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理想のおうち ***まやかしのお家に満足かな?***  作者: Fos B


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4軒目:【理想のひみつ基地】

世間には、1つの都市伝説がある。「理想のおうちが手に入る」というものだ。

ただし、そこには厳格な条件がある。

そこにたどり着くためには、まず全財産を現金で集めなければならない。もしくは、スマホのインターネットバンキングですぐに入金できるよう、アプリを開いておくこと。

そして和紙に、自分の理想の家の間取り図、条件、好みのもの、欲しいものを全て書き込む。可能ならば具体的な絵や写真も添えて、和紙の封筒にそれらを全て入れ、手に持っていなければならない。

お金や自分が大切に思っているものをスーツケースに入れてもいい。だが、スーツケースの大きさは決まっていないが、色だけは「金色」か「銀色」と決められており、荷物の多い人は両方持ち込んでも良いとされている。

その場所は、ある山奥の中にある洞窟の前。

しかし、そこにたどり着く前に、麓の村からその山への入山ルートは普段完全に封鎖されている。厳格に守られた山であり、足を踏み入れることができるのは限られた者だけ。山道を整備するのも年に一度、決まった日に決まった人が入るような、それほど厳しい条件なのだ。

どうしても「理想のおうち」が欲しい者は、満月の夜、特定の条件が揃えた日に指定の品を持ち、さらに「自分の命を差し出しても構わない」という覚悟を持ってその場所に立つ。すると、洞窟までの山道が不思議と開かれ、通れるようになるという。

彼は、小ぶりの銀色のスーツケースを持って山道を登ってきた。

小ぶりのわりには重いようで、息が上がっている。片方の手にはスマートフォンと、飲み物、和紙の分厚い封筒が入ったコンビニ袋を持っていた。

やっと山を登り、洞窟の前に立った。その顔は歪み、笑顔が引き攣っている。彼はボソボソと「もうすぐだ。もうすぐ会える」と何やら呟いていた。

そして銀色のスーツケースをパカリと開けた。その中には、びっしりと1万円札が入っていた。満月の明かりがスーツケースを包み込むと、フッと、スーツケースと1万円札が綺麗に消えていた。

その途端、洞窟の入り口に、錆びたプレハブ小屋の扉が現れた。

彼はニヤッと笑って、その扉に手をかけた。

僕は子供の頃、とても体が弱かった。

しばらく両親と離れて、祖母のもとに預けられ、「空気が綺麗なところでしばらく療養したほうがいい」という医者のアドバイスに従ってのことだった。

祖母はとても可愛がってくれたが、やはり実の母親にはかなわず、僕はとても寂しかった。少しずつ体が丈夫になると、僕は1人で祖父母の家の周りを探検し始めた。そして、森の奥で朽ちかけのプレハブ小屋を見つけた。

僕はそこに入ってみた。誰も使っている様子がなかったので「秘密基地にしよう」と考え、毎日そこで過ごすようになった。

ある日、僕が1人で秘密基地の中で持参した本を読んでいると、入り口のところがガタッと音がした。そちらに顔を向けると、同じくらいの歳に見える女の子が立っていた。

その女の子は「なんだ、先客がいたんだ」と言って、ズカズカと僕の秘密基地に入ってきた。そして周りを見渡し、「ヘェー、随分快適になってるね」と言った。

僕があっけにとられていると、彼女は僕の隣に座り、「君、毎日来て来るの?」と聞いた。僕が頷くと、「じゃあ、私も毎日来ることにしようっと」と勝手に決めてしまった。

それから、毎日彼女と過ごすようになった。何を話すわけでもなく、本を読んだり、たまに持ってきたおやつを食べたりという、たわいないおしゃべりをした。そうやって静かな時を過ごしていた。

夏の間中ずっと一緒に過ごしたが、やがて彼女がこう言った。

「私、引っ越すことになったから、もう来られないんだ。せっかく仲良くなれて楽しかったのにね。ねぇねぇ、寂しいからさ、10年経ったら今日と同じ日にこの場所に来ない? 時間はそうね、お昼がいいわよね」

僕は「わかった、絶対約束だよ」と言い、2人で指切りをした。

そして以前2人で飲んだラムネの瓶のビー玉をそれぞれ持って、「これ忘れないように、お互いの宝物にしようね」と言って別れた。

やがて僕は体が丈夫になり、田舎の祖父母の家から元の家へと帰った。

それからいつしか日々が過ぎていったが、その間も僕は彼女のことを毎日のように思い出し、ビー玉を眺めていた。

そして、10年が経ったある日。もう祖父母は亡くなり、あの約束の秘密基地があった場所を訪れたが、プレハブ小屋はもうとっくに朽ち果て、錆びた建物の残骸が積み上がっているだけで、何もなくなっていた。

僕は10年後のその日の1日前から心配で、ずっとそこに立っていた。しかし、その日になっても彼女は来ず、次の日まで待ったが来なかった。

その次の年も、その次の年も行ってみたが、彼女は全く来なかった。

「もしかして、あの彼女は幻だったのかな……子供の頃の1人遊びのイマジナリーフレンドだったのかな?」と思いながらも、ビー玉を見て、「いや、彼女は絶対いたはずだ」と思うようになった。「彼女に何かがあったのだろうか……あんなに固く約束したのに……」

そしてまた月日が流れて、僕はすっかり人間嫌いになっていた。

人間嫌いでも、働かなくては生きていけない。ストレスを抱えながらも懸命に働き、給料日に月1回だけ、少しでも人に慣れようと思ってキャバクラに通うようになった。

1時間制のお店で、ただ女の子が勝手にしゃべるのを頷きながら聞いていた。それが当時の僕にとって一番楽だった。1時間経つとすぐ店を出て、次はまた違うお店に行くという感じで、1つのお店に執着することもなく、月に1度のちょっとした息抜きとして通っていた。

ある日、転機が訪れた。

なんとなく入ったお店で席に座りボーッとしていると、1人の女の子が僕の横に座った。

彼女は源氏名を告げたが、聞き覚えのない名前だった。けれども、どこかで見たことがある。知っているような気がした。

じっと見ていると、彼女が「なに?」とちょっと怪訝そうな顔をした。でも、その目の涼やかさが、あの秘密基地の彼女と重なって見えた。

「もしかして……」と思いながら、昔のあだ名のようなもので声をかけると、彼女がギョッとした顔をした。

「誰? なんでそれを……」と驚いて聞くので、僕は15年前の秘密基地での話をした。

彼女はあまり覚えてなさそうな顔をしたが、僕は一生懸命説明した。それでも思い出さないというので、僕はいつも肌身離さず持っていたビー玉を見せて説明した。

すると彼女は大笑いしながら、「それって、かなりキモいんですけど」と、露骨に嫌そうな顔をした。

そして、僕が「約束通り10年後に行ったのに、なんで来なかったの?」と聞くと、彼女は「とっくに忘れてるし! そんなの覚えてるわけないじゃん」と吐き捨てた。

僕が「この後時間ある? 話したいんだ」と言うと、彼女は「今日は無理無理、私アフター入ってるから」と言った。

僕が「そんなの、倍のお金払うからいいじゃないか」と言うと、彼女は呆れたようにこう言った。

「ほら、あそこのおじさんいるじゃん? あの人、太客でいろんなもの買ってくれるし、お金もいっぱい落としていってくれんのよ。この後あの人と食事行くから、無理無理!」

僕は愕然とした。「なんであんないかにも中年のおじさんと行くんだよ!」と言うと、彼女は冷たく言い放った。

「あんた何言ってんの? 世の中全部金だよ。金のためなら私、なんだってするよ」

彼女がそう言った。

――なんでそんなふうになってしまったんだよ。あんなに純粋で清らかだったじゃないか。離れている間に、いったい何があったんだよ。

信じたくなくて、僕はつい彼女の腕を掴んでしまった。

すると彼女は手を挙げて黒服を呼んだ。

「ねえ、ちょっとこのお客さんキモいんだけど……腕なんか掴まれちゃって、無理やりアフターに誘おうとしてくるの。いつもの常連さんが待ってるのに、もう追い返してよ、怖いんだけど……!」

その声に、もう1人の黒服も駆けつけて、僕は両側から挟み込まれた。

「お客様、今のうちに外に出ていただけませんかね」と低い声で言われ、僕は2人に挟まれて出口へと押し出されていった。

店から出される間際、振り返ると――彼女はさっそく太客の男のところに行き、「もう、なんか変な客に絡まれちゃって怖いんだけど〜」とベタベタと甘えながら、こちらを一切見ようともしなかった。

その日から、僕は何もやる気が起きなくなった。

仕事でミスをすることも多くなり、上司に注意される日々が続いた。

そんな時、以前通っていたキャバクラで、別の女の子が一方的に話していた都市伝説の噂を思い出した。

――『理想のおうち』というものがある。

僕はもう、あの子供の頃に帰りたくてしょうがなかった。

すべてがどうでもよくなり、仕事を辞めた。わずかばかりの退職金と、今まで少しずつ貯めてきた貯金をすべて下ろし、会社の寮からも出て、あのビー玉以外は全部ゴミとして捨てた。

そして、ネットカフェに泊まりながら『理想のおうち』について徹底的に調べ上げ、とうとうあの条件を満たす日を迎えたのだ。

僕がボロボロのプレハブ小屋の扉を開けると、そこはあの頃のままの空間だった。

古いタイヤが夏の暑さでいやな匂いを放っているし、吹き抜けてくる風もあの日のままだ。内装も、僕が子供の頃に整えた当時のままになっていた。

「よく冷えたラムネも置いてある……」

そして、使い古されたタイヤの上に座っていたのは、子供の頃の、あの日と変わらない無垢な姿の彼女だった。

彼女の顔はニコニコと僕のことを見つめている。

そして、僕自身の体も、あの頃の子供の姿に戻っていた。

僕は彼女に向かって、嬉しそうに駆け寄った。

「あの頃のままの姿だね。心も清らかで、あんな金の亡者みたいに汚れてないまんまだね。僕はとっても幸せだよ。これから永遠に、この夏の秘密基地の中に一緒にいようね。ほら、ビー玉持ってきたよ」

数日後、SNSの動画サイトが大騒ぎになっていた。

ある地方のキャバクラで、1人の人気キャバ嬢が、防犯カメラの前で、突然みんなの前から忽然と「姿を消した」瞬間を捉えた動画だった。

その動画は大バズりを引き起こし、「あれは完全なフェイク動画だ」「いや、リアルの失踪事件だ」と、ネットの海でいつまでも激しく議論され続けていた。

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