初志、そして成立
これではもう『麻痺』での交渉は出来ない。
「(困ったな。このままだと首長と話すことも出来ないな……)」
時間も道具もなかったから『麻痺』以外の交渉材料はない。
確かに後を絶たれる可能性は考えていたが、初手で詰まされるのは想定外だ。
「──子供、で良いのか分からないですけど、おまえがアレをしゃべらないようにしているのならとっとと能力を解いてもらおう!」
武器こそ下ろしているがずっと睨むようにして警戒していたモモ看守。そんな彼女が刑法官たちを指差しながらさらに表情を険しくして命令してくる。
「もう結構時間も経ってもうてるし、坊主俺からも頼む」
そしてブライアンからは頭を下げてお願いされる。
そんな正反対な二人の要求に対してどうするべきか考える。
「(ここまでして頑なに訊き出そうしているなら、むしろ交渉に利用出来るか?)」
どれだけ止めるように言っても続けるなら無理に話を引き延ばしたり、駄々を捏ねたりするよりも予定通り交渉に使った方が良い気がしてくる。
ただ、ブライアンは受け入れてくれる可能性はあるが、隣の彼女は怪しい。
囚人、しかも脱獄幇助の疑いがある俺からの交渉だから受諾しないだろう。
「(それでもブライアンの方が上官のようだから説き伏せてくれるかもしれない。むしろそっちの方が可能性が高い)」
利用出来そうに感じてきたため思考を元の方に切り替える。
そしてブライアンの方を見て交渉を始める。
「分かった。能力を解く。ただ、首長の呼び出しが終わって時間が取れる時で良いからもう一度話す場を設けて欲しい」
「ふざけるなっ!! 囚人の分際で何を──」
「分かった。約束する」
想定していた通りに女看守が声を荒げて拒絶しようとした。しかしそれを遮ってブライアンが受諾する。
そんな彼の言葉に驚愕した彼女が今度は彼の方を向いて叫ぶ。
「隊長っ!?」
「悪いモモ。これは断れんのや」
「……隊長がそうおっしゃるのでしたら。子供、反故にしたら私がおまえを捌くからな?」
「分かってる。守るよ」
ブライアンのお陰で彼女は大人しくなった。
しかし気のせいか女看守からの脅しに殺意しか感じなかったような……気のせいとしよう。
それにもう守らないつもりなんてない。
「解くぞ。口は抑えとかないとうるさいからな」
拷問されていた刑法官の肩に手を置き、彼に目配せをする。
その意図を理解したブライアンが軽く頷いてから、手前の刑法官の口にもう一人にかけていた布を無理矢理詰め込む。
その合間にブライアンが女看守へ向けて外に移動するように指示を出す。それに静かに同意を示した彼女は俺が最初に見た時同様に牢の外へと出て行った。
しかしその間際に再び睨みつけられたが無視する。
「──良えで。やってくれ坊主」
準備を終えた彼から許可が下りたので『ドレイン』で魔力を一気に吸い上げる。
そしてそれと同時に魔力を供給する。こうしないと何故か『麻痺』は消えない。
「……あ、が──ごあぁぁああぁっっ……!?!!?」
ほぼ全ての魔力を吸い上げた所で刑法官は悲痛な叫びを上げる。
布で抑えられているというのに耳を塞ぎたくなる。




