第十三回
顕光には心当りがあるようだった。だが話し出そうとする前に、懸念の色を浮かべる。
「その……まさか荒城殿は何か良からぬ疑いを持っておいでなのでしょうか。例えば父に害意を抱いた者がいるといったような?」
その挙句に毒を盛られた。実の娘としてはおよそ考えたくもないことだろう。
しかしおためごかしの慰めなど今は無用である。
「憶測はあとにしましょう。まずは事実の確認をしたい」
麻太智が先を促す。黙っていても埒は明かないと、顕光も観念したようだった。
「柑子の実、です。とても見事な品が手に入ったからと、見舞いに持ってきてくださった方がありまして……思えば、それを食べた直後でした。父が最初に荒城殿のことを、私の、む、婿だと言い出したのは。よほど美味であったのか、らしくもない戯れをなさるものだとその時は少し気になった程度だったのですが」
「それで、その実を持ってきたのは誰なのです」
顕光はなおも気が進まない様子だったが、名前を明かした。
「純友様が」
「ほう、それは」
意外とするべきだろうか。それとも納得すればいいのか。麻太智はすぐに判断がつかない。
中納言、直江純友は三条顕成の古くからの友人である。そして婿云々の妄言を麻太智に伝え、さらには他者にまで吹聴した当人でもある。
それが悪意や陰謀によるものである可能性は、果たしてどの程度のものか。
「内侍殿はいかが思われる」
「今のお話だけでは、わたくしには分りかねます」
清乃はそっと首を振ってから、顕光に尋ねた。
「その実はまだ残っているのでしょうか? もし調べることができれば、あるいは手掛かりが得られるやもしれません」
「おそらくはまだあったかと思います。確かめて参りましょう」
顕光は逸るように座を立った。
「──お待たせいたしました。これがそうです」
やがて顕光が持って戻った器に盛られた実は、確かに見事なものであった。
油皿の上で揺れる火明かりを受けて、こんもりと山形に積まれた柑子が艶々と照り輝いている。
「こうして見る限り特に悪いところはなさそうだが」
麻太智は試みに一個を取り上げて子細に観察してみた。腐っている実がないのはもちろん、小さな傷や虫食い一つ見当たらない。
「もっとも顕成様が食した物そのものではないからな。明らかな証とはいえんか」
さすがにそれを直接調べるのは不可能だ。果実は顕成の胃の腑の底に消えているし、皮は既に捨てられてしまっている。
「しかし、これらもわたくしには不吉な感じがいたします」
清乃は覚束なげな顔つきだった。
魂移しにより蒼の君の霊力の一端を分け与えられたとはいえ、自在に霊視を利かすというわけにはいかないらしい。
「少なくともわたくしは食べようという気にはとても、あっ!?」
「どうした清、内侍殿?」
「……ひどく寒気がいたしました。氷に触れた時のようにただ冷たいのとも違う。まるで深い穴に体の熱を吸い取られるような、厭な心地でした」
清乃は毒蛇に牙を突き立てられたかのごとく身を竦めている。落とした実に再び手を伸ばそうともしない。
「荒城殿、結局父の身には何が起こったのです。私はどうすればいいのですか!」
顕光がすがるような目を向ける。麻太智は重い気持ちで結論を下した。
「どうやら今の顕成様に必要なのは薬ではないようだ。内侍殿、“祓え”を頼む」




