第十二話 かめ
野生環境に進出した当初の大きな課題は水の確保であった。
ダンジョンには休息空間があり、そこには泉も備えられていたが、
自然環境下での水辺や沢は、生物たちの狩場である。
必然的に、水汲みが必要な際に赴くのは最精鋭であった。
そんな水辺で、キトウという男が一匹のカメを見つけた。
甲長35cm、体重10kgほどの石亀である。
捕獲して食ってみようとしたが、
甲羅をいくら殴っても石の方が割れてしまう。
『防御力に極振りしたいと思います』な生命設計である。
熱で殺した後ならムスヒが解けるかも、と火にくべてみたが
多量の薪を消費した上に、死んだ後の甲羅さえ割れなかった。
煮ても焼いても食えないやつである。
そこでキトウは考えた。
棒の頭に取り付けよう。
【キトウのぼう】の誕生である。
もちろん生きている亀の方がムスヒの働きがある。
焼いた方の甲羅は打製石器用の下石に活用することとして、
次の水汲みの時に3匹ほどを捕獲してきた。
捕獲された亀たちにはいい迷惑だっただろう。
しかしある時、そのうち1匹の亀がおかしな行動を取る。
与えられた餌の肉がよほど気に入ったのか
自らの意思で棒の先端に歩み寄ったのだ。
その亀にとっては、極めて高い防御力を攻撃力に変換するための外部ユニットが人間だった。
「一狩り、行こうぜ!」
と促す声が聞こえてくるようだった、とキトウは言う。
だが、そんな亀のハンター生活も終焉を迎える日が来た。
亀が位階2に上昇し、巨大化したのである。
甲長55cm、体重50kg。
そんなものを先端に取り付けた棒など、
位階3の筋力でも、さすがに振れないのだ。
仮に振れたとしても棒の方が一撃で折れるだろう。
現在ではタマと共に子供たちの遊び相手を担う家族である。
この亀は『トイシ』と名付けられており
作業設備として多大な貢献をし続けている。
シノブにとってはタマとトイシもまた師匠である。
うさぎとかめが並んだら『地道に一歩ずつ』を思い出さざるをえまい。
なお数世代の後に、年経たトイシは再び棒の先端に取り付けられることとなる。




