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感情を知らない王女は、ヤンデレ魔導師に囲われる ――共依存の果てのしあわせ  作者: ゆにみ


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3、小さな依存の芽

 ”あの日”から、夜、ちゃんと眠れなくなった。

 いや、違う。

 ルークがそばにいないと、目を閉じていても、体が落ち着かない。


 暗闇の中で、ほんの小さな物音にも反応してしまう。


 「……ルーク?」


 かすかに目を開けると、ベッドの横でルークが起き上がっていた。


 その姿を見た瞬間、胸の奥がざわりと揺れる。


 気づけば、私は彼の寝巻きの裾をぎゅっと掴んでいた。


 布越しに伝わる存在に、少しだけ呼吸が楽になる。


 「......リシェル、水を飲みに行くだけだ」


 その言葉を聞いて、体の奥のざわつきが、ゆっくりと静まっていく。

 けれど胸の奥には、まだ小さな“何か”が引っかかったまま。

 ルークが、またどこかに行ってしまうんじゃないか――そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 

 「......私も、一緒に行く」


 一瞬、空気がぴたりと止まった。

 ルークの喉が、ごくりと鳴るのが聞こえる。


 「……わかった。おいで」


 差し出された手。けれど、私はその手を取れずに、ぽつりと呟いた。


 「......抱っこして」


 一瞬の沈黙。


 それから、かすかな息を呑む音。


 その反応に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


 (ちゃんと、私のこと見てる)


 そう思えて、少しだけ安心する。


 「......わかった」


 そっと私を抱き上げるルークの腕に、全身の力を預けた。

 背中に手を回し、寝巻きの布をぎゅっと握る。

 その感触が、まるで「ここにいるよ」と囁かれているみたいで、あたたかさで胸がいっぱいになる。


 (ルークは、ここにいる......)


 揺れる身体に顔を押し付けると、体の中でざわざわしていたものが、少しずつ溶けていく。

 夜の静けさの中、二人だけの時間。

 このぬくもりは、絶対に手放したくない――


 ずっと、ずっと一緒だから。




 ***




 ルークと暮らすようになって、わかったことがある。


 ご飯は勝手に出てくるものじゃない。


 “お金”がないと、食べられない。


 そして、そのお金を手に入れるには、“仕事”をしなければいけない。


 私はまだ働けない。

 私も働けたら、ルークとずっと一緒にいられるのに……。


 その朝、ルークはいつもより少し早く起きて、支度を始めていた。

 きっと仕事があるのだろう。でも、もしかしたら違うかもしれない――そんな淡い期待を抱いて、声をかける。


 「ルーク……今日もお仕事なの?」


 「……ああ」

 

 やっぱり。視線が自然と下を向く。

 ”さみしい”という言葉が喉元まで来たけれど、飲み込んだ。


 「働かないとご飯が食べられないんだもんね。私、ご飯は勝手に運ばれてくるものだと思ってたから……」


 言葉を選びながら、ゆっくり伝える。


 (ルークを、困らせちゃいけない......)


 少し息を整えて、お見送りの言葉を口にした。


 「がんばってね。......さみしいけど、待ってるよ」


 不器用に言葉をつなぐと、ルークの瞳がかすかに揺れた。

 彼は何かを言いかけて、結局、飲み込むようにして私を抱き寄せる。


 「ああ、待っててくれ」


 (......大丈夫、ルークは帰ってくる)


 自分にそう言い聞かせながら、ルークの裾をぎゅっと握った。


 「......いってらっしゃい」


 ルークは優しく微笑んで、私の頭をぽんぽんと撫でた。

 そして、扉の向こうへと歩いていく。


 ――ガチャリ。


 閉まる扉の音が、やけに大きく響いた。

 その瞬間、部屋の中の空気が静まり返る。


 いつもなら、すぐにルークの声が聞こえるのに――今日は、それがない。


 (......さみしい)


 胸の奥に、小さな穴がぽっかりと空いたようだった。

 気を紛らわせようと、本棚に向かう。久しぶりに本でも読もうと手に取るけれど、文字がまるで頭に入ってこない。


 おかしいな。王宮にいた頃は、毎日これが当たり前だったのに。


 ふと、窓の外に目を向けた。

 一羽の蝶が、ふわふわと舞っている。

 光を受けて羽がきらりと揺れ、まるで小さな宝石が空を漂っているみたいだった。

 やがて蝶は、庭に咲く一輪の花にとまり、羽をゆっくりと閉じる。


 (......きれい)


 息をするのも忘れるほど、見入ってしまう。

 もっと、見ていたい――こんな感覚、初めてだった。


 ルークと出会う前の私は、ただ起きて、本を読み、食事をして、また眠るだけ。

 それが当たり前で、普通だった。

 

 心が動くことなんて、一度もなかった。


 でも、今は違う。

 ルークと過ごすうちに、私はたくさんの“初めて”を知った。

 嬉しい、楽しい、寂しい、あたたかい――こんなにもたくさんの気持ちを、教えてもらった。

 だから、蝶と花を見ただけで、胸がふわりと踊るのだ。


 (……私、変わったんだ)


 その事実が、心の奥をじんわりとあたためる。


 今、外にいるルークは、きっと私の知らない景色を見て、いろんな感情を抱いているのだろう。

 私も、もっと知らない世界を知っていけたら――

 ルークと同じ景色を、隣で見られるのかもしれない。


 (そうしたら……ずっと、ルークと一緒にいられるかも)


 蝶が花にとまったまま、陽の光を受けて羽を震わせる。

 その姿が、まるで未来を指し示すようだった。

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