第十四話 標準化
イツキ達による野生環境適応化計画には
大きな計算違いがあった。
肉体的な成長期の途中で位階2に上昇すれば
ステータスの成長にも大きな影響があることを
大いに期待し、シノブに賭けていたのだが......
シノブが15歳で位階2に上昇したところ、
その影響が、想像をはるかに上回っていたのである。
シノブ15歳→18歳の3年間は
カヅチ18歳→26歳の8年間に
ひけを取らないほどだ。
シノブの訓練量だけでは説明が付かないほどだが
未踏を更新されたカヅチ自身が言うには
「それでいい......そうでなきゃな」
ということである。
カヅチの風体は本当にナカタに似てきた。
さらにシノブにとっても大きな計算違いがあった。
我が子がかわいいのだ!!!
イツキとの子はヒカリと名付けた。
現在2歳の女の子である。
その名の通り、ただ生きているだけでシノブを照らす存在だ。
『この子のためならば!』
と命の危険に立ち向かう勇気が湧き、
危機の際には『死ぬわけには!』
という底力も引き出せると確信できる。
とは言え、底力を出したところで、
死ぬことをすれば死ぬのが野生環境だ。
位階2の三人組行動を原則としているが
不意打ちや、予期せぬ群れとの遭遇で
何人もが命を落とし続けている。
己の命より子の将来が大事で、
いざという時には未来を託せる仲間がいる......
そうした共通認識により、一つの集団として
結束・連帯の力が強まるのだ。
これは理屈として理解したところで、
実感が伴わなければ信念として固まらない。
この覚悟が......命の充足感を作り出す。
前世を含めて50年にも及ぶ人生経験のうちで、
この3年が最も強く生きている実感を覚えている。
イツキに話すと
「我が子を抱く感慨を知らずに35年......想像もつかん」
などと返ってきた。
今となってはシノブ自身も、前世の人生は実感に乏しかった気がしている。
なんにせよ、15歳で位階2という夢想の仮説は現実のものとなり、
今現在は、それを標準化する事を目標とした育成基準を目指している。
「新たな水準を定める時は最大限だ」
「定着した『普通』を更新するのは並大抵のことではない」
イツキ自身もあと2年の天命を活かし切るためには
カエデに後を任せている場合ではないと、鬼教官として現役に復帰している。
いずれは熊を打倒しての位階3上昇も標準化することも目論んで
位階2上昇の際にシノブへ与えられた『気になる木の棒』は未使用で
今回の熊挑戦は計画された。
『気になる木の棒』は相棒として関係性を築かなければならぬ以上は貸し借りが出来ず、
武器の生産本数より早く子が育つ状況を考えれば、可能な限り使用しない方がよいとの判断だ。
そもそもシノブの『ぶとうか』方式に、太さと重さを重視した型式は少し合わない。
現在はシノブの要望により
【太さが直径4cm均一で長さ2m、両端30cmは僅かに太い】
という新規規格での『気になる木の棒』を育成中である。
今回は落枝の削り出しにより、この形に仕上げた棒を用いた。
武器の耐久性に若干の不安があったことが、
比較的に柔らかい腹部のみを攻撃した理由でもある。




