ステージ5(A)
コ:…………
静かな小道を一人、歩く
ぽつりとこぼれた
コ:……イッちゃんもひどいよなあ、ボクが何をしたっていうんだよ
コツンと小石を蹴り飛ばす
コ:記憶、戻ったのかな……?
――――
コ:でも、大したきっかけなんてなかっただろうし、そもそもそんな時間だってなかったよね
――――
コ:強いて言うなら、ハクチョウの獣人を倒したことだけど……イッちゃん、それで怒ったのかな?
――――
コ:でも、もう手遅れだって言ったのはイッちゃんだし……ああもう、わからん!
コクメ、尻もちをついて青空を仰ぐ
木漏れ日に目を細める
コ:記憶、かあ……
小石を空に投げ飛ばす
木の葉が一枚舞い散った
――――カチっ
宙の木の葉が、静止する
コ:ボクの、この力もボクの知らない『ボク』の力なんだろうな
――――カチっ
重力のおぼしめすままに木の葉が落ちていく
コ:『時を止める力』か。一瞬とはいえ、便利な力だよ
――――
コ:この力はボクのものじゃない。使いこなせる自信もない。誰かを救えるだけの力か。その答えもわからない。でも、
コ:“誰かさん”を守る力として使うのは悪くないはずだよね?
――――
コ:……なんてね! 久しぶりに一人っきりの時間だから、つい変なこと言っちゃったよ。あーあ、ボクもイロイロ溜まってるんだなあ
――――
コ:なんかゴロっとしたらすっきりしたや。そろそろ戻るとするかな
服についた土埃を払い、踵を返した
ちょうどそのとき、
?:きゃあああああっ!
叫び声がした
コ:っ⁉ イッちゃんたちとは違う方向からだったような……
迷いはなかった
声のしたほうへと駆け出す
コ:あれは、獣人……ッ!
コクメの視線の先にはウシの姿をした獣人がいた
そのすぐそばで赤髪をした女の子が腰を抜かしている
今まさに小さな女の子を襲わんとしていた
コ:まずい、ここからじゃ間に合わない……ッ
時を止めて一か八か
足のバネに力を込めて、飛び出そうとした
直前で、
?:乗り越えられない壁があるのなら、ぶち壊すだけ……ッ!
――――ドッッ!
ふりおろされた剛腕が突如飛び出した大木と衝突した
気づけば女の子の前に、オレンジ色のドレスを身に纏った女の子が立っていた
獣:……???
ウシの獣人は闖入者に戸惑いをみせた
コクメは木の陰からその様子を眺めることしかできない
?:やあああっ!
コ:……女の子の意思に従うかのように、周りの木々が動いてる……?
複数の木の枝がまるで熱帯地方の植物のようにうねる。それらは互いにからみあい一本の大樹と成った
?:これでもくらえーッ!
獣:ブルォッ⁉
コ:絡まった触手がハンマーのようになって獣人を吹き飛ばした!
橙色のドレスの少女が小さな女の子に声をかける
橙:けがはない?
小:……ぁ、え……は、い
橙:あっちのほうに走って。そうしたら街のほうに出られるから
小:……お、おねえちゃんは……おねえちゃんはどうするの……?
橙:大丈夫だよ。なんとからしてみせるから
小:で、でもおねえちゃんも殺されちゃうよ……っ!
橙:獣人をふきとばすのを見たでしょ? こう見えてわたしは強いんだから
小:……でも
橙:いいから行きなさいな
橙の少女の強い口調に、小さな女の子がびくりと震える
彼女の気迫に負けたのか何も言わずにその場から走り去った
橙:……おねえちゃんか
ぽつりと嬉しそうにつぶやく少女
橙:……なんだか力が湧いてきたかも
砂煙の中からウシの獣人が立ち上がる
合図は単純だった
獣:ブルウウウウウッッッ‼
少女の足元が爆発し、一瞬にして距離が縮まる
懐にもぐりこみ弓矢のように自身の拳を突き出す
ドッ
鈍い音が一つ
橙:まだまだぁーッ!
ドドドドドドドッ
右から左、もう一度右というサイクルを繰り返し、ウシの獣人のみぞおちと連打しました。連続した打撃を数十発。
橙:ていやーっ!
フィニッシュのまわし蹴りをお見舞いする
彼女は非凡だった
一撃の威力が人のそれではない
それこそ、バケモノと崇められてもおかしくない力だった
だが――――獣人もまた並みではなかった。
コ:あいつ……笑ってる?
遠くから見てもわかる、喜びの感情
どうも、ウシの獣人は昂っているらしい
獣:ブルアアッ!
橙:うぐっ⁉
獣人の懐にもぐりこんでいたのが裏目に出た
岩のようにごつごつとした膝蹴りをまともに受け、少女の身体がサッカーボールのように空中へと投げ出される
橙:……はあ、はあ……っ
常人なら即死だった
彼女の非凡さがさらに浮き彫りになる
けれど、そんな彼女でさえもすでに息が上がっていた
橙:……や、ヤバイッ!
無数の触手がウシの獣人を襲う
しかし、すべてが小枝のようにパキパキと砕け散ってゆく
橙:だったらさっきみたいに大樹を生成すれば……ッ
枝が一点に向かって集まっていく
が、途中で糸が切れたように動くことをやめた
そのあたりに落ちている小枝のように転がる
橙:……あ、あぁ……ガイア様……ッ!
獣:ブルウウウウウ
橙:……ッ
少女の顔から血の気が引いていく
希望は砕け散った
橙:ごめんなさい
死の直前に出たのは謝罪だった
橙:ごめんなさい……っ
すべての愛に謝った
涙を流してはいけないはずなのに、どうしてもこぼれてしまう
彼女は救える人を救えなかった
彼女に勇気がなかったから
ゆえにこう思う
わたしが生きるのは罪なのだと
獣:ブルルッ
助けられなかった人に、愛してくれたみんなに謝る
命の仕上げは後悔に対する懺悔だ
獣:ブルオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
橙:…………ッ
終わりを迎え入れる
コ:――――君が謝るなんておかしいよ
橙:え?
絶望の先から聞こえた声
空耳ではない
コ:君が謝るなんてことはボクが絶対に許さないから
まぶたを上げたその先に
黒い青年が獣人の間に立ちふさがった
ステージ5(B)へ




