べて去っていった。ティーセットと言っても王城の薬草園で栽培しているハーブティーである。
「さて、パーシーから話は聞いていたが本当に守護神様が現れて聖女を指名するとは…。長生きはするものだな」
「御冗談を!陛下は私と3つほどしか違わないでしょう?」
「私の姿を見たのも声を聞いたのも今日が初めてだろうが、私の方はお前たちのことをよく知っているぞ。国王、お前はパーシー君の味方だからいい奴だ。特別に王様君と呼んであげよう!パーシー君はお前を信用しているし、国の統治を任せるに値すると思うよ?」
「語尾が疑問形なのが少し残念だね。仕方ない、今後の統治で太鼓判をもらうとしよう。それで、わが国でも聖者または聖女が現れたのは相当昔だ。よって神様の宣言は今国を混乱させている。我々はこれからどうするべきなのか、神様は何をお望みなのか、よく話し合い協力していただきたい」
「聖女を指名したからには当然協力するし、今後も国を守ると約束するよ。あ、けど一応言っておくと、本当は20年前にパーシー君を聖者に指名したのに無視されちゃったから、私ちょっとあの時は傷ついたなー」
じとーっと神様が恨みがましくパーシーを見るも、そんなものは慣れっこのようで隙のない執事のほほえみにかすりもしなかった。
「そんな昔の小さなことを気にしてハリエッタちゃんを不幸にしたら身内としてお前のこと嫌いになるからな」
「ハリエッタちゃん大好き!一生幸せに暮らそうね!」
がばぁっと身を乗り出してきた神様はその勢いでハリエッタの両手を握りしめたが、すかさずパーシーに引き離される。
「婚前交渉は厳禁!」
「婚前交渉って…違うでしょ!?手を握るぐらいいいじゃないか!」
「ハリエッタちゃんの許可を取りなさい!」
「パーシー、姪がかわいいのはわかるが束縛がひどいと隠れて悪いことをするかもしれないからほどほどにな?」
ハリエッタはめまいがしてきた。このよくわからない二人はいつもこうなのだろうか?だとしたらこれからこれが自分の日常になるのか?しかも国王が要らぬ茶々を入れて二人をまとめてからかう始末。
「姉様」
そこにスンと落ち着いた声が聞こえた。隣に座る弟のフォンスである。ハリエッタの通称・地獄耳はこういう場面においては便利なのだ。フォンスもそれをわかっているから声量は限界まで落としている。
「姉様が聖女に指名されたって僕もいきなり話聞いて驚いたけど、いわゆる婚約者候補のことなんだね。神様っていい人そうで良かったじゃない。僕、あの人なら義兄様って呼んでもいいよ」
「あ、あなた冷静なのね…。わたくしはまだ実感わかないわ…」
「当事者だから仕方ないよ。これからいろいろ大変そうだけど、あの神様なら大丈夫そうだよ。前向きに検討してあげれば?」
「あ!フォンス君は応援してくれるんだね!」
耳ざとく聞きつけた神様が姉弟の会話に加わった。
「素の伯父様と軽口が叩けるってことは人格に問題はないでしょうし、姉様のこと大好きと言っていた時の様子にウソは感じられませんでした。ならば身内として信用します」
「ありがとう!フォンス君のそういうところ、パーシー君のパパ…つまり君のグランパ~によく似てるよ~」
「そうなんですね」
「時に守護神様、今後のことなのですが、ハリエッタ嬢の婚約者候補…ということは人間としてこの国で生活する、という解釈でよろしいでしょうか?」
「そうですよ。聖女を指名した神は半分人間ということで、普通に生活することができます!こうしてパーシー君やハリエッタちゃん以外の人たちにも姿が見えて声が聞こえるんだし、どう見ても普通の人でしょ?」
「はぁ…」
パーシーが重い溜息をついた。実のところ彼は長年の経験からこのように言われることは最初からわかっていた。そのため国王とも相談し必要な手配は済んでいるが、このような裏事情がなければ突然の聖女指名に具現化した守護神の扱いにと混乱を極めただろう。神様サイドというのはそういう部分にうとい。
「ハリエッタ嬢の家は伯爵家だ。そこに国の守護神が現れたとなれば大変な騒ぎになる。そこで、離宮を手配しようと思う。どうだろう、神様はしばしそこを拠点と定め、人間の生活というものを送ってみては?」
国王はおもむろに事前の計画通りのプランを出す。
「ハリエッタちゃんと一緒に暮らせないの?」
「まだ婚約もしてないんだからダメに決まってると何度も言ったはずだが?あと神様らしく多少は仕事をしろよ?」
「仕事?それはもちろん、もともと神様としてやってた仕事は続けるよ。けどハリエッタちゃんに会えないのは嫌だ!」
パーシーはこめかみを抑えた。国王は神妙な顔でいう。
「…聖女に指名したのは国中に知れている。外堀を埋めたようで申し訳ないが、ハリエッタ嬢、そういうわけだからしばらく王城から離宮に通ってもらうことになる。フォンス君も聖女の身内ということで注目を浴びるだろうからしばらくは王城で保護してもらう方がいい」
パーシーは普段から城に滞在することが多く、部屋ももらっているので融通が利くのだ。普段使わない権力をここぞとばかりに行使させてもらうことにした。このあたりはもう宰相とも合意済みなので、野次馬の目に触れる前に聖女とその家族を王城で保護して神様と今後の活動を話し合うという体裁で国王が発表しその日は落ち着いたのであった。




