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ステージF(C)

 小屋を出て、月夜に照らされた夜道を駆ける

 幸いにもこの道のりには見覚えがあった

 気を失った場所へとたどり着く


コ:ここから、どう追いかけるか……


 ただひたすらに真っ直ぐ行くか

 それとも月明かりがおぼしめすままに走るのか


コ:なんて、ボクの脳内はいつからメルヘンチックに――――


 言いかけたところで、彼は見た

 月明かりに反射する光

 それはコクメを誘うように、行く先へと続いている


コ:ウロコ……?


 光の正体はどうやらヘビと思われるウロコだった


コ:なんで、こんなものが……


 十中八九、敵の罠に違いない

 甘い香りにつられてしまえば、喰われるのは必至


コ:けど、やつらにつながるのであればそれでいい


 コクメはウロコの続く道をたどって走り出した

 やはり、そうだ

 どこまでもウロコが続いていく


コ:イッちゃん……っ


 ハイネは先に、記憶を取り戻していた

 かたくなに過去を打ち明かさなかった理由


 コクメと出会っていたことを隠したかったから?

 コクメの苦痛に満ちた過去を思い出させたくなかった?

 それともコクメ自身が過去と向き合うべきだと判断した?


コ:ボクにはわかるはずない


 だから、もう一度話したい

 言葉を交わしたい

 そうすればきっと

また二人で笑えるはずだから


 ――――邂逅を果たす


誘:……ようやっと来た


コ:やっぱり、ウロコを置いたのはお前だったのか


誘:へえ、オレだってわかってたんだ?


コ:あのとき。お前に追いついて服を掴もうとしたとき、不自然な方向に身体が曲がって捕まえられなかった。このウロコがヘビのものだとするなら……おそらくはお前だと推測がつく


誘:頭いいねえ


コ:イッちゃんはどこだ


誘:クロ様が連れて行ったよ。ここにはいない


コ:お前……


誘:そう怒らないで。そもそもオレがヒントを与えなかったら、この場所にたどり着いてさえいなかっただろう?


コ:どうしてボクを呼んだ。何の用がある


誘:君と話がしたくなったんだよ。本当はもう、覚悟をしていたはずなんだけどね


コ:ボクと話だって? そんなことをして何になる


誘:そんなことって……ひどいなあ。親友と話をすることをそんなこと扱いだなんて


コ:親友だって……?


誘:そうともさ。オレと君は、切っても切れない、親友だとも


コ:お前はいったい……誰、なんだ?


誘:頭のキレるコクメのことだから、もう察しがついてたもんだと思ったけど


 コクメの先の人物がフードに手をかける

 ベールを脱いだ素顔は

 よくよく知った、彼だった


コ:……レ、ン……ゲ……?


レ:そんなに驚かなくてもいいだろう、コクメ


コ:な、んで……? 君はたしかに、死んで……


レ:ばかばか。人を勝手に殺すなっての。いや、死んだように見せたのはオレか!


コ:待ってよ、意味がわからない。何を言ってるだレンゲッ!


レ:察しが悪いなあ。どうやら今日は調子が悪いらしい


コ:レンゲッ‼


レ:抜け殻だよ


コ:…………は?


レ:あの死体はオレの抜け殻だ。オレがヘビの獣人だってのは分かってたんだろう? なら、種は簡単だ。抜け殻を設置して、あたかもオレが死んだかのように見せた


コ:なんでそんなことを!


レ:裏切ったことを知られたくなかったからだ


 今度こそ、コクメは絶句した

 裏切られた事実を受け止められなくて、という側面はある

 けれど、彼の素顔を見た時点である程度の覚悟はできていた


レ:大地の神見習いとの絶戦、獣人村での死闘……両手じゃ数え切れないな。そのすべてにおいて、お前たちを監視していた。過程はどうであれ、お前たちをこの『白い街』へと導くために


コ:…………


レ:君との出会い方、思えば滑稽だよな。なんだよ、丸裸って。怪しさのかたまりでしかないじゃないか


コ:一つだけ、聞かせほしい


レ:なんだ?


コ:言ったよね。抜け殻を残したのは、ボクたちに裏切られたのを知られたくなかったからだって


レ:うん、言った


コ:イッちゃんを連れ去るのが目的なら、わざわざ抜け殻を残さなくてよかった。むしろ抜け殻があったから、お前につながったんだ。痕跡一つなかったら、今もまだ街中でイッちゃんを探していただろうね


レ:その通りさ


コ:それだけじゃない。やろうと思えばいつだってイッちゃんを連れ去る隙はあったはずだ。それこそ、白鳥の獣人と闘った後、レンゲとイッちゃんは二人きりだった。白い街からもそう遠くない


レ:おっしゃる通り


コ:つまり、お前の行動には矛盾がある


レ:長ったらしいなあ。君はまさか、ボクにとんでもない理由があって裏切ったんじゃないかと期待しているのかい?


コ:それは……


レ:古いよしみとして断言しておく。ボクは最初からクロ様に忠誠を誓っている。この誓いに揺らぎはない


コ:…………ッ


 握りしめる拳から鋭い痛みが生まれる

 ぽたぽたと滴る滴


レ:ただ、あながち君の推理も間違っちゃあいない


コ:……え?


レ:今からオレは全力で君を殺す。そんな相手にこんなことを言うのはどうかと我ながら思うんだけどさ



レ:オレは君のことが好きだったよ



 ――――ギギンッ‼



 急接近したレンゲが短剣を振るう

 コクメは間一髪のところでそれを防いだ


レ:よく反応できたなあ、このオレの速さに


コ:お前、肌のひび割れが悪化して……ッ


レ:細かな変化への気づき、動揺していようと君は君というコトか


 バッ――


 二人の間に、今一度距離が生まれる

 首を鳴らし、レンゲが笑う


レ:名探偵様の推理に指摘があるとするならば、一つだけだな。君はハイネを連れ去った人物をヘビの獣人だと推測した。それはそれは大正解だとも。ただ、その時点で気づくべきだった


コ:…………


レ:身近に、ヘビのウロコのように肌割れたした男がいたってさ


 パキパキ……っ


 レンゲの頬に変化が生じる

 ひび割れがより深く、そしてより強固なものへと

 白く、白く……

 その姿は奇しくも、二人が出会った直後の雪原のように純白だった

 レンゲは人の皮を脱ぎ捨て、ヘビの化け物へと変貌を遂げた


レ:こレが本当のオレの姿だ。気持ちがワルいだろう?


コ:……ねえ、レンゲ。そんなことはどうでもいい。どうでもいいんだよ


レ:なンだと……?


コ:君の姿が不気味だとか、そんなことは些細な問題だ。大事なのは、ボクたちのこれからのことだ


レ:なにが言いたい……?


コ:話し合うんだよ。ボクたちは友達だった。たくさんの場所を巡って、たくさん馬鹿をやった。たくさん笑ったじゃないか! 君がどう思っていたかはわからないけど、ボクは……唯一無二の親友だって。そう思ってたから


レ:…………


コ:だから、もう一度話し合おう。君が忠誠を誓う人は……正直信用できないけど、君が信じるなら、ボクも信じられるかもしれない。そう、話し合いさえすればボクたちが戦わなくても――――



レ:なら、ハイネのことは諦めろ



コ:――――っ


レ:オマエが何を選択するかは自由だ。ハイネを救うのも、オレとともに来るのも、どちらの選択も存在する。だがどちらか一方を捨てられないなんて欲張れるほど、人生は甘くないぞ


コ:ボ、ボクは…………


レ:さあ、選べ


コ:ボクは……ッ


レ:選べ


コ:ボクは――――ッ‼


レ:時間切れだよ



 ド――――ッ



コ:げぼあっ⁉


レ:優柔不断なやつは生き残れない。ここで死ぬといい


コ:ぐう……ッ!


 ガギイインっ


 二つの刃が火花を散らす


 ギインギインギイインッ‼


レ:そうだ、コクメ‼ 戦え、戦えっ! それがお前の選択肢だッ‼


コ:うっ……ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼


 ――――カチっ


 ギインッ!


 レンゲの短剣が吹き飛ぶ


レ:ひゅうっ。さすがだ、コクメ! もっとオレを楽しませてくれ!


コ:レンゲエエェェェェェェッ‼


 コクメが愛刀を振りかざした

 しかしそれを、レンゲは自らの腕一本で対応した


 ガィンンンッ


コ:なっ、腕で受け止めた⁉


レ:悪いな、オレのウロコの強度は並みじゃない。そんな使い古されたもんじゃあ、傷一つつかねエぜ?


コ:ごぶうっ⁉


 レンゲの拳がコクメの腹部に深く沈む

 筋肉が反発して、コクメは数メートル先の大木にぶつかった


コ:げほっげほ……っ


レ:獣人ってのは醜い存在であることと引き換えに圧倒的な力を手に出来る。たかが拳で人一人を吹き飛ばすくらいにはさ


コ:……そ、んなの。ボクもよく知ってる


レ:そうだな。オレたちはたくさんの獣人と知り合い、絆を深め、旅を続けてきた。オレたちの軌跡の恩恵だ


コ:でも、君は一つだけ間違えているよ


レ:ん?


コ:獣人は醜い存在なんかじゃない。たとえ肉体が獣に近くても、心は『人』のまま……ううん。『痛み』を知っている分、『優しい人』たちなんだよ


レ:オマ、エ……


コ:だから、獣人は醜い存在なんかじゃない。もちろん、レンゲ。君もだ


レ:――――ったく、本当に人たらしだね、オマエは


コ:だから、ボクは捨てられない。イッちゃんも、レンゲも。両方ともひっくるめて選んでみせる。たとえ『奪って』でも


 ドクン……ッ


コ:げぼ……っ?


 直接心臓を絞られたからのような感覚

 吐血し、膝から崩れ落ちる


コ:これは……


レ:……毒だよ。お前に拳を叩き込むごとに猛毒を注入してやったんだ。解毒剤なんかない。これがオレの『毒を送り込む能力』だ


コ:ごほごほ……っ


レ:たいそうご立派なご説法の直後に申し訳ないが、オマエはもう助からない


コ:……そっか。ボクはもうダメなんだ


レ:ああ。だからもういい加減ラクになれ。オマエは十分頑張ったよ


コ:嫌だ


レ:聞き分けのないコドモみたいなことを


コ:嫌だよ、嫌に決まってるじゃないか。たとえ、ボクの命がここまでだとしても、ボクは諦めないッ! イッちゃんとレンゲ。二人が幸せじゃない限り、ボクは何度だって蘇ってやるさッ‼


レ:オマエ……なんで、まだ立っていられるんだよ⁉


コ:そんなの決まってる。二人のことが大好きだからだ……ッ‼‼


 ――――カチっ


レ:……ッ⁉


コ:くそッ、刃が通らない……っ‼


レ:は、はは……っ。そうだ、いくら足掻いたところでオレには傷一つつけられない! オレの勝ちは決まってる!


コ:くそくそくそくそッ‼


 ギッギギギギギギギンッ


 ――――カチっ


レ:無駄だ、時間を止めて瞬間移動したところでオレに攻撃は通用しないぞ


コ:う、ううううおおおおおおおおおおおッ‼


 ギッ、ギギギギギッギッ!


 何度も何度も、ウロコに刃を当てるコクメ


レ:馬鹿だな。やっけになって腕にしか当たってねェぞ


コ:ううおおおりゃあああッ‼


 渾身の一振りを、狙う


 バギイインッ‼


コ:あ……っ


 ついに限界がきた

 コクメの剣が砕け散る


レ:ありゃりゃ……無茶するからこうなるんだ


コ:…………たしかに無茶だったかもしれない


レ:ああ? なんだ、今更反省してところで


コ:でも、無茶をした甲斐はあった


レ:オマエ、何を言って……


 ビキビキ……っ


 バギイイッ――――‼‼


 レンゲの腕のウロコも同様に砕け散り

 ピンク色の皮膚が露呈する


レ:な、なに……ッ⁉


コ:狙いを一か所に絞って正解だった。おかげでこうして絶対防御のウロコを砕けたんだから


レ:自棄になって攻撃していたわけじゃなかったのかッ!


コ:はあ……はあ……っ


レ:だが、オマエの体力も限界のようだな。一方で、オレはたかだか腕のウロコを剥がされた程度の傷。勝負はもう決まったも同然だ


コ:楽観的な性格は、ほんと変わらないよね


レ:楽観的? いやいや、オレ以外の人間でも納得するだろう。この勝負の勝者は一目瞭然――――


 ドクン――――っ


 次の瞬間、レンゲは尻もちをついた

 視界が掠れていく


レ:な、なんだ? なんでオレが倒れてるんだよ……?


コ:キミはウロコを『剥がされただけ』だって、そう言ったよね。それは正確には違う。絶対防御のウロコを『剥がされてしまった』んだよ


レ:まさかオレと同じ毒を盛ったのか……ッ⁉


コ:逆だよ。『獣人化』を緩和する薬を剣に塗っていたんだ


レ:なあ……ッ⁉


コ:イッちゃんからもらってた薬でね。助けられたのはこれで二回目・・・


レ:はあっ、はあっ……


 レンゲの皮膚が徐々に柔軟性を取り戻していく

 青年らしい、みずみずしい肌へと


コ:これでようやく同じ土俵に立てたね


レ:コクメェェ……ッ‼


コ:でも、この戦いもそろそろ終わりだ


レ:ああ、そうだな。お望み通り終わらせてやるさ


 激しく肩を上下させながらもレンゲは立ち上がり、コクメと対峙する

 短剣を懐から抜き出す

 一方で、コクメは丸腰だった


レ:これで一発だ。あの世に送ってやる


コ:そうだね。一発で終わらせよう


 ――――カチっ



コ:――――拳一発分で許してやる



 バギンンンンッッッ‼‼‼



レ:がはああ……ッ⁉


コ:だからもう一度、考えなおしてくれ



 気を失った親友に、懇願する



コ:お願いだよ、レンゲ



 彼はその場を後にした



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