2 伯爵家の事情
伯爵家は歴史も実績も手堅い。現在の財政も可もなく不可もなく。家は元から学者気質で宮廷学者として名を残した当主や高潔な聖職者を過去に輩出していた。しかしハリエッタの祖父母の代、一家は立て続けに不幸に見舞われてしまう。
祖父母には三人の息子がいた。この三兄弟の末の弟がハリエッタの父で、すぐ上の兄がパーシーだ。長兄は立派な後継者として人望があった。
現当主である伯父・パーシーは独身だ。彼は若い頃から仕事一筋で結婚話を蹴っ飛ばし続けてきた。三兄弟の真ん中だったため自由を満喫していたのだ。本来彼は家を継ぐ気なんてなかった。
パーシーは今でこそ王城内イケオジランキングと理想の執事選手権の上位記録保持者だが、若い頃はそれはそれはチャラい遊び人だったらしい。その黒歴史の経験から教育熱心となっているとか何とか?
しかもわずらわしい「結婚して落ち着け要求」を封印するために聖職者になってしまった。兄が家を継ぐからという独断である。
遊び人だが仕事人間という性質を器用に両立させた彼に文句を言える者はいなくなってしまった。
そういうわけで我が世の春を謳歌していたが、事態は一変する。両親と兄が流行病で亡くなってしまった。次兄のパーシーはすでに聖職者となっていたので後継は末弟である。学生だが幼馴染の婚約者がいたのですぐに結婚して体裁を整えた。体面的に問題はなかったが弟夫妻が感じたプレッシャーは思った以上で彼らは兄にSOSを出した。
兄さん助けて!とかわいがっていた末の弟のSOSを無下にはできない。実際に執務の面ではまだ未熟だったのでその判断は正しかった。パーシーは聖堂に籍を置いたまま一時的に実家を支えることにした。
思えばこの数年間が一番平和だった。
若い伯爵夫妻には長女ハリエッタと長男フォンスが生まれ、だいぶ仕事に慣れてきたのでパーシーもそろそろ聖堂に戻ろうと考えていた。
だが、一家の悲劇はまだ終わっていなかったらしい。
今度は当主夫妻が事故で亡くなってしまう。家に残されたのは幼い姉弟…ハリエッタとフォンスだ。後継のフォンスは両親の死すら理解できない年齢だった。これを機にパーシーは聖堂に戻ることを断念し還俗ののち当主を継いだ。とはいえ本人はフォンスが成人して当主を継ぐまでの「つなぎ」のつもりである。ゆえに「後継者問題を複雑にしたくない」と言って結婚はしていない。
この度重なった不幸が伯爵家が「呪われている」とうわさされるゆえんである。
学園で特に伯父「パーシーの呪い」とも言われていたのは、現当主の彼の性格・経歴によるところも大きかった。
今でこそあこがれのイケオジと名高いパーシーは若い頃はチャラい見た目の遊び人だった。しかも仕事は仕事できっちりできるタイプなので気に食わなくても文句をつける部分がなかったのである。生家に起こった不幸以外には。
彼よりもろくでもない聖職者はざらにいたが、なまじシゴデキで人望があるから悪目立ちしてしまったというわけだ。
伯爵家は代々継いできた議席を引き継ぎ王宮で議員をしていたが、パーシーは元々国王の「秘書官兼懺悔聴聞師」だったため、議会の仕事までは手が回らず、それは引き継がなかった。フォンスが当主となる時のために空席にしてある。かわりに還俗したパーシーが就いたのは国王の「執事」であって、肩書きは変わったものの実務内容はほとんど変わらなかった。
実は国王とパーシーは年が近く幼馴染みと言っていい関係である。そこもまた彼を悪目立ちさせる要素となっていた。別に王がひいきしているわけではなく、シゴデキなパーシーが順当に出世しただけだが、口さがない連中は文句を言うものだ。
と、いうわけで様々な理由が重なって伯爵家は、パーシーは「呪われている」などと言われているのだった。
パーシー伯父さんはとても良いキャラをしています。
これからバンバン出てきますのでお楽しみに!




