第十一話 つばめ
カヅチ達が熊狩りへ出かけて二日目、陽が西に傾くころ
2人が拠点へ戻って来た。
遠目に見ただけで成し遂げたのだと分かる。
歓声など上がらぬ、静かな出迎え。
しかし全員が心のうちで歓喜している。
「成功した」
「よくやった」
まずはイツキへの報告が済み、
次いで子どもたちが憧れの目を向けて取り囲む。
心が湧き立つカヅチ劇場の開幕である。
取り立てて大きな外見の変化はないが
生命としての風格が劇的に進化したカヅチ。
そのカヅチ自身の口で語られる熊戦は
最高の英雄譚として心に刻み込まれていく。
熊肉を含めた食事の用意が整い、祝宴を終えれば、
子供たちは先に休息し、大人だけの時間である。
今回はこの場にシノブも最年少で参加している。
ナカタの見解も交えた、戦闘情報の共有である。
当事者の緊迫感と、第三者の分析を統合し、
再現性を高めるための重要な時間である。
重要な時間であるのだが。
みな、どこかソワソワしていて、普段より落ち着きがない。
カヅチ本人は貴重な生の体験を伝えようと真剣なのだが......
話の途中で、ついにカエデたちがイツキに視線で訴えた。
『そろそろいいですよね?』
『あぁ、連れて行け』
事前に話が付いていた女3人がカヅチを連れて夜の闇へと消えていく。
何が起こるかはお察しである。
シノブに対してすら、今日のカヅチには強烈な色気のようなものを感じるのだ。
「いやせめて明日からに...」
「「「いいから」」」
「よくねぇよ!」
「「「いいから」」」
遠くから何か聞こえてきた気がする。
気のせいだろう。
「位階2に......なる......何があっても......絶対に......」
隣にいる三つ年上のコノハは心の声が漏れ出していた。
獲物を定めたような空気を感じ取った。
翌朝である。
「シノブがやっている妙な動き、私にも教えなさい」
鍛練を始めたシノブにコノハが話しかけてきた。
「役に立つとは限らないよ?」
「シノブは価値を感じているのでしょう」
「可能性は大いに感じている」
「ならそれでいいわ」
......圧が、強い。
シノブの妙な動きとはラジオ体操と四股である。
全身の筋肉の動きを意識して真剣に取り組むと、
良い動作確認と筋力トレーニングになる......気がして、日課にしている。
四股を踏み始めて15分ほどでコノハは切り上げた。
やはり想像していたより、ずっときつかったそうだ。
明日も一緒にやるという事らしい。目が本気だった。
さらに5分後にやってきたのはイツキだ。
「コノハも面白いところに目を付けたな」
「普通に棒術や投擲の練習で良いと思うけどね」
「シノブから学ぼうというところに本気を感じるな」
「色恋の情熱はまだよく分からないよ......っと」
「本気で言っているのか?」
「さてね」
「全く、こればかりは困ったものだな」
「何がさ?」
「己の衝動のために生きろ、シノブ」
「......イツキが、それを言う?」
「私ほど己の衝動に一途な人間は、そういないぞ」
「みんなのために、人類の未来のために、じゃないか」
「それこそ少女の時からの個人衝動なのさ」
「......よくわからないな」
「自分の血を引く子を多く残したい、その欲よりも大きな衝動がある。そういう話だ」
「......」
「仮の話だが」
「なに?」
「3年後にはカエデも位階3となって役割を引き継ぐだろう」
「うん」
「その後には改めてもう一人の子を産みたいと考えている」
「......は?」
「もしも全てが順調に推移したなら」
「いや待って」
「その子の父親がシノブ、お前だと面白いのだがな」
「..................は?」
「鍛錬の邪魔をしたな。続けるといい」
イツキは去っていった。
それ以上の四股など踏み続けられるはずがなかった。




