第九話 修の実力! 前編
一体一を始める前にルールを決める必要がある。宮本が興奮した様子で切り出す。
「おい! 林! どんな一体一をするんだ! お前が俺をドリブルで抜くのか!?」
宮本はかなり興奮している。
「みやほん。僕はドリブルで相手を抜くような選手じゃないんだよ。前にやべっちにいてもらって、僕のパスがやべっちに通ったら僕の勝ちってルールはどう?」
「矢部はフリーで立っているのか?」
「それじゃあ勝負にならないよ。やべっちにも一人マークを付けるよ。嶺井くんにマークについてもらおうよ!」
嶺井ってヤツはサッカー部のレギュラーのディフェンダーだ。
修が言う俺たち「七人の幼なじみ」といっしょに「埼玉うなぎFC」でプレーしていた。
「おう! それでいいぞ!」
宮本はこの提案を受け入れた。宮本も嶺井がそこそこやるディフェンダーだという事は知っている。
もちろん矢部と嶺井も勝負への協力を受け入れた。
***
一体一の勝負が始まった。修は、ボールを持ち、宮本と駆け引きをする。ボールを少し右に左にと動かして宮本の出方をうかがっているようだ。
俺たちサッカーをやってる人間はそのプレーを見ているだけで、修がすごい選手だとわかる。
修は全く下を向いてボールを見ない。常に前を向いてボールを動かす。
サッカーに詳しくない人ならわからないかもしれないが、普通の選手はボールを見て動かさないと、すぐにボールが足元から離れてボールを取られてしまうものだ。
少なくとも、俺は同年代の選手でここまでボールを見ないで出来るヤツを知らない。
宮本が痺れを切らして、ボールを奪おうと利き足の右足出す!
修はまるでそれを待っていたかのように、ボールを左足から右足に持ち替える!
そして簡単に宮本をかわし、前にいる矢部にグラウンダーのパスを出す。マークについていた嶺井は全くボールに触れず矢部の利き足の左足にボールが届けられた。
修のプレーに歓声が上がる! 俺も思わず「おぉー!」と驚きの声を上げてしまう。
「みやほん。僕にこんなに簡単に抜かれるようじゃだめだよ!」
修は笑顔で宮本を煽る。宮本はというと……
「俺がこんなに簡単に……なんで……」
現実を受け入れられるようだ。拳を握りしめて、唇を噛み締めてわなわなしている。
「みやほんならもっと出来るでしょ。もう一回しよ! 次はシャツを掴んでいいからさ!」
「ああ! もう一回だ!」
フリーズしていた宮本は、ハッとして提案を受け入れる。正直この一回の勝負でも修のスゴさはわかったが、宮本にも意地がある。それに俺たちももっと修のプレーが見たい。この場に異議を唱える者はいなかった。
***
二回戦が始まった。今度は宮本が積極的にボールを取りに行く! 修は半身になってボールを取られないようにしている。
この勝負の注目ポイントは宮本がいつシャツを掴んでボールを修を倒しにいくかだ!
宮本はまだ足を出しているだけで、シャツは掴んでいない。
お互いに勝負どころを探っているように見える。勝負が始まって三十秒くらい経った時だろうか。修が少し前を向いて宮本を交わそうとする!
宮本は虚をつかれたのか修のシャツを掴んで倒そうとする!
修はバランスを崩す!
でもバランス崩しながら前に浮き球のパスを出した。修はそのパスを出した後に倒れた。
この宮本のプレーは試合なら多分ファウルを取られるだろう。
俺たちはボールを目で追いかける。矢部と嶺井はボールを追いかける! そして矢部は右足を伸ばしてトラップし、マイボールにした!
この素晴らしいパスは矢部がどこにいるかわかってないと出せないパスだろう。修は半身で前が見づらかっただろうに矢部のいるところがわかったのだろう?
「いやぁー! もっと良いパス出していたらなぁー! あれじゃゴールにならないよ」
修は起き上がりながら独り言で反省をしている……いや、パスが通ったんだから良いんじゃね?
「何であの体制でパスを通せるんだ……」
宮本はというとこんな言葉をぶつぶつ言いながら悔しがっている。
普通の選手だったらあのパスは通せない。だから自分の敗北を信じられないのだろう。
「みやほん! 二回目も僕の勝ちだね! これで僕の実力信じてくれた?」
修は宮本に勝利を告げる。宮本はというと……
「いや! 林! もう一回だ!」
宮本はまだ修に勝てるつもりでいるらしい。正直この勝負を見ている全員が、修のスゴさをわかったし、もう勝負は終わりで良いとは思うが……
「わかったよ! もう一度だけやろう! 次はタックルしてもいいからさ!」
宮本は熱くなりやすい性格だから心配だが……修が受け入れるならいいか。まだこの勝負見て見ていたいし。
ちなみにタックルとは日本的にわかりやすく言うとスライディングでボールを取りに行くことだ。
イングランドではタックルと言うので、長くロンドンでプレーした修は「タックル」と表現したのだろう。
***
三回目の勝負が始まった!
宮本は早速激しく足を出してボールを取ろうとする! 二回戦よりも激しくだ! それに修は後ろに下がり少し距離を取る!
宮本はスライディングでボールを取りに行く!
しかしこのスライディングが問題だった。
そのスライディングはボールではなく修の足を狙ったものだ。
サッカーではスライディングをする時はボールを狙わないで足を狙うとファウルを取られる。
悪質だと審判に思われるファウルでは、イエローカード。危険なスライディングならレッドカードが出される。
宮本のスライディングは明らかに悪質な、スパイクの裏を見せている危険なものだ!
試合だったらレッドカードが一発で出るレベルだ!
この場にいる全員が修が怪我をする! ヤバイ! と思った!
しかし修はそのスライディングを、ボールを少し浮かせながら同時に自分もジャンプしてかわす!
修はその後フリーの状態で前にいる、矢部に少し浮かせた速いパスを出しそれが矢部の左足に完璧に通った! そのパスを貰った矢部は無人のゴールへシュートを打ち、ボールはゴールへ吸い込まれた。
もちろん矢部には嶺井のマークがついていたし、嶺井も出来る限りの守備はしていた。
それでも完璧に通してしまった。これがガチの試合で、ゴールキーパーや他のディフェンダーはいても、
あのパスを貰えば矢部ならゴールを決めるだろう。
矢部はめちゃくちゃシュート上手いからね。
「みやほん! 今のタックルは練習でやるものじゃないよ! ヨーロッパのクラブの練習でやっちゃったら大事になるよ!」
修は笑顔で宮本に注意する! 怒ってはいないようだ。
「いや……その……」
宮本は何を言ったらいいのかわからないようだ。これに続けて笑顔で修が声をかける。
「みやほん! こういう時は謝らないとダメだよ! 悪い事したらごめんなさいしないとね!」
「林……危険なプレーをして悪かった……許してくれ……」
宮本は頭を下げて謝った。
「いいよ! 僕は謝ってくれたら許すタイプだからね。勝負は僕の勝ちだよね! これで僕がスゴイ選手だってみんなわかってくれたよね?」
修は太陽ような笑顔で宮本の謝罪を受け入れた後、その場にいる全員に問いかけた!
「林ってスゲーな!」
「林さん! 僕らに指導してください!」
サッカー部のヤツらが、修の問いかけに答える!
ここまで実力を見せつけられたら認めるしかないだろう。
サッカーの表現は頑張りました!これからもサッカーのこと勉強します。とりあえずダゾーン入りました!
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