第十五話 : 海を越えれば
どれくらい歩いただろうか。
魔界は常に夜であるため、正確な時間は分からない。
だが、足の疲労感からかなりの距離を歩いてきたことを痛感する。
そろそろ体力の限界...
そう思ったその時ーーー
「あーーーーーーーーーっっ!!!」
アーサーが突然、大絶叫をした。
「なにっ!?どうしたの!?」
「あっち見てみろ!海だぞ!」
アーサーが指差した先には暗雲を水面に映し出した闇色の海が広がっている。
「本当だ...魔界にも海があるんだね...」
「そうね、でも今は魔王の居場所をーーーって、アーサー!?」
「やったー!!海だー!!行くぞー!
海のバカヤロー!!イェーイ!!」
「ちょっと待ちなさーーーい!!!」
ユーリンの制止も虚しく、
アーサーはそのまま海に向かって突っ走って行く。
「もう!どうするシャロン?」
「とりあえず追いかけようか?
ひょっして海なら誰か魔王の情報を教えてくれる人がいるかもしれないし...」
これまでの道のりで、三人はモンスター以外の人間に出会うことはなかった。
魔界だから当たり前なのかもしれないが。
「そうね。とりあえず行ってみましょうか」
そしてシャロンとユーリンはアーサーを追い、海に辿り着いた。
近くで見ると、よりいっそう海は黒く地平線まで闇に染めていた。
「ひゃっほい!海だ!バカやろうだ!
鮭とれねぇかな〜?」
「あ。いたいた。」
アーサーはズボンの裾を捲り上げ、
浅瀬で一人はしゃいでいた。
「おっ!二人とも来たか!鮭捕まえようぜ一緒に!」
「こんな真っ黒な海で鮭は捕れないわよ。それにしても、やっぱり人がいないわね...」
「俺は今、人より鮭に出会いたい」
「アーサーも少しは誰かいないか探してよ!!」
「えっ!?じゃあ、あそこの岩影に隠れて俺らを見てる子供は俺にしか見えてないのか!?」
「ーーーへっ!?」
アーサーの視線を辿って行くと、そこには大きな岩の後ろから顔だけをこちらに向けている少年がいた。
少年はユーリンと目が合うと、顔を真っ赤にしてサッと岩陰に隠れてしまった。
「あーあ。ユーリンが睨むから...」
「に、睨んでないから!!
驚かせてごめんねー!ちょっと聞きたいことあるのー!!」
ユーリンがそう呼びかけると、
少年はおそるおそる岩陰からひょっこりと顔を出す。
その姿にユーリンとシャロンは思わず
「かわいい...」
と、声を漏らした。
「いや。俺の方がかわいい。」
「どこが。
私たち何もしないから!お願い!!道を尋ねたいの!!」
その言葉を聞いて、少年はようやく隠れるのをやめ、アーサー達の方に走り寄ってきた。
「ごめんなさい!見ない顔だったからビックリしちゃって...」
「い...いいの!気にしないで!」
少年はセーラー服・セーラー帽をという船乗りのような格好だった。
「あの...道を尋ねたいって...一体どちらに行きたいのですか??」
「私たち、魔王の城に行きたいんだけど、どこにあるのか全然分からなくて...」
「魔王の城ですか!?どうしてそんなところに...?」
「もちろん、魔王を倒すたーーーむぐっ!?」
「バカッ!子供でもベラベラしゃべっちゃダメよ!!」
少年の問いに答えようとしたアーサーの口をユーリンが慌ててふさぐ。
「えーーー??魔王を...倒す...??」
「いや!違うの!倒すんじゃなくてそのーーー」
「倒す!!魔王は俺が必ずこの手で倒ーーーぐぎゃっ!?」
「だから"倒す"なんて言わないの!!"魔王"なんて呼ばれてるぐらいなんだから、この世界ではきっと頂点に立つ存在なのよ。そういう表現は避けないと!!」
ユーリンはアーサーの腹にパンチをお見舞いした後、そう耳打ちした。
「た、たしかにぃ...グフッ...」
「ーーー...へえ。そうなんですか。大変ですね!」
「ーーーえ?」
少年は笑顔でそう返事をしただけだった。
「...魔王って意外と偉くないのかしら...」
「尊敬されてないだけじゃね?」
アーサー、ユーリンの疑問をよそに、少年は突然海を指差した。
「魔王の城はこの先にあります。」
「この先ってことは...まさか...」
「はい。城へ行くにはこの海を越えなければなりません。」
「そんな...」
海には地平線が果てしなく広がっている。
島なんかもちろん見当たらない。
「どうすればいいのかな...?」
「よしっ!泳いでいくか!」
「待ちなさい!!」
「おい、そこの子供!俺の肉体美とくとご覧あれ!!」
「こらっ!脱ぐな!!」
「肉体美を晒すのはけっこうですが、城へ行くには船でも三日はかかりますよ?」
「船で三日!?」
その言葉を聞いて、アーサーもさすがに泳いでいくのは諦めたようだ。
「...なあ、陸のルートはないの?」
「あるにはありますけど、そちらはおそらく十日間以上はかかりますね。」
「そうか...」
「仕方ないよね...」
重い重い沈黙がその場に流れる。
暗黙の了解。
三人は無言で陸のルートを選んだ。
ーーーが、
「よろしければ、僕の船で案内しましょうか??」
「ーーーえっ!?」
少年がその沈黙を破った。
「君の...船で...?」
「はい。僕は子供ですが、ちゃんとした船乗りです。自分の船も小さいけど持っています。」
「でも、今会ったばかりなのに悪いよ...」
どう見ても自分たちより幼い子供。
船の運転を任せるのは少し不安だった。
そして何よりも"魔王の城"へ行くのだ。
無関係の子供をこの旅に巻き込んでしまうのが心配でもあった。
しかし、アーサーは
「よしっ!おまえの船に乗せてってくれ!」
「え、アーサー!?」
シャロンは驚いてアーサーの腕を掴んだ。
「大丈夫だって、シャロン。この子の方がよっぽどこの魔界に詳しいんだ。頼るしかない。」
「でもーーーー」
「それに俺は船に乗りたい」
「あんた、それが一番の理由でしょ...でも、確かに乗せてくれるなら助かるけど...」
「ユーリン...!」
「そうと決まれば早速準備をしないと!
着いてきて!船のある港まで案内します!」
少年は踵を返し出発しようとしたが、「あっ!」と声を上げ、再びアーサー達を振り返った。
「申し遅れました。僕は船乗りの"トーマ"です。よろしくお願いします。」
「おぅ!よろしくな、トーマ!」
こうして三人はトーマに連れられ、港へ向かった。
「これが僕の船の中です。」
「え!すごく立派な船ね!」
港に止められていたトーマの船は確かにそんなに大きくはなかったが、整備や食糧などの備蓄も万全で、清掃も隅々まで行き届いている。
三日間の船旅には十分すぎるぐらいだ。
トーマは一人でせわしなく出港の準備をしていた。
「あそこでトーマに会えるなんて、ラッキーだったな!しかもこんないい船に乗せてもらえるなんて!」
アーサーは地平線を眺めながら楽しげに言った。完全にクルージングの旅に出る気分のようだ。
「でも、やっぱり心配...トーマ君を危険な目にあわせてしまったら...」
シャロンは相変わらず、この船旅には後ろ向きだった。
「大丈夫だ!俺がついてる!敵が襲ってきたとしても、俺が倒せばいい話だろ?」
「でもーーーーー」
「俺達がトーマを守ればいいんだよ。な?」
「!!」
アーサーはシャロンの肩に優しく手を乗せた。
ああ...これはきっと...アーサーの優しさ...
彼を守れなかった私。
守られてばかりだった私。
そんな私でも誰かを守れると遠回しに教えてくれている。
「...そうだね。私たちが守らなきゃ。
この船には武器も積まれてて、矢もさっき見つけた。私も戦えるよね。」
「おう。頼りにしてるぞ」
「みなさーん!準備はいいですかーー!?」
トーマが舵を握りながら三人に呼びかける。
「あぁ。出発してくれ!」
「イエッサー!さぁ、本日のゲストは勇猛果敢なる三人の若き勇者!目指す先は魔王の城!それではいざっ大いなる地平線のその先へ!!」
トーマのかけ声と共に汽笛が鳴る。
船はゆっくりと動きだし、徐々に港が遠くなって行く。
「おっしゃあ!待ってろよ魔王!!
必ず倒してやるからなーー!!」
アーサーはまだ見ぬ魔王の城に向かって
剣を掲げていた。
あけましておめでとうございます。
由豆流です。
3ヶ月ぶりの更新本当にすみません。
次回は船旅となります。
あートーマくんがかわいいー




