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PSY-003《チート疑惑について。手元を公開します》

 録画ボタンを押した。


 画面の端には、いつものゲーム画面。


 そして右下には、小型カメラで撮影した俺の手元が映っている。


 銀色の右手。


 マウスを握る五本の機械指。


「…………」


 どう見ても普通じゃない。


 何度見ても普通じゃない。


「いや、これ公開して大丈夫か?」


 録画開始から三秒。


 早くもやめたくなってきた。


 だが、昨日投稿した動画はすでに十万再生を突破。


 コメント欄は、


『チートだろ』


『手元見せろ』


『人間の反応速度じゃない』


 で埋め尽くされている。


 このままでは、せっかく始めたゲーム実況が初日で終了してしまう。


「……仕方ない」


 俺は咳払いした。


「どうも。サイボーグチャンネルです」


 自分で名乗るたびに、このチャンネル名どうなんだと思う。


 だがもう一万人以上が登録している。


 今さら変えるのも面倒だ。


「昨日投稿した動画について、チートを使ってるんじゃないかというコメントがかなり来てまして」


 ちらりと右手を見る。


「なので今回は、手元を映しながらプレイします」


 ここまではいい。


 問題は次だ。


「で……見てもらえば分かると思いますが」


 俺は右手をカメラの前に出した。


 指を開く。


 閉じる。


 ウィン。


 小さな駆動音。


「……こういう手です」


 説明になっていない。


 自分でもそう思う。


「えー……まあ、義手みたいなものだと思ってください」


 嘘ではない。


 たぶん。


 義手とは、本来失った手の代わりにつけるものだ。


 俺の場合、元の手がどうなったのか知らないうちに全部機械になっていたわけだが。


「事故に遭いまして」


 これも本当。


 トラックに轢かれた。


「その関係でこうなりました」


 これも、まあ本当だ。


 トラックに轢かれる。


 死ぬ。


 異世界転生する。


 神様に丈夫な身体をお願いする。


 サイボーグになる。


 因果関係は成立している。


「細かいことについては、そのうち話せればと思います」


 話せる日は来ないと思う。


 少なくとも、


『実は異世界で魔王を倒して帰ってきました』


 なんて説明する予定はない。


「じゃあ、やっていきます」


 マッチング開始。


 昨日と同じFPS。


 手元カメラがあるせいで、妙に緊張する。


「なるべく普通にやろう」


 昨日はやりすぎた。


 今日は少し抑える。


 敵が出てきても、一瞬待ってから撃つ。


 人間らしく。


 そう。


 人間らしく。


 敵発見。


 零・二秒待つ。


 撃つ。


 ヘッドショット。


「…………」


 次。


 零・三秒待つ。


 撃つ。


 ヘッドショット。


 次。


 ちょっと照準を外してみる。


 一発外れる。


 二発目。


 ヘッドショット。


「よし」


 いい感じだ。


 普通の上手い人くらいに見えるはず。


 たぶん。


 十数分後。


 試合終了。


 キル数。


 三十二。


 デス。


 一。


「…………」


 普通とは。


 俺はしばらく戦績画面を眺めた。


「まあ、昨日よりはマシか」


 昨日は四十三キル、デスゼロだった。


 今日は一回死んだ。


 かなり人間らしい。


 自信を持っていい。


 俺はそのまま二試合目へ。


 今度は少し難しい武器を使う。


 反動が大きく、連射すると照準が跳ねるタイプだ。


「これなら多少外れるだろ」


 敵発見。


 発砲。


 ダダダダダッ!


 機械の指が無意識にマウスを微調整する。


 反動を完全に相殺。


 全弾命中。


「…………」


 いや待て。


 俺はそんな操作をしようと思っていない。


 身体が勝手に最適化している。


「お前、余計なことするなよ……」


 思わず自分の右手に話しかける。


 当然返事はない。


 ただ、親指だけが小さく動いた。


「今動いた?」


 気のせいだろう。


 きっと。


     ◇


 撮影終了。


 動画を編集する。


 今回は余計な部分を少し切っただけ。


 手元映像は最初から最後まで残した。


 タイトル。


『チート疑惑について。手元を公開します』


「……よし」


 そのまま公開。


 昨日の動画は、その時点ですでに二十万再生を超えていた。


 登録者も二万人目前。


「昨日始めたばっかりなんだけどな……」


 YouTubeというのは恐ろしい。


 そして動画公開から十分。


 コメントがついた。


『!?』


 次。


『手どうなってんの!?』


 次。


『チート疑惑よりそっちの方が気になるんだが』


 次。


『サイボーグチャンネルってそういう意味だったのかよ』


「あ」


 そういえばそうだ。


 視聴者からすれば、


『サイボーグチャンネル』


 という名前で、


 本当に機械の手が出てきた。


 完全に狙ってつけた名前に見える。


「いや、本当に適当につけただけなんだけど……」


 コメントが流れていく。


『めちゃくちゃカッコいい義手』


『どこのメーカー?』


『これ市販されてるの?』


『映画の小道具じゃないの?』


『CGじゃね?』


『指の動き滑らかすぎる』


『音までしてるんだけど』


『未来から来た?』


『これだけで一本動画作れるだろ』


「……ですよね」


 FPSの腕前より、完全に手の方が話題になっていた。


 チート疑惑はどうなった。


 さらにコメントを読む。


『手元映してても上手すぎて草』


『操作速度おかしい』


『マウスの切り返し速すぎだろ』


『義手だから反応速度速いの?』


『むしろ義手がチートなのでは?』


「…………」


 新しい疑惑が生まれている。


 俺は頭を抱えた。


「どうすりゃいいんだよ」


 チートではないことを証明するために手を映した。


 そしたら、


『その手自体がチートでは?』


 と言われ始めた。


 否定しにくい。


 実際チートみたいな身体だ。


     ◇


 一時間後。


 再生数五万。


 二時間後。


 十五万。


 三時間後。


 三十万。


「伸びすぎだろ!」


 昨日の動画より速い。


 しかもSNSでも拡散されているらしく、検索すると、


『謎の超高性能義手でFPSする新人YouTuber』


『サイボーグチャンネル、名前通り本当にサイボーグ説』


『これ本物?』


 などの投稿が大量に出てきた。


「まずい……」


 目立ちすぎた。


 普通にゲーム実況して、広告収入でも得られればいいな。


 その程度の気持ちだった。


 なのに二日目にして、


『正体不明のサイボーグ』


 みたいな扱いになり始めている。


 スマホが震えた。


「ん?」


 メール。


 動画サイト経由で届いたものだ。


『突然のご連絡失礼いたします。弊社では――』


 企業からだ。


 ゲームデバイスの紹介をしてほしいらしい。


「案件!?」


 YouTuberっぽい。


 始めて二日なのに。


 さらにメール。


 ゲーム系ウェブメディア。


 取材依頼。


 さらに。


 配信者からコラボのお誘い。


 さらに。


『あなたが使用している義手について詳しくお話を――』


「これはダメ」


 閉じる。


 医療機器メーカー。


「これもダメ」


 閉じる。


 大学の研究室。


「絶対ダメ」


 閉じる。


 ロボット工学関係者。


「怖い怖い怖い」


 閉じる。


 こんな身体を調べられたら何が出てくるか分からない。


 そもそも俺自身、この身体が何でできているのか知らない。


 異世界産サイボーグ。


 製造元、神。


 保証書なし。


 説明書なし。


 メンテナンス方法不明。


 故障した場合の問い合わせ先も不明。


「そういえば壊れたらどうするんだ、俺……」


 今さら重大な問題に気づいた。


 魔王の攻撃でも傷ひとつつかなかったから、そう簡単には壊れないと思うけど。


 永久に壊れない保証はない。


 頭の片隅に新しい不安を抱えつつ、再びコメント欄を見る。


『顔出ししないの?』


『全身見せてほしい』


『腕だけ機械なのかな』


『次は質問コーナーお願いします』


「全身は無理だって」


 首から下、ほとんど機械なのだから。


 右腕だけなら、


『すごい義手』


 で済む。


 全身公開したら、


『義手って何だっけ?』


 になる。


「当分、手元だけだな」


 方針決定。


 その時だった。


 ――ピンポーン。


「ん?」


 インターホン。


 宅配便でも頼んだだろうか。


 画面を見る。


 知らない男が一人。


 スーツ姿。


 荷物は持っていない。


「誰だ?」


 まさか。


 もう家を特定された?


「いやいやいや、早すぎるだろ」


 さすがにそれはない。


 恐る恐るインターホンの通話ボタンを押す。


「はい」


『突然申し訳ありません』


 男が頭を下げる。


『こちらに、高木――』


「…………」


 俺の本名。


 なんで知ってる。


 男は続けた。


『少し、お聞きしたいことがありまして』


 俺は黙ったまま、画面を見つめた。


 ゲーム実況を始めて、まだ二日。


 どうやら。


 面倒なことになり始めているらしい。

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