5 裏事情!?
「君は耳がいいだろう?あれは実は加護なのだ。守護神は君を聖女という名の伴侶に選ぶつもりだ」
「はい!?」
パーシーはお仕事モードの表情から一転、かつて神の使いとハリエッタが信じていた時の慈愛に満ちた伯父様モードになった。
「にわかに信じられないのも無理はない…。ここからは、国王以外誰も知らない話だ。…実は、私には神の声が聞こえる。加護を授かっているのだ。本来なら私が聖者に認定され、おそばにお仕えするべきだった」
「伯父様が!?」
「20年前の選定の儀式で神の声を聞いていた。…が、無視した!」
「神様を無視!?」
あまりのことに驚いたハリエッタはつい淑女らしからぬ叫び声をあげてしまった。パーシーはそれをとがめることもなく「あいつうるさかったからさぁ…」と、こっちも紳士らしからぬ愚痴モード発動である。
「いや実は儀式とか関係なく子供の頃から声は聞こえた、どころか普通に姿も見えたぞ。友達だったんだ。だから儀式のときにあれが神様だって気づかなかった!」
「こ、この告白は…背信?にあたらないのでしょうか?」
天罰とかあったらいやだな、とハリエッタは思った。もっと違うことを言うべきだとは思ったが、何と言っていいのがかよくわからない。
「それは平気だ。いつも本人の前で言っているから」
「もっとだめでは!?」
「だってあいつ、うるさいんだもん」
「だもん、とか言わないでください。イケオジランキング上位のイメージが崩れますよ」
「ここにはハリエッタちゃんしかいないからいいじゃん!」
ハリエッタは情報過多で頭を抱えた。伯父は完全に身内モードに入っている。イケオジランキング・理想の執事選手権ともに上位記録保持者の彼は、実はそのイメージを結構頑張って「作って」いるのだ。
「本当はアイツ、ハリエッタちゃんの前に出てきたいって言ってたけど、未成年に手を出すとか普通に犯罪だから私許さないよって、成人して儀式まで待てってずーっと言ってたんだよね。だから家にガッチガチの結界張って自由に動き回れないようにしてやってた。文句たらたらだったけど、器の小さい男はダサいよって調教…定期的に説得しておいたからだいぶましになったんだよ。私との約束破ったら嫌いになるから絶交だよって脅しておいたから、大人しくしてたんだけど、いよいよ今年は儀式の年だし、ハリエッタちゃんも成人して学校卒業するからちゃんと説明しておかないとって思って」
「伯父様、ちょっと待って!話についていけないわ…」
「えっと、ごめんね?もっとちゃんと説明するね」
パーシーは子供の頃から「神様」に会っていた。だがそうとは知らなかった。伯爵家の屋敷の中にある礼拝堂に同じぐらいの年頃の子供がいて、純粋に友達として認識していたら神様だったというオチだ。説明しておきながらもパーシーは「私だって意味がわかんないよ」と言っている。
この国の人間は全員ではないが「聖力」を持っている。強弱は個人差が大きいがあまりにも強い場合は一種の「加護」として扱われ、聖者聖女に認定されることもある。パーシーは物心つく前から強い力を持つことが判明しており、彼が聖職者への道を進んだのは能力的な事情も加味してのことでもあった。
パーシーは礼拝堂でだけ会える友達を国の守護神と認識してはいなかった。家庭教師から習う守護神の話と目の前の友達がイコールとは信じられなかったのである。
「授業で習う神様ってもっとこう、神々しいでしょ?国を守ってくれる神様だよ?間違っても家の礼拝堂でくつろいでて、つまんないなー劇場とか行ってお芝居見てみたいな~とか、娯楽本読ませてよーとか、お嫁さんとお婿さんどっちがいい?とか軽々しく言ってくるような奴じゃないでしょ?別に願い事かなえてくれるわけでもなかったし…。イメージって大事なんだなーってあの時に学んだよ」
パーシーにとっては「悪友」というポジションだった神様は、自身の姿を見て声も聞くことができるパーシーを「聖者」認定させてそばに置こうとしていた。というかパーシーは実はまだこの気の置けない友人が本当に神様だなんて知らないので、儀式で証明するしかなかったのである。
「だからさ、儀式で本当にアイツが出てきて驚いたけど、聖者認定されちゃったら一生あいつから離れられないじゃん?どんなに私が遊び人として浮名を流しても聖力ってやつは衰えなかったし、それであいつが見えなくなるとかでもなかった。しかも、専属司祭だと思えば楽な仕事でしょ?って言われたけど、わがまま神様のそば仕えなんて、面倒くさい。私には国王陛下…当時は王太子殿下だったが、っていうこれまたクセ強の悪友がいるから神様の世話とか焼いてらんないんだよねー!結局そのあと君のパパの補佐でいったん家に戻ったから神様の相手とか真剣にしてる場合じゃなかったってのがリアル都合だけどね」
遊び歩いていたのは聖職者としての力を落とそうとしてわざとだった!?神様の相手をしている場合ではない!?
伯父が神様よりも自分たち家族を優先してくれたと知れたのは嬉しいが、話の本質はそこではない。どこからツッコミを入れていいのかわからないが、気になるところ全てにツッコミを入れていてはらちが明かないのでハリエッタは自分の問題について考えることにした。
「それで…どうしてその話がわたくしが聖女に認定されるということにつながるのでしょう?」
ピタリ…とパーシーの動きが停止する。永遠のような一瞬の沈黙ののち、パーシーはものすごい勢いで頭を下げた。
「ごめんよおおおおおおおおおお!あの神様がそこまでへこむとは思わなかったんだよおおおおおお!」
「伯父様!?ダメダメ!イメージが崩れるから顔を上げてえええええええ!」
すっかりしゅんとしてしまったパーシーの話をまとめると、要は彼を聖者に選んだのに無視された神様はそれからもずーっとしつこくパーシーに付きまとっていたが、その拍子に幼少のハリエッタにも加護が現れてしまった。
「私、最初は反対しようかと思ったよ。かわいい姪の人生を神様の気まぐれなんかに決められるのは癪だからね。もっとちゃんとした神様だったら前向きに考えたけどさ、アイツもはやただの私のストーカー状態の変態じゃん?でもさ、よく考えてみればこれ以上ない優良物件ではあるんだよね。王族なんて目じゃないレベルだよ!ハリエッタちゃんを任せるのに値する奴がほかにいなかったらそれも悪くないなぁって思って」
「ほんと神様相手に何言ってるんですか!?」
「相性的にいいっていうか、知らないうちに加護与えちゃったらしくて?君の耳がよく聞こえるのそのせいなの。とりあえず一発殴っておこうかと思ったけど手が痛いからやめた。自力で口説いてみろよって言っておいたよ」
神様を殴ろうという発想が身内から出てきたことにハリエッタは気が遠くなった。
「これがその辺の貴族のご令息ならお前みたいなどこの馬の骨とも知れん奴に姪はやらんって言えるんだけど、神様じゃさすがにそれは言えないから、ハリエッタちゃんの判断に任せるかわりに儀式の日まで絶対に手を出すなよ、約束破ったら絶交だ!って言って今日に至る」
「その辺の貴族のご令息も血統は保証されているのでそんなこと言ってはダメです」
「まぁ、そうなんだけど…。と、いうことでハリエッタちゃんは聖女に選ばれます。進路について何もしなくていいって言ったのはこれが理由。神様がご指名だから婚約の打診も全部断ったし、どこかの聖堂にお勤めに出るあっせんもしなかった。けどここから選ぶのはハリエッタちゃんだから、聖女なんてなりたくないってことなら私みたいに無視すれば大丈夫!」
「けど…その場合、私はどこにも行くところがなくなってしまうのでは…?」
「うちはフォンス君がまだ学生だから私の補佐をハリエッタちゃんがしてくれれば助かるし、王城の聖堂だったら私の顔が利くし、もし今好きな人がいてやっぱり聖職者にはならずに普通に結婚したいなら何とかするよ。そこは気にしないで大丈夫!」
「はぁ…。色々なことを知って今はちょっと冷静に判断できないので何とも…」
「もちろん、神様に会ってから考えても大丈夫だから。…けどね、一つ言っておくと…ハリエッタちゃんはきっと神様のこと気に入ると思うよ」
「それはどういう?」
「あいつ…若い頃の私によく似てるんだよね。まだ聖職者してた頃の、ハリエッタちゃんが昔、天使のお兄様って言ってくれた時の私に」
「えええええええええ!」
パーシー伯父、意外とはじけた人柄です。




