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PSY-025《初コラボ》

「コラボしましょう」


 愛莉が、突然そう言った。


「……誰と?」


「他の配信者」


「なんで?」


「なんでって」


 愛莉が呆れたように俺を見る。


「この前言ったでしょ。FPSだけじゃなくて、色々やった方がいいって」


「ホラーやったじゃん」


「一回ね」


「めちゃくちゃ怖かったんだけど」


「めちゃくちゃ伸びたじゃん」


「…………」


 否定できない。


 俺がホラーゲームで悲鳴を上げている動画は。


 普段のFPS動画より伸びた。


 世の中は理不尽だ。


「それでね」


 愛莉がスマホを差し出す。


「この人」


「…………」


 画面にはYouTubeチャンネル。


『ルナりんTV』


「VTuber?」


「そう」


 画面には女性型のVTuber。


 聞こえてくる声も。


 完全に女性のものだった。


「女の人?」


「中の人は男だよ」


「…………」


「男?」


「そこは本人が公言してる」


「この声で?」


「変声してるの」


「へえ……」


 世の中。


 本当に色んな配信者がいる。


「ルナりんっていうの?」


「そう」


「本名は?」


「非公開」


「年齢は?」


「それも非公開」


「徹底してるな」


「VTuberなんだから、別に普通でしょ」


「そういうもの?」


「そういうもの」


 俺にはまだ。


 配信者の世界で知らないことが多いらしい。


「で」


 俺は画面を見る。


「何やってる人?」


「主にホラーゲームの生配信。グロ系も結構やる」


「ホラー……」


「はい」


「また?」


「また」


「俺、嫌なんだけど」


「でも相性いいと思うよ」


「俺と?」


「うん」


 愛莉が動画を開く。


『……今、左の棚にあった人形、消えませんでした?』


 女性声。


 何度聞いても。


 中身が男だとは思えない。


『いや待って。さっき、この時計三時十五分だったと思うんですけど……今、四時四十四分ですね』


「…………」


 ゲーム画面では。


 ほとんど何も起きていない。


 なのにルナりんは。


 細かい違和感に次々気づいていく。


「すごいな」


「でしょ?」


「こんなの覚えてるの?」


「ゲームかなり突き詰める人なんだって」


 次の場面。


『ここ、壁紙だけ少し色が違いません?』


 調べる。


 隠し通路。


「…………」


「ほら」


「俺、こういうの苦手かも」


「だからいいんじゃん」


「どういうこと?」


「お兄ちゃんが苦手なことを、ルナりんが得意だから」


「…………」


 なるほど。


 俺は敵が出てくれば強い。


 FPSなら反応速度もエイムもある。


 でも。


 まだ何も起きていない場所から。


 小さな違和感を見つける。


 そういうのは得意じゃない。


「……ちょっと面白そう」


「でしょ?」


 愛莉が笑った。


「だから、もう連絡してある」


「…………」


「向こうもOKだって」


「え?」


「コラボ」


「俺の意思は!?」


「今、面白そうって言ったじゃん」


「連絡したの先だろ!」


「結果オーライ」


「順番!」


◆


 数日後。


 初コラボ当日。


「…………」


 俺はパソコンの前で。


 妙に緊張していた。


 一人で配信するのは。


 もう慣れた。


 でも。


 知らない配信者と一緒に喋る。


「何話せばいいんだ……」


 ゲームより。


 そっちの方が難しい。


 通話接続。


『もしもーし』


「うわ」


『えっ、第一声うわですか!?』


「あ、すみません!」


『ちゃんと聞こえてます?』


「聞こえてます」


『ルナりんです。今日はよろしくお願いします!』


「サイボーグチャンネルです。よろしくお願いします」


『前から気になってたんですよ、サイボーグチャンネルさん』


「俺も昨日からルナりんTV見てました」


『昨日から!?』


「知り合いに教えてもらったんで」


『じゃあ昨日かなり見てくださったんですね』


「結構見ました」


『ありがとうございます』


 明るい。


 でも。


 変に馴れ馴れしい感じはない。


 話しやすい。


「本当に男なんですよね?」


『そこから確認します?』


「いや、声が本当に女の人にしか聞こえなくて」


『そこはちゃんと公表してますよ。中身は男です』


「すごいな……」


『ありがとうございます。逆にサイボーグさんは、本当にサイボーグなんです?』


「…………」


『あ、聞いちゃダメでした?』


「いや」


 俺は銀色の右手を見る。


「俺も自分の身体、よく分かってないんですよ」


『本人が!?』


「説明書ないんで」


『それは……確かに困りますね』


「でしょ?」


『メンテナンスとかどうしてるんです?』


「してないです」


『それ大丈夫なんですか?』


「今のところ」


『今のところなんですね……』


 ルナりんが笑う。


 意外と。


 本当に話しやすい。


◆


 今回プレイするのは。


 協力型ホラーゲーム。


 二人で廃病院へ入り。


 異変を探し。


 手掛かりを集め。


 最後に脱出する。


 そんなゲームらしい。


『ちなみにサイボーグさん』


「はい」


『ホラー耐性ってあります?』


「この前、初めてホラーゲームの動画出しました」


『どうでした?』


「叫びました」


『…………』


「結構」


『じゃあ今日は楽しみですね』


「何が!?」


『僕はホラーゲームかなりやってるんで、多少は慣れてます』


「ずるい」


『その代わりFPSならサイボーグさんの方が圧倒的でしょうし』


「まあ……多分」


『そこは謙遜しないんですね』


「嘘ついても仕方ないんで」


『なるほど』


 配信開始。


 両方のチャンネルから視聴者が集まってくる。


『初コラボ!』


『ルナりん来た』


『サイボーグとホラーVTuber』


『楽しみ』


『サイボーグ今日も叫ぶ?』


「叫びません」


『フラグ』


「違う!」


 ルナりんが笑う。


『もう視聴者さんにキャラ掴まれてますね』


「最近ずっとこんな感じなんですよ」


『愛されてるってことじゃないですか?』


「そうなのかな……」


◆


 ゲーム開始。


 廃病院。


 夜。


 雨。


 暗い入口。


「……帰りたい」


『まだ病院入ってないですよ』


「雰囲気がもう嫌」


『じゃあ一緒に行きましょう』


「ルナさん先頭お願いします」


『僕ですか?』


「ホラー慣れてるんでしょ?」


『まあ多少は』


「お願いします」


『分かりました。その代わり後ろお願いしますね』


「それなら任せてください」


 いい分担だ。


 二人で病院へ入る。


 廊下。


 真っ暗。


 懐中電灯だけが頼り。


「……嫌だなあ」


『大丈夫ですよ。ゲームですから』


「そのゲームが怖いんですって」


『それはそうですね』


 ルナりんが楽しそうに笑った。


◆


 最初の部屋。


 机。


 棚。


 ベッド。


「何もない」


『ちょっと待ってください』


「?」


 ルナりんが止まった。


『この写真』


「写真?」


『さっき廊下に、同じ写真ありませんでした?』


「…………」


 見る。


 家族写真。


「覚えてない」


『こっちは右端の女の子だけ、こっち向いてるんですよ』


「そんなところまで見てたの?」


『こういうゲーム、細かい違いがヒントになったりするので』


 写真を調べる。


 カチ。


 隠しアイテム。


「おお!」


『ありましたね』


「すげえ」


『こういうの探すの好きなんですよ』


「俺なら普通に通り過ぎてる」


『じゃあ探索は僕が見ますね』


「お願いします」


『その代わり、何か追いかけてきたらサイボーグさん頼みます』


「ゲームの中で倒せるなら」


『頼もしい』


 役割が。


 少しずつ決まってきた。


◆


 さらに進む。


 病室。


 暗い。


 しばらく。


 何も起きない。


『あの』


「はい?」


『そういえば、一つ聞いていいです?』


「何です?」


『僕、ずっとサイボーグさんって呼んでますけど』


「はい」


『これでいいんですか?』


「…………」


『サイボーグさんでいいなら、このまま呼びますけど』


「なら高木で」


『え?』


「高木です」


『…………』


「?」


『それ、本名……?』


「あ」


 言ってから。


 気づいた。


「…………」


 コメント欄が一気に流れる。


『本名!?』


『高木www』


『急に本名出したぞ』


『名字公開!?』


『サイボーグチャンネル緩すぎる』


「…………」


『大丈夫です?』


「まあ」


『まあ?』


「名字くらいなら……いいか」


『いいんですか?』


「もう言っちゃったし」


『確かに』


 ルナりんが苦笑する。


『じゃあ、高木さんで』


「はい」


『本当にいいんですね?』


「多分」


『多分なんだ……』


 コメント。


『高木さん爆誕』


『今日から高木さん』


『名前判明してて草』


「なんか恥ずかしくなってきた」


『自分で言ったんですよ!?』


「そうなんですけど」


◆


 その時。


 カタン。


「…………」


『今の音』


「聞こえた」


 俺は周囲を見る。


「右」


『……僕は左に聞こえました』


「左?」


『右側はBGMっぽいんですよ。左は環境音に混ざってる感じがします』


「そんなの分かる?」


『自信はないですけど、確認してみません?』


「じゃあ左」


 ドア。


 開ける。


「何も――」


 ドンッ!!


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


『うわっ!』


「何!?」


 画面いっぱい。


 血まみれの顔。


「聞いてない!」


『僕もびっくりしましたよ!』


「全然声小さかったじゃん!」


『慣れの差ですかね』


「ずるい!」


『でも高木さんの悲鳴、思ったより高いですね』


「そこ拾わなくていい!」


『配信中ですから、もう皆さん聞いてますよ』


「…………」


 コメント。


『wwwww』


『高木さん悲鳴助かる』


『ルナりんちょっとだけビビってて草』


『高木の悲鳴でこっちが驚いた』


『名字公開直後に絶叫する男』


「俺の悲鳴をホラー演出にするな!」


 ルナりんが笑った。


◆


 中盤。


 俺も少しずつゲームに慣れてきた。


「来た!」


『どこです?』


「後ろ!」


 二人で走る。


 化け物。


 追ってくる。


『右行きます!』


「了解!」


 ルナりんが通路へ。


 俺も続く。


 扉。


『閉めますよ!』


「待って!」


 ギリギリ。


 俺が滑り込む。


 扉が閉まる。


「危な……」


『高木さん』


「はい?」


『操作速いですね』


「ゲーム内ですよ?」


『いや、それでも反応が速い』


「ああ」


『さっき僕、普通に置いていかれそうになりました』


「すみません」


『大丈夫です。ただ――』


「?」


『協力ゲームなんで、次は一緒に行きましょう』


「…………」


 怒ってはいない。


 普通に。


 そう言われただけだった。


「分かりました」


『お願いします』


 愛莉にも言われた。


 一人で上手ければいいわけじゃない。


 コラボ。


 協力。


 そういうことだ。


◆


 また敵。


 俺なら。


 一人で走れば逃げ切れる。


 でも。


「ルナさん」


『はい?』


「先行ってください」


『え?』


「俺、後ろ見ます」


『分かりました』


 ルナりんが前。


 俺が後ろ。


 敵との距離を見る。


「まだ来てる」


『前、道が二つあります』


「どっち?」


『ちょっと待って……』


 ルナりんが一瞬止まる。


『左』


「理由は?」


『右の床、血の跡が途中で消えてるんです』


「罠?」


『その可能性あります』


「分かった、左!」


 二人で左へ。


 安全地帯。


「おお!」


『合ってましたね』


「ルナさんすご!」


『高木さんも後ろ見てくれて助かりました』


「…………」


 なんか。


 ちょっと分かった。


 コラボって。


 こういうことか。


 一人で全部やるんじゃない。


 相手ができることを。


 ちゃんと任せる。


◆


 終盤。


 最後の謎。


 部屋。


 時計。


 人形。


 絵。


 意味不明な文字。


「分からん」


『一個ずつ見ましょう』


「お願いします」


『時計、三時十五分』


「うん」


『人形三体』


「うん」


『絵の中の窓……十五個』


「…………」


『3と15』


「315?」


『一回入れてみます?』


「やってみよう」


 入力。


 エラー。


「違う」


『違いましたね』


「普通に外した」


『こういうのは試行錯誤です』


「なるほど」


 二人でまた部屋を見る。


「…………」


『何か気づきました?』


「時計」


『はい』


「秒針」


『秒針?』


「止まってる」


『……あ』


「この部屋入った時、動いてなかった?」


『…………確かに』


「俺の気のせい?」


『いや、調べてみましょう』


 時計。


 裏側。


 数字。


『441』


「これじゃない?」


『入力してみましょう』


 441。


 解除音。


 扉が開いた。


「おお!」


『当たりです!』


「俺も見つけた!」


『すごいじゃないですか』


「褒められた」


『高木さん、最初よりかなり周り見るようになりましたね』


「先生のおかげ」


『先生!?』


「今日だけ」


『じゃあ授業料いただきますよ』


「いくら?」


『冗談です』


「よかった」


 コメント。


『いいコンビ』


『高木成長してる』


『ルナ先生』


『初コラボなのに息合ってきた』


 俺は。


 ちょっと嬉しかった。


◆


 ラスト。


 脱出。


 敵。


 大量。


「うわ!」


『走りましょう!』


 二人。


 出口。


 俺が少し先。


 途中。


「ルナさん!」


『はい!?』


 ルナりんが遅れている。


 俺なら。


 このまま一人で出口へ行ける。


 でも。


 今日は。


 そうじゃない。


 戻る。


『高木さん!?』


「一緒に出ます!」


『でもゲームですよ!?』


「協力ゲームなんでしょ!」


『……そうですね!』


 ルナりんと並ぶ。


 出口。


 あと少し。


『後ろ来てます!』


「分かってる!」


『そのまま!』


 二人。


 同時に。


 出口へ飛び込む。


『CLEAR』


「よっしゃ!」


『やった!』


 コメントが一気に流れる。


『ナイス!』


『神回』


『最後よかった』


『いいコンビだな』


『またやって』


「…………」


 俺は。


 自然に笑っていた。


◆


『高木さん』


「はい」


『今日どうでした?』


「疲れました」


『はは、やっぱり』


「でも」


『はい』


「楽しかったです」


『よかった』


「一人でやるのと全然違いました」


『コラボですからね』


「ルナさんいなかったら謎解き無理だった」


『僕も高木さんいなかったら追跡パート大変でしたよ』


「お互い様?」


『そういうことです』


「なるほど」


『またやりましょう』


「いいんですか?」


『もちろんですよ』


「じゃあ」


 少し考える。


「次はホラー以外で」


『もうホラー嫌なんですか?』


「怖い!」


『でも今日かなり盛り上がりましたよ』


「視聴者はね!」


『じゃあ、また気が向いた時に』


「それなら」


 コメント。


『次もホラー』


『心霊系やって』


『リアル心霊スポット』


「リアルはもっと嫌!」


『心霊スポットですか』


「ルナさん?」


『ちょっと興味はありますね』


「あるの!?」


『オカルトとか、興味はあるので』


「俺はない!」


『じゃあ無理には誘いませんよ』


「良かった」


『でも――』


「?」


『いつか気が変わったら、一緒に行きましょう』


「行かないと思います」


『その時はその時です』


 ルナりんが笑った。


 強引ではない。


 でも。


 なんとなく。


 この人なら。


 いつか本当に誘ってきそうな気もした。


 その時の俺は。


 まさか本当に。


 ルナりんと心霊スポットへ行くことになるなんて。


 当然。


 知るはずもなかった。


◆


 配信終了。


「…………」


 管理画面。


 視聴数。


 登録者。


「おお……」


 増えている。


 ルナりんTVから来た視聴者も多い。


 コメント欄も。


 いつものFPSとは違う。


「コラボ……」


 すごい。


 でも。


 それ以上に。


「俺」


 今日。


 ゲームの上手さとは別のことを。


 少し覚えた気がする。


 一人で全部やる。


 その方が速い。


 でも。


 誰かと一緒にやるなら。


 相手を見て。


 任せて。


 自分も合わせる。


 その方が。


 面白いこともある。


「…………」


 愛莉。


 やっぱり。


 分かってるな。


◆


 同じ頃。


 別の部屋。


 一人の女子大学生が。


 配信終了画面を見ていた。


 ルナりんTV。


「…………」


 ヘッドホンを外す。


「兄さん」


 今日も。


 配信は最初から最後まで見た。


 コメントは。


 一度もしなかった。


「楽しそうだったな」


 画面には。


 ルナりん。


 そして。


 サイボーグチャンネル。


「高木……」


 名前だけ。


 覚えておく。


 兄が新しく知り合った。


 少し変わった配信者。


 今の彼女にとっては。


 まだ。


 その程度の存在だった。


 この男が。


 いずれ兄と自分。


 そして。


 もっと不可思議な出来事の中へ。


 一緒に足を踏み入れることになるとは。


 この時は。


 まだ誰も知らなかった。

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