第十二回
顕光が自信なさげに尋ねる。麻太智が答えようとする矢先、清乃は被衣を取り去って顔をさらした。
「いいえ。私は御君にお仕えするものです」
暗がりに目が慣れ、顕光は相手が朝議の際に蒼の君の名代として座を司る采女だと気付いたらしい。公卿でこそないが、君の信任厚いと目される人物である。あだやおろそかには扱えない。顕光はそそくさと麻太智から離れ、会釈をした。
「これは、大変失礼致しました。三条顕成が嫡子、顕光と申します。それでこたびは一体どのようなご用向きでありましょうか」
「御君の思し召しです」
清乃は愛想のない答えを返す。というか実質答えていない。顕光は萎縮した様子で麻太智を見る。もしや、昼間に顕成が口にした「蒼の君をも手中に収め」云々を、逆心の証として咎められるのかと懸念したのかもしれない。
麻太智は落ち着いた調子で告げる。
「邸に上げてもらってもよろしいか? 顕成様の病ですが、あるいは解明の手掛かりが得られるやもしれません」
「も、もちろんでございます、どうぞ」
顕光は二人を門内に差し招き、背を向けて先に立った。その後ろを歩きながら麻太智は隣を窺った。清乃は肩をすぼめ、小さくため息など洩らしている。おそらく顕光とのやり取りを悔いているのだろう。清乃には珍しく尖った態度だったが、もう心配することもなさそうだ。
座敷に通され向かい合ったのちも、顕光は頻りと清乃を気にしていた。だが清乃はあくまで慎ましく控えている。やがて顕光も切り替えることにしたらしく、麻太智の方を相手に定めた。
「荒城殿、父の病に見込みがあるとのお話でしたが」
「今はまだそこまで確かではありません。そこでお尋ねするが、顕成様は最近変わった物を召し上がられたことはないだろうか」
顕光は少しく考えてから、記憶をたどるように口を開いた。
「変わった、というほどではありませんが」




