第十一回
三条邸を訪れた時には既に日が落ちていた。麻太智はかなり夜目が利く方だが、清乃はそうもいかない。麻太智が龕灯で足元を照らし、清乃は麻太智の衣の端をそっと摘んでしずしずと付いてくる。
「疲れたのではないか?」
門の前で麻太智が振り向いた。宮仕えの采女が、自分の足で外を出歩く機会がそうそうあるとも思えない。
被衣で面を隠した清乃はふるふると首を振る。
「この程度でめげているようでは、晴花様の側仕えなど務まりませんもの」
「はは、確かにな」
麻太智は小さく笑うと、改めて通用門に向き直り、扉を叩いた。
今回もそれなりに待たされたのち、昼間見たのと同じ門番は、麻太智を認め些か不審そうにはしたものの「暫しお待ちを」と取り次ぎに戻っていった。
麻太智は大人しくその場に佇む。清乃は一歩下がった位置に控えている。
やがて慌ただしく走ってくる音が近付き、扉が開いた。と同時に小袖姿の女が足をつまづかせ、麻太智の胸に倒れ込む。
「荒城ど、ひゃっ!?」
邸の使い女かと一瞬思いきや、顔を見れば三条顕光である。珍しい格好をしているものだと軽く驚く。
「も、申し訳ありません。また荒城殿が訪れたと聞いて、つい居ても立ってもいられず」
「こちらこそ度々申し訳ない。怪我はありませんか」
「はい。おかげさまで、なんとも」
顕光は麻太智の着物の袂に指を添えた。もの問いたげに見上げ、ゆっくりと唇を開く。
「荒城殿……私はあなたのことを、お、お……?」
顕光はびくりと身を竦めて横を見た。いつの間にか場所を移した清乃が、麻太智のすぐ傍らに寄り添っている。
「その……こちらは荒城殿の下女でしょうか?」




