無駄、そして執着
「隊長、知り合いですか?」
「先日の青のボアアガロンのを脱走させた嫌疑がかかっとる坊主や」
「っ! 例の……!」
ブライアンからの説明を聞いた彼女はさらに殺気立つ。
「(ブライアン?)」
刃を納めさせてくれると思っていたが、結果は真逆となる。
その状況に焦っている俺の様子が可笑しかったのか、ブライアンが笑い声を上げる。
いきなりのことに俺も女看守も彼の方を見る。
「悪い、悪い……モモ、そいつは今は大人しぃから武器は納めてあげな」
「……承知しました」
ひとしきり笑い終えた彼の説得によって女性、モモと呼ばれた看守が武器を下ろす。
それに安堵の息を溢しつつ、彼らの背後に『天眼』を向ける。
ドライアドに取り押さえられた方の刑法官の右手の指はそれぞれが別の方向に曲げられており、紫色に変色しており、さらに小指以外の爪が剥がされて血を流している。
そして彼の横で藁人形の幻惑をまとった刑法官が苦痛の表情で固まっている。
どちらもまだ『麻痺』の効果中だから表情さえ変えることが出来ていない。
「それでどぉした? わざわざ転移の魔道具まで使って」
「──っ?!」
ブライアンが同じ質問内容を投げかけてきた。
しかしゲートリングのことは伏せてもらえなかったために女看守が僅かに目を見開いて俺と背後のゲートを交互に見ている。
そんな彼女を無視して彼の質問に答える。
「あんたを止めにきた。なんで拷問しているんだ?」
「……情報を訊き出す。それ以外はないなぁ」
「何を訊き出すつもりなんだ?」
「坊主は憶えとるか分からないが、こいつら首長の動向を把握してた。道中は人払いしとったからどうやって知ったのか知りたいんや」
「……なるほど」
彼の拷問の理由は理解出来た。しかし目的が欠けている。
知ったあとにどうするつもりなのか、を話す気がないのだろうが、そっちはあとで交渉するとして。
「なら無駄だから今すぐ拷問を止めてくれ」
──今は阻止が優先だ。
「……悪いが無理や」
彼はふっと力を抜いたように笑って断った。
優しげな笑みだが、その裏にある諦めは隠しきれていない。もうどうにもならないと知っている者の顔だ。
そんな顔は見飽きている。その程度でこちらも諦める気はない。
「拷問の痕は今なら治癒核で治せる。止めてくれ」
「ありがとうな。でも無理や」
「……コランドさんに現状を話した。早く撤退してくれ」
「問題ない。大丈夫や」
「……このまま続けて行けばもうここに居られなくなるだろ。諦めてくれ」
「……大丈夫や」
「……あいつらはいくら痛めつけても俺の能力でしゃべれない。だから諦めてくれ」
「それでも無理や。悪いな」
何度も説得を試みるが、どれも断られてしまう。
しかしそれに対して怒りが微塵も湧かない。
「なんでそこまで続けようとするんだ? 無駄なんだぞ?」
「無駄でもやらな出来ないこともあるからな。だから続ける気や」
「そうか……」
彼の目の奥に沈んだそれは、赤の他人では簡単に剥がせそうになかった。
しかし目的達成のために手放せないその気持ちだけは、痛いほど分かる気がする。




