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ロスト・ライフ~女の子に食べられる前夜~【ロールプレイングゲーム型小説】  作者: 空超未来一
【ステージ5】: ひまわりは夜に出会い、朝を迎える
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ステージ5(E)

 彼女はすぐ近くにいた

 原型の分からない獣人と立ちあい、引き裂くような笑みを浮かべている


橙:死ね死ね死ね死ね


 彼女の操る触手が獣人を絡めとる

目を背けたくなるほど一方的な虐殺だった


橙:はあっ、はあっ……


 やがて獣人が動かなくなり、光となって消えていく


橙:アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼‼


 聞くに堪えない悲鳴だった

 命を奪っているのは彼女のほうなのに

 一番苦しそうにもがいているのも、また彼女だった


コ:もうやめようよ


 彼女の意識がコクメに向く

 彼は一歩も引かなかった


コ:もうやめよう


 少女の口の端がつり上がる

まるでこいつなら食べごたえがあるといわんばかりに


橙:私に食べられてよ?


コ:…………


 合図なんて、ない

 火ぶたを切ったのは少女だった


橙:さあて、一緒におどりましょう


 少女は本の木を触手のように操り、コクメを襲う。


コ:そんなもの、ボクには当たらない


橙:それでも私には及ばないわ!


コ:くっ!

 さらに数十本の樹木をコントロールし、千本もの槍の雨を降らせる

 次第にコクメのかすり傷が増えていく

 

コ:そろそろまずいかな……ッ


橙:どうしたの! あのときのあなたはもっと強かったでしょうに!


コ:そりゃどうも……っ!


瞬間、コクメの姿が消えた

 少女は身に覚えがあった


橙:瞬間移動ですか


コ:ご明察


橙:っ

 

コクメが少女のすぐ後ろに現れる

 少女はカウンターをとる形で木の根っこをコクメの鼻先にかすめた


コ:うおっと。いい反射神経をお持ちで


橙:これでも神さま見習いだから


コ:そいつはすごいや


 ザシュバババババババババババッ


 数十本もの触手がコクメに牙をむく

 しかし、彼はたった一本の剣で対応した


橙:はあっ、はあっ


コ:どうしたの? 息があがってるようだけど


橙:そう言うあなたも汗が流れてるけど?


コ:お互いさまってことさ!


橙:やあッ!


コ:ぐぬっ⁉


 少女が渾身の一撃を放つが、コクメはそれを耐えきった

 反動で二人の間に距離が生まれる


コ:やるね……。まさかここまで苦労するとは思わなかったよ


橙:甘く見られたものですわね。わたくしに喰われるときがすぐ目の前に迫っているというのに……


コ:――――君にいったい何があったの?


橙:…………何を言っているのですか?


コ:僕は君の名前だって知らない赤の他人さ。でもこれだけは分かる。君は心の優しい人だった。それこそ名前の知らない女の子を救ったくらいには


橙:…………


 静寂が怒声へと変わる


橙:あなたには……何も分からない。わかるはずもない! だからもう、私にはどうすることもできないの。唯一の救いが破壊。わたくしの心をたぎらせる最後の希望!



橙:三度目はもうないの



コ:………………そうか



コ:だったら僕が別の未来に連れていくって約束する



少女は何を言われているのか理解することができなかった

けれど、歯の奥から嫌な音がしたのはたしかだった


橙:知ったような口を利くなああああああああああッ!!!


 ズオオオッ!!!


 大地が響き、数千もの木の葉が舞う

 少女の背後から千手観音のように先端をとがらせた触手があらわれる


橙:アアアアアアアアアッッ‼‼‼


コ:……っ!


 触手は舞い散る枯れ葉を貫いてコクメへと襲いかかる

 視界を覆いつくすほどの数の暴力

 しかし、コクメは背中を見せなかった


コ:――――――――


 コクメの姿がカットアウトする


コ:やっかいだね、この触手は


橙:……ちっ


 コクメは先ほどから数十メートル離れた地点にいた

 触手の範囲外。

だが。


橙:私から逃げられるとは思わないで


コ:うおっ


 少女がいそぎんちゃくのように触手を伸ばし捕らえようとする

 再びコクメの姿が見えなくなる

 瞬間移動


橙:動きが単調だけど?


コ:っ!


 事前に触手が張られていた

地中から現れた触手が互いに絡まり合り一つの大樹と化す


コ:ぐうッ⁉


 宙へと投げとばされたコクメが地面に転がり血のようなものを吐き出す

 少女の頬に熱が帯びる


橙:どぉーしたの? 私はただ、あなたが瞬間移動しそうな場所に罠をはっておいただけよ。それほど大したことをしたつもりはないんだけど」


コ:……ッ


橙:息絶え絶えね。さっきの威勢はどうしたの……よッ!


コ:げぼぁ⁉


 コクメの腹部をつま先で蹴りとばす

 少女の脚力は並み外れていた

 

橙:これっぽちでもうおしまい? ……冗談じゃない! あなたは私を救ってくれるのでしょう? 私を輝かしい未来へ導いてくれるのでしょう? ならそれだけの強さを証明してみせてよ。ちっぽけな弱さで私を語らないで!


コ:……強さだけがすべてじゃない


橙:…………?


 くぐもった声が少女の耳に入る

 傷の深い箇所をかばいながら

コクメは立ち上がり、咆哮する


コ:強さだけがすべてじゃないって言ったんだよ。弱くったていいじゃないか。未熟な強さは他人だけじゃなく自分自身をも傷つける。そんなものは必要ない‼


橙:そんなわけないでしょう! 強さこそすべて。強さこそ正義なの! そうじゃないと、私は昔の自分に戻ってしまう。何もできなかった弱い私に!


 少女はかつて何も救えなかった

 コクメが知らない彼女の物語

 恐怖に屈し、救えなかった

 けれど彼女は強くなった

 怖いものに立ち向かるだけの力を手に入れた

 もう怖いものなんてないのだ


橙:…………怖いものなんて、ないの


コ:怖いのは自分自身なんだと思う


橙:…………え?


コ:たぶん君は強くなった自分が怖かっただけなんだよ。だから誰かを傷つけようとした。他人を傷つけることで強さが自分に牙をむかないように


橙:……そ、そんなことは

 

そんなことはない。あってはならない

 少女は強いそれは単に力があるだけを意味するわけじゃない

 誰かを救う、そんな強さが。


橙:――――あっ


――――少女は結局、誰も救えていない


橙:…………そっか。そうなんだ。私じゃダメなんだ


 いくら力をつけたところで誰かを救おうとはしなかった

 むしろ他人を傷つけていただけ

 きっと誰かのピンチに遭遇したのだとしても


橙:……私は動けない


 どれだけ強くなったって

 少女には勇気がないのですから


プチリ


 取り返しのつかない一線を、超えてしまった


 ズオオオおおォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!


 地面に亀裂が走り、地中から手の形をした大樹が現れた

 まるで地の底から這い出た悪魔だった


橙:――――――――


 少女の意思はなかった

 そこに彼女は存在しない

 最初から空っぽな少女になど


コ:大丈夫


 遠のいていく意識の中で、温かな声音が少女の鼓膜をふるわせた


コ:大丈夫だから、安心して


 こんなふうに落ちても彼は少女のことを想う

 暴走する力は神の領域に達していた

いいや、たぶんそれは悪魔的なものだった

 それでも彼は――――


橙:コ……ク、メ…………


 少女の意識が完全に失われる



 ステージ5(F)へ


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