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ステージ4(E)

 夜は更け、瞬く間に朝日が昇る

 あのから頭痛がひどい

 身体の節々も悲鳴をあげている

 これも副作用・・・なのだろうか

 ……一部違う気もするけれど


シュ:おにいちゃん、こっちこっち!


コ:しゅ、シュリンくん……足早すぎ……


シュ:え? はしってないよ?


コ:低空飛行でも一緒だってば


シュ:へんなおにいちゃん


コ:ちょっ、シュリンくん。一回休憩しよ?


シュ:は~い


 木陰に入り、一休みするコクメとシュリン

 日光がないだけでこれだけ暑さが違う

 氷の村だというのに、暑いのが不思議だけど


シュ:ねえ、おにいちゃん


コ:どしたの?


シュ:今日の朝、おかあさんとなにしてたの? なんだかあぶなそうなことしてた


コ:あ、はは……たしかにアブナイお遊びだったかもね。まさか……お尻に氷輝を刺さないといけないなんてなあ……


 あのときの恐怖がまだ脳裏にこびりついている

 儀式に必要とはいえ、とんでもない状態だった


コ:あれを見てイッちゃんもよく逃げなかったなあ……


 儀式が終わってコクメは糸が切れたように眠った。目が覚めた時にはハイネが隣で同じように眠っていた。あの後同じことをハイネもされたとなると……

 コクメは少しうずいてしまう


コ:まあ、そのおかげで記憶がぼんやり戻ってきてるし。イッちゃんはまだ寝てるのかな?


シュ:おにいちゃん、どこ見てるの?


コ:強いて言うなら遠い昔の空かな


シュ:変なことばっかりいうね、おにいちゃん


コ:シュリンくんもなかなか辛辣だよね。さすがお母さんの息子というか


シュ:でもぼく、おかあさんのことが時々わからないんだ


コ:わからない?


シュ:だっておねえちゃんはニンゲンに殺されたんだよね?


コ:……っ


シュ:じゃあ、どうしてニンゲンはのうのうと生きてるの? 楽しそうに生きてるの? ぼくたちはこんなにもつらくて……おねえちゃんはもう、いないのに


コ:…………


 コクメは言葉が見つからなかった

 何も答えられない


シュ:こんなことかんがえるぼくは……やっぱりへんなのかな?


コ:変じゃないよ。シュリンくんがそう考えちゃうのは当然だ


シュ:じゃあ、ぼくのいってることはただしい?


コ:そ、それは……


ウ:おうおう、いいねえ。木陰で話をする二人。強いて名づけるとするなら、『日曜日の午後』ってところだろうなあ。うーん、獣人には似合わないねぇ


 そこに現れたのはウオだった

 武装した男たちもそろっている

 目にした瞬間、コクメの思考は沸騰しかけた


コ:何しに来た、ウオ‼


ウ:何しにって……言ったでしょ? 氷輝を準備して待ってろって


コ:氷輝は二日後の明日だったはずだ! 今日じゃない


ウ:あれ、そうだっけ? でもこっちにも事情があってさあ。早くくれないと困るんだけど


コ:黙れ! アイスちゃんの命を奪っておきながら、よくもぬけぬけと……


ウ:なるほど、だからなに?


コ:お前……この期に及んで!


ウ:謝れば僕の友達が帰ってくるの?


コ:……ッ!


ウ:お前も知ってるんだろ、僕の友達が獣人に殺されたって。それも食い殺された。さぞ苦しかったろう痛かっただろう。食い殺されるってどんな感じなんだ、ダメだ、死ぬことを想像するのだって怖いのに、死ぬって分かってるのに意識があったら、恐ろしくてたまらない‼ 食われながら死ぬってのはそういうことなんだ!


コ:それでも……お前はアイスちゃんを殺した


ウ:ああ、殺したよ。だって僕しかいないんだから


コ:なんだって?


ウ:僕しかいないんだよ、獣人を殺せるのは村の中で僕しかいない! だって僕は『冒険者』だから! やるしかないんだよ‼


 ――――バッ‼


 ギイィン‼


ウ:お前、僕が憎いか⁉


コ:ああ、憎い、憎いね‼


ウ:正直でよろしい! なら僕を殺せ‼ 殺せば何かが変わるかもしれないぞ、僕みたいにな‼


 ガギンッ


ウ:影分身かげぶんしんの術ッ‼


 ババババッ


コ:なっ、ウオが七人に増えた⁉


ウ:戦いってのはな、結局数の暴力なんだ。こんなふうになッ!


 四方八方からクナイが飛び交う

 コクメは慌てて回避するものの、


 ザシュッ!

 ザシュシュッ‼


コ:くそッ……


ウ:二本か……いい動きだねぇ、悪くない


コ:それはどう、も……‼


 ババ――――ッ


 不意を突いての突撃

 コクメに話しかけていたウオに斬りかかる


コ:話しかけていたってことはつまり、それが本体でしょうが!


ウ:なかなかいいセンスしてるが


 フワっ


コ:なっ、手ごたえがない⁉


ウ:残念ながらハズレだ


 バギイ……ッ!


 ウオの拳がコクメの頬を殴り飛ばす

 脳天が揺れる

 息をするのでやっとだった


コ:ぐっ……ううっ


ウ:やっぱり弱いな。こんなに歯ごたえがないんじゃあ、どうしようもねえよ


シュ:まって……っ‼


ウ:あん? なんだ、お前


シュ:これいじょう、おにいちゃんをいじめないで!


 ウオに立ちはだかるのは、小さな獣シュリンだ

 その手は震えている


ウ:ああ、お前あの村長の子供か


シュ:ぼく、しってるんだ……おねえちゃんをころしたのは、あなたなんでしょ


ウ:……そうだな。それがどうかしたか


シュ:ぼく、あなたがだいきらいだ。おねえちゃんをころしておいて、おかあさんやむらのみんなまでいじめる。いつかかならずころしてやるんだ!


ウ:いいねえ、その殺気。いっそのこと今殺してやってもいいんだぜ?


シュ:でも、でも……なんでだろう


ウ:あ?


シュ:あなたをまえにすると、ころしてやろうってきもちがわかないんだ。ずっと、ずっとずっとずっところしてやろうっておもってたのに……っ‼


コ:シュリンくん……


 涙をこらえるシュリン

 我慢できるものではなかった

 想いがこぼれ落ちる


シュ:……ねえ、おにいさん。ぼくたちはこれからもなかよくなれないのかな?


ウ:なれないね


シュ:……っ


ウ:僕たちと獣人の間には埋まらない溝がある。いや、そもそも生きている世界が違うんだよ。それを知れ、弟


シュ:うっ……ぐっ、うっ……


コ:ボクは……そう、思わない


ウ:なんだ、まだくたばってなかったのか


コ:ウオ、お前の言うことはわかる。人間と獣人はまったく異なる存在だ。一緒に仲良くしていくのは難しいかもしれない


ウ:さすが人間。お前はわかるんだな


コ:けど……難しいだけで、いつかは仲良くできる日がくる! ボクとアイスちゃんが仲良くなれたように。ボクとミミさん、そしてシュリンくんが笑顔で過ごせたように‼


ウ:……やっぱりお前はくたばっておくべきだな


コ:くたばるわけにはいかない。お前をぶん殴って、お堅い頭を矯正してやるまでは‼


 ブワァッ‼


 身体の芯から湧き上がる力

 それは奇跡ではなく

 彼の軌跡から来るものだった


コ:……ぐっ、頭が痛いッ⁉


ウ:『ランクアップ』……? いや、そもそもお前は『冒険者』でもなんでもないはず


コ:があああ……ッ‼


 不鮮明な映像が頭の中を流れる

 蘇りつつある記憶はいばらのごとく脳を傷つけた

 が、それにともなって


 ――――カチっ


 力が解放される


ウ:なんだ、今の感覚は――――


コ:――――ッ!


ウ:なっ、いつの間に後ろに回り込みやがっ……ぐぼあ⁉


コ:はあっ、はあっ……


シュ:おにいちゃんの攻撃が当たった……っ!


ウ:げほげほっ! なぜだ、おかしい! 僕が見切れないことなんてありえないはずなのに‼


 ――――カチっ


コ:ボクだってこの力がなんなのかわからないよ


ウ:ッ⁉ また背後に――――がはあっ!


コ:だけど、この力で君を倒せるなら……上等だ。使いこなしてみせるさ


ウ:ふざけやがってえ‼ 『ニンジャ』である僕が速さで負けるはずないんだ‼


 ――――シュバッ


 ――――カチっ


ウ:なんで、僕の後ろにいやがんだよ……ッ


コ:ボクが知るわけないだろう


ウ:うおおおおおおおッ‼


 バババババッ

 バババババッ!


シュ:え、えっ! おにいさんが見えなくなっちゃった!


ウ:これが僕の全力だァっ! この速さについてこれるならついてこ――――


 ――――カチっ


コ:止まって見える


 バギイイッ‼


 無様なまでに転がるウオ

 現実を受け入れきれない。瞳孔が見開いている


ウ:なんでだあ、どうしてなんだよォ……ッ‼ この僕にかなうやつなんていないのにィ……っ‼


コ:それが君の全力なら……底は見えた


ウ:テメエだけはぜってええ許さねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼


 シュババババババババッ


 影分身が十……いや、二十以上にまで増える

 ウオの能力もここにきて開花したようだ


ウ:あははははははははは‼ どうだ、この数の差はよお‼ テメエの速さが僕より上だとしても、これじゃあ手も足も出ねえなあ……ッ‼


コ:…………


シュ:おにいちゃん、逃げて‼


ウ:怖くて手も足も出ねえらしい。あははは、愉快なこった‼ それじゃあこれからたのしいたのしい処刑の時間といきま――――


コ:――っ。逃げろ、ウオ‼


ウ:あ? なに言ってんだテメエ。逃げるのはテメエのほう


 ジュグリっ


ウ:…………は?


 右腕がない

 ウオの肩から先がなくなっている


ウ:なんだ、これ? どういうこ――――


 ジュグリッ

 ジュグリッ


ウ:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ⁉


 左腕がなくなる

 もちろん、コクメのせいでも、ましてやシュリンがやったわけではない

 彼の味方――――であったはずの男たちが獣の姿になり果ててウオを襲ったのだ


ウ:な、なんでどうしてお前たちが僕を……ッ⁉


獣A:……うううう。腹ガヘッタ


ウ:まさか……お前ら、獣人に感染していたのか……ッ


 ウオの推測通り

 村人たちは氷輝を受け取るために獣人の村へと何度となく足を運んでいた

 そう、感染していないほうがおかしい

 その結果がこれだ

 皮肉な結末だった


コ:やめろ! 君たちは仲間なんじゃないのか⁉


獣B:ウマ


獣C:……ハラガヘッタ。コイツ、ウマイ


ウ:うぐううう……ううっ……


 コクメが制止しても止まらない

 もはや手遅れだった


ウ:……んで、僕、が、くわれてるんだ、よ……。おかしいだ。ろ。


獣D:アハハ、アシウマイ


ウ:ぼくをひつようとしてくれたのは、あなたたち、だけ……だった、の、に。どんなおもい、で、……ろしたとおもってんだ、ょ……


獣E:ボウケンシャ、ウマイイイイイイイイイイイ


ウ:…………あい、つに、……あわせ、る…………かおが…………な…………


 ムシャムシャッ

 ボリボリッ


 そこにあるのは貪食のみ

 命はない


獣B:マダ、タリナイ


獣C:オマエ、ウマソウ


コ:……せめてさ、名前で呼んであげてよ


獣A:オマエ、ダレ?


コ:ボクのことじゃない! ウオの名前を呼んでやれって言ってるんだ‼ あいつは『冒険者』って名前じゃないんだぞ‼


獣D:ウマソオオオオオオオッ


コ:クソッ!


 ――――カチっ


獣E:エ?


コ:うおおおああ‼


獣E:ぶおえッ!


 ――――カチっ


コ:はあああああああああッ‼


 バギイッ!


獣A:う、ううっ……


コ:はあっ、はあっ……


 だんだんとこの能力の正体がわかってきた

 感覚が戻りつつあるのだろう

 問題は体力だ

 このままだと、たぶん、もたない


コ:……それに、この人たちを殺すわけにもいかない。いったいどうしたら……


シュ:だいじょうぶ、おにいちゃん?


コ:ありがとう、シュリンくんっ


獣D:うう……あああっ


コ:シュリンくん、危ないから後ろに下がってて


シュ:でも……っ!


コ:いいから早く‼


 ウオオオオオオオオオオオオオオ‼


 八方からの同時攻撃

 ウオのクナイを回避したときのように能力を使えばよかったのだろう

 しかし、体力の消費が判断を鈍らせた

 後ろにはシュリンがいる


コ:(やばっ)


 気づいたときには、もう遅い

 コクメたちが八つ裂きにされる

 直前のこと



産声聴ララバイきし青空ララ



 雷より激しく、月明かりのように優しい光が辺り一面を覆った


コ:これって……魔法陣?


獣A:あああああ……


 獣人の様子がおかしい

 苦しんだかと思ったら、気持ちよく寝息を立て始める


コ:いったい……なにがどうなって……


イ:間に合ってよかったっ


コ ……イッちゃん?


 コクメの目に映るのは――――いつもと変わりないハイネの姿だった


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