ステージF(D)
突き進みゆく暗闇の中で、これまでの軌跡を逆行する
思えば、奇跡の連続だった
実験体として生を授かったコクメは命からがら逃げ出すことに成功した
そうしてハイネと出会い、コクメは世界の本当の姿を知った
海を越え、山を越え、雪原を越え
再び、運命とあいまみえる
コ:あのときイッちゃんが助けてくれなかったら、ボクは今頃…………
記憶を失ったコクメは、レンゲと出会い、ハイネと再会した
同じ人生を歩もうとしたって、そうはいかない
小さな選択と決断の連続
たくさんの光に満ちた世界
コ:――――それがボクの輝く人生
与えてもらった光の数々
ようやく返すときが来た
ボクの灯火で、消えかけた蝋燭に命を吹き込む
コ:――――見つけた
分厚い雲が空を覆う
コクメが見つめる先では、二重構造の城壁が左右にひろがっている。まるで古代ローマのような建築物がたち並んでいた
その中心にらせん型の塔が天高くそびえ立つ
頂上には古びた首切り台がぽつりとたたずんでいる
コ:……っ
コクメは息を呑んだ
首切り台にハイネがかけられている
コ:イッちゃん!
?:ほう、まさか君がここまでたどり着くとは! ご機嫌はいかがかな?
コ:ふざけるな。彼女に何をするつもりだ……ッ!
?:なにって、処刑だよ処刑
彼はあくまでも軽々しく朝食は米じゃなくパンだといわんばかりの調子で言う
コ:(イッちゃんの様子は……)
イ:…………
息はある。彼女はただ気を失っているだけだ
黒装束の男のもつロープさえ奪えばひとまず彼女の安全は確保できるだろう
話はそこからだった
――――事態は急変を迎える
男の手からロープが離れたのだ
力の均衡がくずれた今、ハイネの真上のギロチンが刃を光らせる
?:おっと、手が滑ってしまった
意図的なのは分かりきっていた
刃がハイネの首めがけて落ちていく
コ:くそ……ッ‼
――――カチっ
時を止め、あたかも瞬間移動のように斬首塔のてっぺんへと移動する
コ:おおおおッ‼
ガ……ッ!
男の不意をつき蹴りとばした
彼は重力のなされるがまま塔の真下へと落下した
コ:届えェえええええ……‼
死ぬ思いをしてここまで来た
猛毒は相変わらず体の中で暴れ回っている
こんなところで終わらせるわけにはいかない
コ:アアアアアアアア……ッ‼
筋線維が断裂しても関係ない
限界を越えてでも手を伸ばす
上がりゆくロープに追いつくか否か
ガッ
?:残念だが私も『瞬間移動』できるんだよ
突如として現れた男の手にコクメは腕をつかまれた
コ:離せえええええッ‼
これでは届かない
地を蹴って片方の手でロープに手を伸ばすが、そちらも簡単にホールドされてしまった。身体をひねろうとしたところで余裕はない
コ:諦めてたまるものかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ‼‼‼
喉がはちきれんばかりに叫ぶ
――――瞬間、予想外の出来事が起こった
イ:ありがとうっ、コーくん
ハイネが笑顔を見せた
コ:――――っ
いつ目覚めたのだとか
自分の状況を理解できているのかなど
そんな疑問はもはやどうでもよかった
一度君を失った、あのときと同じ
どうして笑うんだ
コ:これじゃあまるで君が救われたみたいじゃないかッ‼
救えてなんかいない
助けにもなれていない
コ:ボクはまだ、君に『ありがとう』さえ伝えられていないのに……ッ
ストンっ
あまりにもあっけないものだった
憎々しい刃はすでに動力を失っている
そこに彼女の笑顔はどこにもない
コ:あ、ああ……
簡単に壊れた
コ:ア、アア……ッ
音の出るただの傀儡だ
コ:ううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!??!?!
一度壊れてしまえば楽なものだった
内側からどす黒い感情の渦が溢れ出す
ちっぽけなボクが呑みこまれるのは速かった
コ:(あ、アアああ…………)
薄れゆく世界のなかで
弱々しく
けれど、確固として誓う
生まれ変わった『僕』は、必ず君を守り抜くから
もう一度、一度『ボク』に君の笑顔を見せてください
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