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第十六話 : 不穏な船旅

出港から数時間後。


見渡す限りの海と空。

それ以外は何も見当たらなくなっていた。


「イルカ!イルカいたぞイルカ!乗りてーな!?飼いてーな!?」

「ちょっと、アーサー!身を乗り出しちゃダメだって!!」


予想通り、アーサーは目的そっちのけで船旅を楽しんでいた。

先ほどからイルカだのマグロだのサメだのと言い出しては、海にダイブしようとしており、ユーリンは大変手を焼いていた。


「おい!水深10.85mのところにでっかいヒトデがいるぞ!とぉっ!」

「飛び込むな!!てか、そんな深くまで肉眼で見えるワケないでしょう!!」

「アーサーさん、すごいですね。ここは巨大ヒトデの住む海域なんですよ。」

「...え?本当に見えてるの?」

「もう少し行くと...あ、ほら。イルカの大群です!」

「わー!ほんとだすごーい!!」


トーマが指差した方へ目を向けると、イルカの大群が飛び跳ねているのが見えた。


水しぶきの音が聞こえてくる。


初めて見る幻想的な光景にアーサーとユーリンは興奮しきっていた。


「わぁ!すごい!ステキ!!

シャロンも見ーーーーーーーー」


シャロンの方を振り返ったが、彼女の様子を見てユーリンは慌てて口を塞いだ。


シャロンは何をしているわけでもなく、虚ろな目でただ海を眺めていた。


ーーーまるで、ここにはいない誰かを想うように。


「...シャロン...やっぱりまだ...」

「おっ...俺、励ましたのに全然元気になってない...!!!」


シャロンの憂いを帯びた横顔を見ながらヒソヒソとアーサーとユーリンは話し始める。


「そりゃあ、簡単には立ち直れないわよ...」

「え?俺はユーリンが励ましてくれたらすぐに元気になったのに!!

励ましが足りなかったのか?励ましワンチャン??ワンチャン??」

「やめぃ!!」

「ぐがっ!!!」


シャロンの所に駆け寄ろうとしたアーサーの首根っこをユーリンは掴んで引き戻す。


「...何でだよぉ」

「シャロンはアーサーほど単純じゃないの!...多分よほどツライ別れ方をしたんじゃないかしら...」

「...そうか...でも、あのままじゃ」


「みなさーん!そろそろご飯にしましょう!僕の得意な貝料理をごちそうしますよ!!」

「えっ!?すげぇ!俺、キャビア食べたぁぁぁぁい!!」

「キャビアは貝じゃないけどね。

ーーーシャロン?」


ユーリンが後ろから声をかけると、シャロンが驚いたようにこちらを振り返った。


「えっ?あ...なに?ユーリン?」

「いや。今からご飯みたいだから中に戻りましょう?あんまり風に当たりすぎるのもよくないわよ。」

「あ、うん、そうだね。戻ろうか...」


四人は甲板を後にし、室内へと移動した。


トーマの作った貝料理は盛り付けも美しく味も絶品で三人は海の幸を堪能し、楽しい食卓を囲んだ。







キラキラと眩しい日中の船旅とは打って変わって、

甲板に出ると、光は空に輝く月と星だけでひどく寂しい雰囲気が漂う。


そんな中、シャロンは一人、甲板で夜空を眺めていた。昼間と変わらない虚ろな目で。


「ーーー眠れないんですか?」

「っ!?」


突然背後から声をかけられた。

シャロンは驚いて振り返る。

立っていたのは、トーマだった。


「...お身体冷えますよ?」

「あ...うん...でももう戻るから...」

「船上での睡眠不足は本当に身体に良くないですから。気を付けてくださいね。」

「うん。ありがとうトーマ君」


もぅ戻ると言いながらも、シャロンは無意識のうちに再び空を見上げていた。


「...シャロンさん。」

「ん?」

「何かあったんですか?」

「...えっ...」


何か、と問われて急激にクラウドとのあの別れが鮮明に蘇ってきた。


あの時感じた強烈に悲しい気持ちが再び湧き上がってしまい、シャロンは何も言葉を返せずにいた。


「シャロンさん?大丈夫ですか?」

「...魔王を倒すんだから、本当に、色々あった、よ」


胸を抑えながら、シャロンは必死に言葉を繋げる。


「でも、私も、勇者だから..」


こんな小さな船乗りに泣き言を言う訳にはいかない。


「じゃあ、戻るね。おやすみなさい...」

「はい。おやすみなさい...」


それでも湧き上がった悲しみは抑えられないまま、シャロンは俯いたまま、逃げるように室内へと戻っていた。


甲板に残されたトーマは、星空を背にして一人不敵な笑みを浮かべていたのだった。
























魔界の船旅、二日目。


「おおぅ!?また何か釣れたぞ!?」


トーマに釣りを教わり、楽しさを覚えたアーサーはすっかり釣りの虜になっていた。


「ひゃほほーい!トーマ見てみろ!マグロ釣ったぞ、マーグーロー!!」

「それはどっからどう見てもアジですが、すごいですねアーサーさん。短時間でこんなに上達するなんて...」

「はっはっはっ!俺は海の男だからな!

よしっ!じゃあもぅ一回マグロ釣っちゃうぞ!」


アーサーは得意げに竿を振り回し、再び海に釣り糸を投げ入れようとした。

ーーーが、


「あーーー!!!!!

釣竿ごと投げてしまったあああああ!!」

「何してんのよこのアホがーー!!」


ユーリンに叱咤されている間に、釣竿はぶくぶくとあっという間に海中に沈んで行ってしまった。


「ごめんなぁ、トーマ」

「いえいえ。まだ予備の釣竿がありま」

「俺、取ってくるわ!」

「はい?」


言うやいなや、アーサーは船から飛び降りて派手な着水音を立てながら大海原へと身を投げ出していた。すでに海中へと潜っていったのか、海面は再び何事もなかったかのように穏やかに揺らめいている。


「た、大変だ!助けないと」

「大丈夫大丈夫。そのうち帰ってくるから」

「いや、こんな深い海ですよ!?戻ってこれたら人間業じゃないですよ!」

「アーサーは人間の常識が通じないから大丈夫よ。心配しないで、トーマ君。」

「ユーリンさんがそこまで言うなら大丈夫...なのか?」

「平気だって!ねえ、シャロン?

ーーーーシャロン!?」


シャロンは真っ青な顔で、甲板の手すりにしがみつくような体勢で座り込んでいた。


ユーリンとトーマが慌てて駆け寄り、声をかけるとシャロンは顔を引きつらせたまま話し出した。


「シャロン!顔色悪いよ?」

「大丈夫...」

「全然大丈夫じゃないでしょ!?」

「ただの船酔いだから...」

「少し横になりますか?簡易医務室がありますので、そこのベッドを使ってください。案内しますから。」

「いいわ。その場所知ってるから私が連れて行く!」


ユーリンはシャロンを抱えようとしたトーマを制止し、ダランと力の入らない様子のシャロンをおぶった。


「そうですか...じゃあ、お願いします。」

「行きましょう、シャロン...」


ユーリンはおぶったシャロンを気遣いながらか、ゆっくりと医務室へと向かっていった。


「...」


後ろから鋭い視線を向けられている事に気付かないまま、彼女達は甲板を後にした。


「うおおおおおおおおお!!!

獲ったりいいいいいいいいい!!」

「ぎゃーー!!!???」



突然、船のすぐ横で大量の水しぶきが上がったかと思うと、海面から飛び出してきた物体は猛烈に周辺を濡らしながら甲板へと華麗に着地した。


もちろん、その物体の正体は


「アーサーさん...本当に帰ってきた...」

「見てみろ!トーマ!マグロだ!!」

「釣竿は!?あとそれは鮭です!」

「ええ...マグロ食いたいんだけど...」

「冷凍してあるマグロがあるのでそれを今日はお出ししますから!夕飯までにこの水浸しにした甲板を掃除してください!!」


自分の持ち船を汚されたことに流石にトーマも怒っているようで、アーサーにモップとバケツを叩きつけていた。


「え〜」と文句を垂れているアーサーを無視して、トーマはさっさと室内に去っていった。







コンコンと扉が叩かれる音がした。


「はい?」

「シャロンさんの具合はどうですか?」


ユーリンの返事を聞いて開かれた扉からそろりとトーマの顔が覗く。


「酔い止めの薬を持ってきたんですけど...」

「ありがとう!今シャロン寝てるからそこに置いといてくれる?起きたら飲んでもらうから。」



トーマはちらりとシャロンの方に目をやると、今は顔色もマシになって、スースーと寝息を立てていた。


「そうですか。じゃあ水と薬だけお渡ししときますので。ユーリンさん、夕食の準備も出来てますが、どうします?」

「あ。シャロンが起きたらそっちに行くから。アーサーと先に食べといてもらえる?」

「分かりました。では。」


起こしたら悪いからと、トーマはそれ以上部屋に入ることはなく、ユーリンに水と薬を載せたお盆を手渡すとゆっくりとドアを閉めてその部屋を後にした。


「トーマー!!!マグロさばいたぞ!すごくね?俺すごくね?この芸術が!崩れる前に!早くきて!カモン!!!」

「はいはい、今行きますよ...」


能天気な年上勇者のはしゃぎ声にため息が漏れた。しかし、この声が聞けるのも今だけかもしれない。そう思うともう少しだけ、楽しい時間を共有しようと思えたのだった。







今夜の夕食も新鮮な海鮮料理がズラリと並んでいた。


昨日までは全てトーマのお手製だったが、今回はアーサーも腕によりをかけて調理に挑んでいた。


ユーリンはシャロンに付き添っているのか未だに来ないため、夕食はアーサーとトーマの二人で始まった。


「あー。やっぱり自分でさばいたマグロは最高に美味いなぁ!!」

「だからこれ鮭ですって。美味しいですけど」

「えっ...!?トーマ、お前本当にお魚博士か?

この美しいサーモンピンクはどっからどう見てもマグロだろ!?」


「自分でサーモンって言ってるじゃない!あとトーマは船乗りであってお魚博士じゃないから。」

「わっ!ユーリンびっくりした!」


アーサーは夕食に夢中になっていたせいか、ユーリンが背後にいる事に気がつかなかったらしい。


「ユーリンさん。おかえりなさい。シャロンさんは?」

「大丈夫。薬も飲ませたから!さっきまたぐっすり眠りだしたわ」

「そうですか。よかった。」


心の底から安堵したような表情を浮かべ、トーマは胸を撫で下ろした。


「さぁユーリンさんもどうぞ召し上がってください。はい、お水。」


トーマに差し出されたグラスにユーリンは手を伸ばす。


「ユーリン!俺も水飲みたい!くれ!」

「あ、ちょっと!!!」


アーサーがユーリンのグラスを横から奪おうとした拍子に、グラスはトーマの手から離れ、盛大に床に水をぶちまけて転がった。


「あー!もう何してんのアーサー!」

「ごめんって!つい手が滑って!俺新しい水取ってくるから!」


反省しているのかいないのか、怒るユーリンとは正反対にヘラヘラと笑いながら、アーサーは厨房の方へと逃げるように走って行った。


「もう、アーサーったら。ここに水のポットあるのに...」

「よかったらおつぎしましょうか?」

「いや、いいわ。アーサーがせっかく取りに行ってくれてるから。ありがとう。」

「...そうですか。」



水を注ぐことを断られたトーマが異常なくらい残念な、悔しそうな顔をしているよう見えたから。


ユーリンはトーマの頭を撫でながら、小さな船乗りに改めてお礼を言った。











夕食を終え皆が自室に戻った後、夕方よりも風の強くなりつつある甲板の上で、トーマは不穏な様子の海を眺めていた。


「…今夜は嵐になりそうだな」


そう呟き、トーマは勇者達との短い船旅の記憶を、改めて思い巡らしていた。







お久しぶりでございます、Alliesの片割れ、鳳月でございます!!


約一年ぶりの更新となりましたが皆様お元気でしたでしょうか?

鳳月も由豆流も有り余るほど元気であります!!!


ここ数年、忙しかったこともありサボりがちではあったのですが、これからは少しずつでも更新を続けていくつもりですので、また気が向けば覗きに来て頂ければ至上の喜びにございます。


長くなりましたが、今後とも勇者達の活躍を温かく見守ってやってくださいませ。


誤字脱字の指摘、感想のコメント等何でもお待ちしております!!!

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