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ステージF(A)

 あまりに異様な光景にコクメは息をするのも忘れた


コ:な、んだよ……これ。なんの冗談だよ……?


 つい先ほどまであれだけ元気にしていたのに

 耳を塞ぎたくなるほどうるさかったのに


 動かないレンゲを抱きかかえ、


コ:……ッ


 肌の冷たさ、その身体の軽さに驚く

 まるで抜け殻のようだった


コ:…………突然すぎるでしょ。待ってよ、意味が分からない


 血色のない顔

 ぴくりとも動かない

 静寂な部屋に、嗚咽がこぼれ始めた


コ:……うっ……ぐっ……何が、何があったんだよ……どうしてレンゲがこんな目にあわなきゃいけないんだ……?


 ――――


コ:もっと話すことがあった……たくさんの場所へ旅に出たかった。覗きでもいい。一緒に馬鹿がやりたい。誤解だって解けてないのにさ


 ――――


コ:君のためなら命をかけられるって言ったけど……駆けつける前に死んだんじゃ、もうどうしようもないじゃないか……ッッ‼


 ――――


コ:イッちゃん


 ここにはいない人物

 彼女がレンゲの命を奪ったとか、そんな愚かなことは考えていない


コ:誰かがイッちゃんをさらった。そのときにレンゲが殺されたんだ


 ハイネが外に出たくなかった理由

 恐れていた、人物

 すべての黒幕はきっとそいつだ



コ:絶対に許さない。何が何でも――――見つけ出してやる



 空はもう紺色に変わっていた

 満月が街を照らしている


コ:はあっ、はあっ……


 外には誰もいない

 この街が寝静まるのはいささか早い

 人気のない街を駆け抜ける


コ:はあっ、はあっ……


 あてはなかった

 ただただ走り続ける

 何も見つからない


コ:くそ……っ‼


 焦る一方、無情にも闇夜が深くなる

 光がなくなり、道行く先が見えなくなりつつある


 その頃合いのことだった


ハ:ようやっと見つけましたわ、コーさま……


コ:……ハナちゃんか


ハ:わたくしの顔を見てガッカリするのはやめてくださいまし


コ:ご、ごめん。そんなつもりはなくて


ハ:状況が状況ですものね、無理もありません


コ:ハナちゃん、もしかして何が起こったのか知ってるの?


ハ:街の植物たちが教えてくれましたの、コーさまが必死の形相で街中を駆け回っていると。コーさまが泊まられている宿を訪れてみたら……あのようなことになっていて


コ:…………


ハ:わたくしなら可能です


コ:可能ってなにが……?


ハ:この悲劇の黒幕を見つけ出すこと。わたくしならできますわ


コ:え? それ本当⁉


ハ:こうして今、コーさまを見つけ出しました。それと同じです。回りの植物たちに聞いて回れば、黒幕の足取りが掴めます


コ:ありがとう、ハナちゃん!


ハ:ちょっ、ここここコーさま⁉ 不意なハグはお控えください!


コ:あ、ごめん! つい衝動になって……


ハ:…………(むすっ)


コ:ハナちゃん……怒ってる?


ハ:違いますわ。びっくりしたとはいえこうも簡単に離れられるとそれはそれで寂しいといいますか……


コ:ハナちゃん……?


ハ:なんでもありません。とにかくわたくしに任せてくださいな


コ:ありがとうハナちゃん! それじゃさっそくお願いできるかな


ハ:その前に一つだけ、聞いてもいいですか?


コ:ん?


ハ:あのハイネさんという女性は……コーさまにとってどのようなお方ですか?


コ:ボクにとって、イッちゃんが……?


ハ:以前よりお名前だけはうかがっていました。これまで一緒に旅をしてきたという女性のこと。今のこの場にいないことから推察するに……コーさまはハイネさんを取り戻すために黒幕を追っているんですよね?


コ:……うん。そうだよ


ハ:改めて問います。コーさまにとって、ハイネさんはどのような存在なのですか?


コ:…………


ハ:コーさま


コ:イッちゃんは……ボクにとって……


 コクメ、先の言葉を口にしない

 それを見かねてか、


ハ:……いえ、ごめんなさい。愚問でしたわ


コ:ハナちゃん……?


ハ:間に合わなくなってしまったら取り返しがつきませんもの。今は黒幕を追いかけましょう


コ:……そうだね。わかった


ハ:では、わたくしの本領発揮といきましょうか


 ハナが目をつむると、彼女の周囲から淡い紅葉色の光が湧きだした


コ:これで周りの植物や大地に話しかけてるんだ。すごく神秘的で……なんだか


ハ:…………見つけましたわ


コ:本当⁉


ハ:ええ、ここからそう遠くありません。黒いフードをかぶった人物が隻翼の少女を抱えているようです


コ:間違いない、イッちゃんだ


ハ:ビンゴですわね。コーさま、わたくしのスピードについてこれますか?


コ:時を止めなくたってボクは速いんだよ?


ハ:ふふっ、冗談ですわよ


コ:ハナちゃんこそ、ボクに遅れをとらないようにね


ハ:それこそ冗談ですわ


 バ――――ッ


風を切る。夜の街並みが残像をともなって後ろへと流れていく


 二人が目指す場所は樹海とは反対側の方角

 森を駆け、野原を渡る


 息が荒くなり始めた、ちょうどそのとき


ハ:コーさま、あれを!


コ:――――見つけた!


 二人の視線の先に、月明かりに照らされた影が一つ

 フードをかぶって正体は分からない

 腕の中にはハイネが眠っていた


コ:絶対逃がすもんか


カチ――――っ


 時を止め、一気に距離を詰める

 再始動する直前、誘拐犯の背中に触れた

 ……しかし、


コ:すり抜けた⁉


ハ:こちらを見ていないのに、我々の存在に気づいていた?


誘:…………


 逃走をやめた誘拐犯が振り向き、コクメたちと対峙する


コ:……あんた、いったい何者なんだ?


誘:…………


コ:イッちゃんをさらって何しようとしてんだ。まさか、イッちゃんをめぐってはないちもんめでもしたかったのかい?


ハ:お遊びにしては少しおいたがすぎますけれどね


誘:…………


コ:黙ってないでなんとか言ったらどうなんだい?


誘:…………君たちとは、もう、話すことはないよ


コ:話すことはない、だって……?


誘:そう言った


コ:ふざけるなッッッ‼‼ イッちゃんをこんな目に遭わせておきながら、レンゲを……レンゲの命を奪いやがって……ッッッ‼


誘:……何が言いたい


コ:お前を許さないって言ってるんだよ。レンゲとはもっともっと話したかった。ふざけたやつだけど、根は優しいやつだった。楽しかった。イッちゃんとレンゲとボクの三人で、今までみたいに色々な場所を旅して、苦しんでる獣人を助けて、時には馬鹿をして。もっと、もっと……同じ時間を共有したかった


ハ:……コーさま


コ:……だから、お前を許さない。復讐をしたって何にもならないことは分かってる。でも、許せないものは許せないんだよ。お前は、越えちゃならない一線を越えたんだ


誘:…………


コ:まずは、イッちゃんを返してもらうところからだ


?:そう易々と上手くいくとは思えないがね


 不意に、どこからともなく聞こえた声

 それは誘拐犯のものではなかった


 もう一人


 コクメたちが対峙する誘拐犯の、その背後から黒装束の男が現れた

 彼もまたフードを深くかぶっていて、その素顔は見えない


コ:……誰だ、あんた


?:此度の首謀者であり黒幕。そして――――



 男の姿が消え――――コクメのすぐ隣へと“現れた”



?:――――私はキミだよ。そうして、キミは私だ



 告げられる

 蟲が囁くように

 死神が微笑むように

 たあんと


コ:な、何を言って……ッ


 頭では理解できなくても

 身体が知っていた

 嫌というほどに刻みつけられていた


 鼓動が強くなる


コ:はあっ、はあっ……


?:ふふふ……


コ:ハアッ、ハアッ……ッ‼


ハ:コーさま⁉


 外傷はない

 特別何かされたわけでもない


 ただ。ただ。


 男の声で、眠っていた忌まわしき記憶が、すべて呼び起こされる



?:さよならだ



 コクメの意識が白く染まっていく



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