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ステージ3(E)

 真夜中の森林に月明かりが差し込むおかげで迷うことはなかった

 獣人の体液で濡れた地面を辿る


イ:はあっ、はあっ……


コ:大丈夫、イっちゃんっ?


イ:これくらい平気。弱音を吐いてる暇はないから


コ:わかった……それじゃあ、このまま行くよっ!


イ:悲しんでいたり困っている人がいたら救いの手を伸べる。それは、もうお友達の人でも有効だよねっ、ミツキちゃんっ!


レ:……ちょっ、オレはもう限界なんですけどっ……


 闇夜を駆け続ける

 先はまだ見えない

 見えなくたって、止まらない

 止められるわけない


 光が視界いっぱいに広がる



イ:――――そんな……っ



 光ではなく、絶望であった

 二体の獣人が殺し合っていた


 コクメたちの知らないクラゲの獣人

 カツオノエボシの獣人と同様に半透明な身体である一方で、それ以外の特徴が見当たらない。強いてあげるとするなら、おわん型の頭部のふちがこげ茶色であることのみ

 キタミズクラゲの獣人だった


 なぜ、追っていたカツオノエボシ以外の獣人がそこにいるのか

 なぜ、ゼラさんの姿が見えないのか


 三人は、理解・・してしまった


コ:こんなのってないよ……ッ。子供と実の親で殺し合うなんて、こんな絶望があっていいわけがないッ‼


レ:……ゼラさんも獣人に感染してたってことだよな。あり得なくはないのか


コ:可能性があっても、現実にあっちゃ絶対にダメだッ


レ:だが、これが現実だぜ……


カ:キイイイイイイイイッッ


キ:ブククククっ


 カツオノエボシの伸ばした触手はキタミズクラゲに命中せず、地面に突き刺さる。と、炎柱が穴の中から噴き出した


レ:ミツキは触手の先から火炎を放出してゼラさんを焼き殺そうとして――――


 キタミズクラゲの頭部の傘の先から小さな触手の矢が発射される。カツオノエボシがそれを片腕こらえるが、刺さった矢先から徐々に氷の膜が広がっていく

 カツオノエボシは躊躇なく自身の腕を切り落とした

 再生能力があるのか、数秒もせず新たな腕が生える


レ:ゼラさんはミツキを凍死させようとする。これが現実ってやつだ


コ:よく平気でそんなことが言えるね。あれだけ優しかった二人が互いに殺し合ってるのにさ!


レ:オレに止められるだけの力があれば、こんな悔しい思いはしてねえよ


コ:……っ。悪い


レ:たとえどちらかが勝者となったとしても、残るのは身内を殺したというだけの罪の意識。ミツキに至ってはすでに親友を手にかけている


コ:それってもう……生き地獄も同然だよ


レ:そうだな。死んだほうがよっぽど楽だと思う


イ:それは違うよっ


 ハイネは力強く否定した

 二人を正面から見据える


イ:死んだほうが楽だなんて、そんなこと絶対にない


レ:いや、ハイネ……言葉ではいうが


イ:たしかに二人を助けられたとしても、きっと楽しいばかりの人生じゃないと思う。罪の意識に苛まれて眠れない夜だってある。生きているのがつらいと思うこともある。でも――――生きていれば、必ず報われる日が来るから


レ:報われる日が、来る


イ:つらいけれど、生きてきてよかったと思える日がどこかで待ってる。それは遠い遠い未来かもしれない。けど、その日はたしかにあるはずだから


コ:イっちゃん……


イ:信じて待つの。今わたしたちにできることはその日を信じて、二人を助けること


レ:……


コ:……


イ:だから、わたしたちで救おう。二人の命を


 ハイネの想いに、二人は唇を固く締め、頷いた


レ:さて、そうと決まれば


コ:やってやりますか!


 三人、それぞれの隣に並び立つ

 泣き叫ぶ親子を救い出すために


レ:んで、ここからはほとんどコクメの独壇場なわけだけど


コ:少しは筋トレでもして役立ってもらってもいいっすか。筋肉があれば何かはできるでしょうに


レ:オレ、そういうむさ苦しいタイプ目指してないから


コ:お前なあ……ッ


イ:二体の獣人を同時に相手取れば全滅しかねない。一体ずつ注射器を刺してもとに戻すのがざっくりとした方針かな


レ:ざっと見た限りミツキのほうが獣人としての力が強そうだな。ゼラさんはまだ力を出し切っていないっていうか


コ:なら、先に抑えるべきなのはミツキちゃんだね


イ:うんっ。ゼラさんはレンゲくんが囮になってくれたらなんとかなりそうだしっ


レ:さらっと大切な命を雑に扱ってませんか?


コ:問題は、どうやって二体の獣人をバラバラにして注射器を打ち込むかだね


レ:それなら、オレに任せてくれ。ビビビっと来てる作戦があるからさ


 三人、顔を寄せ合って耳打ちをする


コ:――――ほんと、こういうときは頼りになる男だね


レ:二体の獣人の特徴とハイネの影の薄さを利用した、まさに最適・・な作戦だろ


イ:影薄いんだ、わたしっ……あはは……


コ:ちょっ、なんてこと言うのレンゲっ! イっちゃんには他の誰にもない片翼があるというのに……っ!


レ:普段はしまってるから、今言われるまで忘れてたわオレ


イ:あは、大丈夫、わたしは影薄いって自覚あるから。大丈夫、あは


コ:気にしないでイっちゃん! イっちゃんの影が薄かろうとも、この作戦はイっちゃんがいて成立するもんだから!


レ:フォローになってないけどな


コ:と、とにかく。――――いくよ、二人とも


イ:うん


レ:おう


 目つきがまるで別人のように変わる

 飛び出したのはコクメだった

 持ち前の身体能力を発揮し、俊敏に二体の獣人の間に潜り込む


コ:こんばんは、素敵な獣人さんたち


獣:……ッ⁉


 獣人たちの意識の隙間を縫い、それぞれに蹴りを浴びせる


 ドッドッドシャアッ!


レ:それで、キタミズクラゲさんの相手はオレね?


キ:ブククククっ


レ:おわっ⁉ やっぱり無視してそっちに行くよね……ッ! コクメッ‼


コ:了解っ! おっと……っ


 左右から迫りくるそれぞれの触手を軽やかな動きで回避する

 と、カツオノエボシの触手の先がコクメに向き、


 むりゅうっ


コ:ぎゃああっ⁉ 先っぽが剥けたああああッ!


レ:コクメのコクメは剥けてないから耐性ないんだな


コ:うっさいバッキバキに剥けとるわ!


イ:その話はあとでじっくり聞かせてもらうとして、気を付けてコーくんっ!


コ:き、か、な、い……でっ!


 コクメは触手の手首にあたる部分をつかみ、先を地面に向ける


 ゴオオオオオオオオオッ‼


 ハイネの忠告通り、開いた触手の先から豪火が放たれた

 熱された小石がパチパチと跳ねている


コ:消防士さんってこんな気持ちなんだねっ


レ:燃やしてるけどなっ!


コ:さあ、ミツキちゃんはどこまで火炎放射を続けられるかな? って地面あちいっ⁉


レ:あほかお前は。次来るぞ!


コ:……っ。どんとこいッ


キ:ブククククッ!


 キタミズクラゲは先ほどと同様に傘から複数の矢を発射した

 コクメはそれを自慢の剣ではじく


レ:おいコクメ、オレに向かって打ち返すなっ! もし当たってたらあの木みたいにパキパキに凍るところだっただろうが!


コ:服はビリビリに破けとるがな


レ:これはデフォルトだからええねん


コ:さよでっか


イ:コーくん、そろそろ大丈夫・・・だと思う!


コ:りょーかいっ!


カ:ガガッ⁉


 触手をつかんだまま、遠心力を最大級に利用し、ぶん回す


コ:ちょっぴり刺激的だけど、高い高いだよミツキちゃんっ


 ブンッ


 月にまで届けとばかりに、カツオノエボシを空高く飛ばした

 が、そう一方的にやられるわけもなく、


カ:――――キッ


コ:触手三本態勢ッ⁉ それはまずいでしょッ‼


レ:こっちもやべえのくるぞ、コクメっ!


コ:傘を広げて撃つ気まんまんやッ⁉


 カツオノエボシは三本もの触手を向けて最大火力の構えを

 キタミズクラゲはまさに傘のように頭部を広げ、小手先でははじききれない矢を放つ準備を整える

 合図はなかった


カ:キイイイイイッ‼


キ:ブクウウウウウウウッ‼


 炎の津波

 氷の豪雨


 二対の災害がコクメを喰らった


あまりにも静かな決着だった

地鳴りなどとはまた違うエネルギーの暴力

矢により凍り漬けの大地は莫大な熱により融解という段階をすっ飛ばし、一気に蒸気へと変貌を遂げた

 白い空間が爆発的に広がる


カ:…………っ


 地へと降り立ったカツオノエボシの獣人はどこか満足げだった

 コレデマタ一人、イノチをウバエタ


 生の上に立つことで感じられる、優越感


 ――――これがぼくのしたかったこと?


 空白が生まれた

 真っ黒な紙に白い絵の具で一筋の直線を走らせたかのような、小さな異物

 獣人に支配されていた精神に、ここにきて初めて変化が生まれた


 思考していない

 自我もない

 

 ソレが何かはっきりしていないのに――――涙がこぼれる


 目頭が熱く、胸が苦しい


 奪うのではなく、与える

 手を差し伸べるのは命を奪うのではなく、希望を与えるため

 誰かを救いたい


 ソレとは、つまりそういうことではなかったか?


 だめだ、だめだ。

 それ以上思考してはいけない。

 奪ってしまった。

 もう後戻りはできない。

 戻ったところで。

 そこに大切な人はいない。


 だって――――ぼくが奪ったのだから。


カ:キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ‼‼‼


 叫んだところで何も変わらないのに。

 止まらない。

 止まりたくない。


 ぼくは、もう――――っ


 光。


 光があった。

 真っ暗闇な世界に光があった。

 虹色に輝く、何か。


 あれは、あれは――――、ぼくの大切な。


カ:ウ、バワ……ナキャ


 誰かにとられる前に。

 光が消える前に。


 ぼくが――――奪わなくちゃ。


カ:キイイイイイイイイッ――――


 走る、走る。

 そこに希望があると知って。

 獣人は一直線に駆け抜けた。


コ:――――ごめん、ミツキちゃん。君の友達はもうここにはいない


 違った。

 虹色の輝きを放つかを思っていたのは、獣人が思っていた人物ではなかった。

 望んでいた人ではなかった。

 やはり、希望などなかったのだ。


コ:君の友達はいない――――けど



イ:わたしたちがここにいるからっ



 ぷすっ


 間の抜けた音だった。

 強張っていた全身から力が漏れていく。

 ああ、……ぼくはまだ生きていてもいいのか。

 ぼくのそんざいを、つみを……うけいれてくれるひとがいるんだ。

 目の前がぼやけはじめる。


コ:――――ミツキちゃんをよろしくね、イっちゃん


イ:――――うんっ。任せて


コ:――――ミツキちゃんも待っててね。君のそばにいてくれる人をもう一人、連れて帰ってくるから


 そこから先、ミツキの記憶は途切れている



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