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ステージF(はじまり)

 ハナとの決着から一週間

 コクメの日々は劇的に変化していた


ハ:コーさまあ~! どうしてわたくしから逃げるのですかあ~!


コ:ややっ、ボクとしては嬉しいんだけど恐いんだなこりが……ッ‼


ハ:受け止めてくださってもよろしいですのに


コ:もうちょっと女の子らしかったらね!


 触手で追い回される日々にコクメは疲弊していた

 好意を持ってくれるのは嬉しいが、アプローチの仕方が特殊すぎる


コ:ふいぃ……今日もなんとか生き延びた


イ:おかえり、コーくんっ


コ:ただいまだよ、イッちゃん


イ:なんだか最近大変そうだね?


コ:薄い本の主人公みたいになりたくないからね


イ:コーくんはたまによくわからないことを口にするよね


コ:まあね


イ:そこは堂々と胸を張るところじゃないと思う


 何気ないいつもの会話だが、変化はここにもあった


コ:……ねえ、イッちゃん。体調とか大丈夫?


イ:え、どうして?


コ:最近……その、顔色とかあんまりよくないようだし


イ:そうかな? ずっと宿にこもって陽に当たってないからかも


コ:そ、そっか。じゃあ、たまには外に出ないとだね


イ:あはは……っ


 ハイネは白い街に来てからというもの、外出する頻度が極端に減った

 特にハナとの一件があった時期からは一歩たりとも出ていない


イ:わたし、お風呂に入ってくるね


コ:うん。いってらっしゃい


 ハイネ、部屋を出る


コ:イッちゃんが外に出ないのはやっぱりこの街に何かがあるからだよね……


レ:あなたの疑問、オレっちが解決致しましょう


コ:おまっ、ちょっ、レンゲ⁉


レ:レンゲでございます


コ:いつからここにいたのさ!


レ:ハイネと入れ替わるタイミングでございます


コ:っていうか、その執事みたいな喋り方はやめて。世界一に似合わない


レ:そこまで言わなくてもいいんじゃない?


 レンゲ、うなだれながらコクメの隣に腰を下ろす


コ:イッちゃんが外に出たくない理由……レンゲは知ってるの?


レ:まあな。お前の不倫が原因だ


コ:……はい?


レ:ここ数日、帰るのが遅いだろう? それになんだかヤりきったみたいな顔をしてるもんだからな。そりゃ、正妻は怒るってもんだ


コ:うん、まったく話についていけない


レ:じゃあ、あのオレンジ色のドレスを着た女の子は誰だったんだ?


コ:うっ……


レ:仲睦まじそうに「コーさま」なんて呼ばれてさ。あんな向日葵みたいな子になんちゅープレイを要求してるんだこの鬼畜め!


コ:よしわかった、とりあえず声のボリュームを落とそうか


レ:んで、あの子は誰なんだ?


コ:ハナちゃんはその……はあ、二人に心配をかけたくなかったから言わなかったんだけどさ――――、


 コクメ、森での死闘を話す


コ:それ以来、妙に好感を持たれちゃってさ。ボクとしては嬉しくないこともないんだけど、いかんせん変わった子でね


レ:コクメがそこまで言うなんて、よっぽどなんだな


コ:ああ、でも。レンゲとは相性いいかも。触手持ってるし


レ:触手? もしかして人の形をした化け物の話をしてた?


コ:いやいや、ハナちゃんはれっきとした女の子……なのかな?


レ:そこは自信持てよ


 本人いわく『大地の神』の弟子だそうだが、コクメはあまり信じていなかった


コ:なにはともあれ、ハナちゃんとは変な関係じゃないから。妙な期待を膨らませるのはやめて


レ:つまんねー


コ:それで、イッちゃんの様子がおかしい本当の理由はなんなの?


レ:わからん


コ:は?


レ:お前とハナちゃんの関係が知りたくてウソついた


コ:ハナちゃ~ん、触手の準備お願い


レ:待て待て、ハナちゃんそこにいるのか?


コ:いやいないけど呼んだら来そうだから


レ:ますますそいつのことがよく分からない


コ:本当に、何も知らないの?


レ:知らない……が、なるべく外に出たくないってことだけは知ってる


コ:どういう意味?


レ:日中、お前が街に出て記憶を取り戻すヒントを探している間、ハイネのやつはまじで外に出てない。オレが誘っても顔を青ざめて小刻みに震え出す始末だ。それくらいこの街に因縁があるんだろうさ


コ:そうなんだ……イッちゃん、そこまで


レ:ああ


コ:じゃあ、なおさら早く記憶を取り戻さないとだね


レ:なんで?


コ:なんでって、ボクが記憶を取り戻したらイッちゃんが何に怯えているのか分かるでしょ。そしたら二人で話し合えるし、乗り越えられるかもしれない


レ:……なあ、コクメ


コ:なに?


レ:なんでそこまでしてハイネの助けになろうとするんだ?


コ:助けになろうって……そんなの、仲間が困ってたら助けたくなるものでしょ


レ:お前が言ってるのはただの一般論だ。仲間だのどうだの、命を賭してまで助けようと思えないのがリアルなんだよ


コ:……たしかに、レンゲが言わんとしてることは正しいと思う。誰しもが仲間を助けたいって口をそろえて言うだろうけど、それはきっと自分に余裕があるからなんだ


レ:自分の命がかかってるんじゃあ、誰かを助けるという発想がそもそもないだろうな


コ:否定はしないよ


レ:じゃあ、なんで


コ:ボクには分からない


レ:はい? 分からないってなんだよ


コ:理屈じゃないんだ。ただ、心の声に素直に従ってるというか……


 彼女のことを愛しているとは、相手がレンゲでもさすがに口にできない


レ:矛盾してないか? 本能ってのは自分の身を守るために備わってる。なのにお前が言ってるのは本能が他人を優先してるってことになるんだぞ


コ:もう、だからボクにも分からないんだってば!


レ:お前は、ほんとに変なやつだなあ


コ:レンゲだけには言われたくないけど……たぶん、レンゲがピンチのときもボクは命を懸けて戦うと思うよ?


レ:…………え? 待て待て、冗談は顔だけにしなって


コ:顔も真剣だわ


レ:なんだ……? コクメはオレを助けるためにも命をかけられるっていうのか


コ:死ぬつもりはないけどね。でも、君のために戦えるよ


レ:…………


コ:…………あの、レンゲさん?


レ:…………まじか


コ:ちょっとマジ顔になるのやめてもらえます? 恥ずかしくて死にそうなんだけど


レ:お前、ハイネだけじゃなくてオレにも惚れてたんだな……


コ:いつから惚れる惚れないの話になってたんだ!


レ:掘る掘られるの話……?


コ:即退散!


 コクメは迷わず部屋から逃げ出した

 後ろから追ってこられるものだと思ったが、レンゲの姿はなかった



 それから二日後の夕暮れ

 コクメが宿へと戻ってきたとき


 部屋にいるはずのハイネの姿が見当たらず



 ――――冷たくなったレンゲが横たわっていた



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