PSY-024《妹によるチャンネル改造計画》
ちょっと一部修正しました!
念願のマウスを手に入れた翌日。
「…………最高だ」
俺はパソコンの前で、しみじみ呟いた。
右手には。
黒鴉会への潜入までして手に入れた、あのマウス。
動かす。
軽い。
止める。
ピタッと止まる。
クリック。
速い。
俺の機械の指がどれだけ細かく動いても、ちゃんとついてくる。
「これだよ……」
ずっと探していた。
秋葉原中を回った。
八咫烏と戦った。
黒鴉会の施設に潜入した。
そこまでして。
ようやく手に入れた。
「これなら……!」
ゲーム開始。
FPS。
敵発見。
パンッ!
ヘッドショット。
次。
パンッ!
ヘッドショット。
さらに次。
パンッ!
「気持ちいい!」
明らかに操作しやすい。
以前よりも。
さらに。
思った通りに動く。
「これは伸びるぞ……!」
俺はその日のプレイを動画にした。
編集。
サムネイル。
タイトル。
投稿。
「よし」
待つ。
◆
数時間後。
「…………」
再生数。
悪くない。
でも。
「……普通だな」
いつもの動画と。
あまり変わらない。
「…………」
更新。
数字が少し増える。
「いや」
もう一度。
更新。
「…………」
確かに増えている。
だが。
「マウスめちゃくちゃ良くなったのに」
なぜだ。
俺の操作感は。
明らかに良くなっている。
「もっとこう」
ドーン!
と。
再生数が増えると思った。
増えない。
「…………」
俺はマウスを見る。
「お前……」
いや。
マウスは悪くない。
最高だ。
「じゃあ何が悪い?」
その時。
――ピンポーン。
「ん?」
インターホン。
愛莉。
「お兄ちゃーん」
「はいはい」
玄関を開ける。
「何?」
「来た」
「見れば分かる」
「チャンネル改善会議」
「…………」
忘れてた。
◆
「まず」
愛莉は俺の椅子へ座った。
「最近の動画見せて」
「はい」
なぜ。
自分の家なのに。
俺が立って。
愛莉が俺のパソコンを操作しているのだろう。
「これ」
「昨日の」
「新しいマウス使ったやつ?」
「そう!」
俺は少しテンションが上がる。
「すごいぞこれ!」
「何が?」
「反応!」
「うん」
「俺の指についてくる!」
「うん」
「クリックも――」
「それ、視聴者に分かる?」
「…………」
「…………」
「え?」
愛莉が俺を見る。
「お兄ちゃんが気持ちよくゲームできるようになっただけじゃない?」
「…………」
「動画見てる側からしたら」
画面を指差す。
「いつもの、めちゃくちゃFPSが上手いサイボーグチャンネルだよ」
「…………」
そんな。
「俺」
「うん」
「黒鴉会に潜入してまで手に入れたんだけど」
「そこは知らないよ!」
「苦労したんだけど!」
「視聴者は知らないから!」
「…………」
世の中。
厳しい。
◆
「じゃあ」
愛莉が動画一覧を開く。
「ちゃんと見るね」
「お願いします」
「まずこれ」
「はい」
「FPS」
「うん」
「これ」
「FPS」
「これ」
「FPS」
「これも」
「……FPS」
「その次」
「…………FPS」
愛莉が俺を見る。
「お兄ちゃん」
「はい」
「FPSしかない」
「ゲーム実況だから」
「FPS実況チャンネルなの?」
「…………」
違う。
サイボーグチャンネルだ。
「いや」
「でしょ?」
「でも俺、FPS得意だし」
「知ってる」
「強いし」
「知ってる」
「みんな見てくれるし」
「今はね」
「…………」
嫌な言葉。
「今は?」
「最初は珍しいから見るよ」
愛莉が俺の銀色の手を見る。
「サイボーグっぽい手」
「はい」
「異常な反応速度」
「はい」
「異常なエイム」
「異常言うな」
「だって異常だし」
「…………」
「でも」
愛莉が動画一覧をスクロールする。
「毎回同じことしてたら、慣れるでしょ?」
「…………」
「最初は『うわ、すご!』だったのが」
「うん」
「十本目くらいには『今日も上手いね』になる」
「…………」
「二十本目には」
「何?」
「『知ってた』」
「…………」
痛い。
「俺」
「うん」
「最近コメントでそれ言われてる」
「でしょ?」
「『はい知ってた』って」
「それ」
愛莉が指差す。
「慣れられてる」
「マジか……」
魔王ですら。
一撃だった。
しかし。
YouTube。
強いだけでは勝てないらしい。
◆
「次」
愛莉がサムネイルを見る。
「これ」
「何?」
「似てる」
「何が?」
「全部」
「…………」
FPS画面。
大きな文字。
撃破数。
武器。
確かに。
「まあ統一感?」
「ものは言いようだね」
「酷い」
「タイトルも」
「タイトル?」
愛莉が読む。
「『ランクマッチやります』」
「うん」
「『今日もランクマッチ』」
「うん」
「『新しい武器でランクマッチ』」
「…………」
「お兄ちゃん」
「はい」
「ランクマッチ好きすぎ」
「好きなんだから仕方ないだろ!」
「それはいいの!」
「じゃあ何?」
「動画として変化がないって言ってるの!」
「…………」
愛莉。
容赦がない。
「俺、結構頑張ってるんだけど」
「頑張ってると思うよ」
「じゃあ」
「でも」
愛莉が俺を見る。
「頑張ってることと、見たい動画を作ることは別でしょ?」
「…………」
正論。
最近。
妹の正論が強い。
◆
「じゃあ」
俺は聞いた。
「どうしたらいい?」
「色々やればいいじゃん」
「色々?」
「まずFPS以外」
「何?」
「ホラーゲーム」
「…………」
「格ゲー」
「うん」
「レース」
「うん」
「アクション」
「うん」
「協力ゲーム」
「うん」
「あと企画物」
「企画物って?」
愛莉の目が輝く。
「例えば」
嫌な予感。
「サイボーグはホラーゲームで驚くのか?」
「驚くよ」
「やっぱり?」
「普通に怖いものは怖い」
「それ!」
「何?」
「それ動画にしよう!」
「なんで!?」
「だって」
愛莉が楽しそうに笑う。
「みんな、お兄ちゃんの強いところはもう知ってるもん」
「…………」
「でも」
指を一本立てる。
「怖がってるところは知らない」
「知らなくていい」
「知りたいと思う」
「俺は見せたくない」
「視聴者は見たい」
「…………」
YouTube。
恐ろしい世界だ。
◆
「あとコラボ」
「誰と?」
「他の配信者」
「知らない人?」
「まずそこからなの?」
「だって知らないし」
「探すの!」
「どうやって?」
「配信者同士で連絡取ったり」
「…………」
「お兄ちゃん」
「何?」
「コミュ障?」
「違う」
「じゃあやって」
「……そのうち」
「コミュ障じゃん」
「違う!」
愛莉が笑う。
「まあ、それは後でいいとして」
「助かった」
「まず一本」
「はい」
「私が企画します」
「お願いします」
「タイトルは――」
愛莉が少し考える。
そして。
笑った。
「『最強サイボーグにホラーゲームやらせたら、ちゃんと怖がるのか?』」
「最強って誰?」
「お兄ちゃん」
「勝手につけるな」
「いいじゃん」
「恥ずかしい」
◆
その日の夜。
「…………」
俺は。
暗い部屋で。
一人。
ホラーゲームを起動していた。
愛莉は隣。
配信はしていない。
まず動画撮影。
「準備いい?」
「嫌だなあ……」
「始めるよ」
「はい」
録画開始。
「どうも。サイボーグチャンネルです」
いつもの挨拶。
「今日は」
画面を見る。
暗い屋敷。
「妹の提案で」
愛莉が画面外から、
「妹って言うな!」
「前にも言ったけど今さらじゃない?」
「個人情報!」
「はいはい」
言い直す。
「ある人の提案で、ホラーゲームをやります」
ゲーム開始。
「俺、ホラー苦手なんですよ」
愛莉が吹き出す。
「何?」
「いや」
「何?」
「サイボーグなのに」
「関係ないから!」
◆
暗い廊下。
「…………」
歩く。
何もない。
「…………」
さらに。
何もない。
「これ」
俺は言う。
「そんな怖くないな」
愛莉。
「そう?」
「うん」
「じゃあ余裕だね」
「余裕」
ドア。
開ける。
暗い部屋。
「…………」
何もない。
「ほら」
「うん」
「普通――」
ドンッ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
画面いっぱい。
顔。
何か出た。
俺は。
反射的に。
椅子ごと後ろへ飛びそうになった。
「ちょっ、お兄ちゃん!」
「何これ!?」
「ゲーム!」
「急に出てきた!」
「ホラーゲームだから!」
「聞いてない!」
「それがホラーだよ!」
愛莉。
爆笑。
「お前!」
「だって!」
「笑うな!」
「サイボーグなのに!」
「だから関係ないって!」
◆
二時間後。
「疲れた……」
戦闘より疲れた。
精神的に。
愛莉は満足そう。
「最高」
「俺は最悪」
「絶対これ伸びる」
「俺の悲鳴で?」
「うん」
「嫌なチャンネルだな」
「編集するよ」
「俺が?」
「もちろん」
「愛莉やってよ」
「成長するのはお兄ちゃんでしょ?」
「…………」
またそれ。
◆
翌日。
動画公開。
サムネイル。
愛莉監修。
タイトルも。
愛莉と相談して決めた。
投稿。
「…………」
一時間。
「お」
いつもより。
速い。
二時間。
「…………」
さらに。
三時間。
「え?」
俺は数字を見る。
「愛莉!」
『何!?』
電話。
「伸びてる!」
『だから言ったじゃん』
「いつものFPSより速い!」
『でしょ?』
「なんで!?」
『お兄ちゃんが悲鳴上げてるから』
「そこ!?」
『コメント見てみて』
開く。
『サイボーグ普通にビビるんだw』
『初めて親近感湧いた』
『銃撃つより悲鳴の方が速くて草』
『もっとホラーやって』
『妹?のツッコミも好き』
「…………」
愛莉。
「はい」
「俺」
「うん」
「FPSやめた方がいい?」
『極端すぎ!』
「違う?」
『FPSは続けるの!』
「はい」
『でも、それだけじゃなくて色々見せる』
「なるほど」
『お兄ちゃんの強さだけじゃなくて』
「うん」
『お兄ちゃん自身を見てもらうの』
「…………」
少し。
納得した。
「俺自身か」
『そう』
「…………」
今まで。
俺は。
上手いプレイを見せればいいと思っていた。
強ければ。
すごければ。
それだけで。
でも。
違うらしい。
「難しいな、YouTube」
『だから面白いんじゃない?』
「…………」
その言葉に。
俺は少し笑った。
「確かに」
◆
夜。
俺はチャンネル管理画面を見ていた。
登録者。
増えている。
数字そのものは。
まだ目標の五十万人には遠い。
でも。
昨日までとは。
少し違う気がした。
「次、何やろうかな」
FPS以外。
企画。
コラボ。
他ジャンル。
やることはたくさんある。
「…………」
不思議だ。
敵を倒す時は。
こんなに考えたことはない。
殴れば大体終わるから。
でも。
YouTubeは。
考えないといけない。
勉強しないといけない。
試さないといけない。
失敗もする。
「……こっちの方が難しいな」
俺は笑った。
そして。
新しいマウスを握る。
「五十万人」
まだ遠い。
だからこそ。
「面白くなってきた」




